大尼御前御返事  弘安三年九月二〇日  五九歳

 

 

(★1497㌻)
 ごくそつえんま王の長は十丁ばかり、面はすをさし、眼は日月のごとく、歯はまんぐわの子のやうに、くぶしは大石のごとく、大地は舟を海にうかべたるやうにうごき、声はらいのごとくはたはたとなりわたらむには、よも南無妙法蓮華経とはをほせ候はじ。日蓮が弟子にてはをはせず。よくよく内をしたゝめて、をほせをかほり候はん。なづきをわり、みをせめていのりてみ候はん。たゞさきのいのりとをぼしめせ。これより後はのちの事をよくよく御かため候へ。恐々謹言。
  九月二十日          日蓮在御判
 大尼御前御返事
 
 獄卒や閻魔王の身の長さは十丁ほどで、顔面は朱を注いだようで、眼は日月のように、歯は馬鍬の根元のようで、拳は大石のようである。彼等が歩くと大地は舟を海に浮かべたように動き、彼らの声は雷のようであり、はたはたと鳴りわたる。彼らに責められた時には、よもや南無妙法蓮華経と仰せになれないだろう。大尼御前は現在は日蓮の弟子ではない。それ故、あなたの心の内をよくよくしたためて、仰せを承ることにしましょう。もしほんとうに法華経を信じられるならば、頭を破り、身を責めて祈ってみよう。しかしそれは、ただ、これからさきの祈りと思いなさい。これより後は、後生の事をよくよくかためられることが肝要であろう。恐恐。
  九月二十日          日蓮在御判
 大尼御前御返事