上野殿御返事  弘安四年九月二〇日  六〇歳

時国相応御書

 

(★1570㌻)
 いゑ()いも()一駄・()ばう()づと()・大根六本。いもは石のごとし、()ばう()は大牛の(つの)のごとし。大根は大仏堂の大くぎのごとし。あぢわひは忉利天(とうりてん)(かん)()のごとし。石を(こがね)にかうる国もあり、土をこめ()にうるところもあり。千金の金をもてる者もうえ()てしぬ、一飯をつと()につゝめる者にこれをと()れり。経に云はく「()えたる()にはよね()たっと()し」云云。一切の事は国により時による事なり。仏法は此の道理をわきまうべきにて候。又々申すべし。恐々謹言。
  弘安四年九月廿日    日蓮 花押
 上野殿御返事
 
 里芋一駄、ゴボウ一(つと)、大根六本をいただいた。
 芋は石のようであり、ゴボウは大牛の角のようであり、大根は大仏堂の大釘のようである。その味は忉利天の甘露のようである。
 石を金に換える国もあり、土を代金に米を売る所もある。千金の金を持っている者も飢えて死ぬ。これは一食の飯を苞に包んだ者に劣る。経には「飢えた世には、米は貴重である」とある。一切の事は国により、時によるのである。仏法を行ずる者は、この道理をわきまえるべきである。またまた、申し上げよう。恐々謹言。
  弘安四年九月廿日    日蓮 花押
 上野殿御返事