伯耆公御房消息  弘安五年二月二五日  六一歳

 

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 御布施御馬一疋鹿毛御見参に入らしめ候ひ了んぬ。
 兼ねて又此の経文は廿八字、法華経の七の巻薬王品の文にて候。然るに聖人の御乳母の、ひと()ゝせ()御所労御大事にならせ給ひ候て、やがて死なせ給ひて候ひし時、此の経文をあそばし候て、浄水をもってまいらせさせ給ひて候ひしかば、時をかへずいきかへらせ給ひて候経文なり。なんでうの七郎次郎時光は身はちいさきものなれども、日蓮に御こゝろざしふかきものなり。たとい定業なりとも今度ばかりえん()()わう()たすけさせ給へと御せいぐ
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 お布施として頂いた栗毛の馬一頭、確かにこの目で見ました。
 それから、(お送りする)この経文二十八文字は法華経の第7巻の「薬王品」の文章です。
 実は私の母が、一年の間病気を患い、危篤になり、息を引き取った時に、この経文を燃やして清らかな水に溶かして飲ませたところ、たちどころに生き返ったという経文です。
 南条時光殿は、体は小さいけれど、日蓮への信心は実に深いお方です。たとえこの病が死病であるとしても、今度だけは閻魔大王よ、助けてやってください、と誓願しています。
わん候。明日(とら)()(たつ)の刻にしやう()()がは()の水とりよせさせ給ひ候て、このきやうもんをはい()にやきて、水一合に入れまいらせ候てまいらせさせ給ふべく候。恐々謹言。
  二月廿五日    日朗 花押
 謹上 はわき公御房
   明日の寅卯辰の刻に精進川の水を汲んで、この経文を燃やして灰にし、一合の水に溶かして、南条殿に飲ませてあげてください。恐々謹言。
  二月二十五日    日朗 花押
 謹上 はわき公御房