上野殿御返事  弘安三年八月二六日  五九歳

子宝書

 

(★1494㌻)
 女子(おなご)は門をひら()く、男子は家を()ぐ。日本国を知りても子なくば誰にか()がすべき。(たから)を大千に()てゝも子なくば誰にかゆづ()るべき。されば外典三千余巻には子ある人を長者といふ。内典五千余巻には子なき人を貧人といふ。女子一人、男子一人、たとへば天には日月のごとし。地には東西にかたどれり。鳥の二つのはね()、車の二つの()なり。さればこの男子をば()(わか)御前と申させ給へ。くは()しくは又々申すべし。
  八月二十六日    日蓮 花押
 上野殿御返事
 
 女子は(他家に嫁ぎ)家門を開き、男子は家を継ぐものである。日本国を治める身となっても子がなければ誰に継がせたらいいか。財宝を三千大千世界に満ちるほど得ることができたとしても、子がなければ誰に譲ることができようか。それゆえに、外典三千余巻には子ある人を長者といい、内典五千余巻には子のない人を貧人と説かれている。
 女子一人、男子一人の子持ちである。たとへば、天に日月、地には東西があるように、また鳥に二つの羽、車に両輪があるようなものである。そこで、この男子を日若御前と呼ばれるがよい。詳しくはまた申し上げる。
  八月二十六日    日蓮 花押
 上野殿御返事