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(★1407㌻) 先度強敵と |
さきごろ強敵と争いのあったことについてお手紙をいただき、くわしく拝見いたしました。 |
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| さてもさても敵人に |
それにしても、以前から、あなたは敵人にねらわれていたのでしょう。しかし、普段からの用心といい、また勇気といい、また法華経への信心が強盛な故に、無事に存命されたことは、このうえもなくめでたいことである。 | |
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いったい、福運がなくなってしまえば、兵法も役に立たなくなり、また果報が尽きてしまえば、家来も従わなくなるのである。結局、福運と果報が残っていたからである。 | |
| ことに法華経の行者をば諸天善神守護すべきよし、嘱累品にして |
ことに法華経の行者に対しては、諸天善神が守護すると、法華経属累品第二十二で誓いをたてている。一切の守護神・諸天善神の中でもわれわれの眼に、はっきりとその姿が見えて守護するのは、日天と月天である。それ故どうしてこの諸天善神の守護を信じないでいられようか。 | |
| ことにことに日天の前に |
とくに、日天の前には摩利支天がいる。主君の日天が法華経の行者を守護するのに、家来の摩利支天尊が法華経の行者を見捨てることがあるだろうか。法華経序品第一の時に「名月天子・普光天子・宝光天子・四大天王有り、其の眷属万の天子と倶なり」とあるように、諸天善神は、皆列座した。摩利支天は、そこに列座した三万天子の中に入っているはずである。もしその三万天子の中にいなければ地獄に堕ちているであろう。 | |
| 今度の大事は此の天の |
結局、この度あなたが強敵からのがれられたのは、この摩利支天の守護によるものではなかろうか。摩利支天はあなたに剣形の大事を与え、守護したのである。この日蓮は、一切の諸天善神の守るべき首題の五字をあなたに授ける。法華経受持の者を守護することは断じて疑いない。摩利支天自身も法華経を持って一切衆生をたすけるのである。剣形兵法の呪文である「兵闘に臨む者は皆陣列して前に在り」の文も結局、法華経より出たものである。法華経法師功徳品第十九に、「若し俗間の経書、治世の語言、資生の業等を説かんも、皆正法に順ぜん」とあるのはこの意である。 |
| これにつけてもいよいよ強盛に大信力をいだし給へ。我が運命つきて、諸天守護なしとうらむる事あるべからず。将門はつはものゝ名をとり、兵法の大事をきはめたり。されども王命には (★1408㌻) るべからず。兵法剣形の大事も此の妙法より出でたり。ふかく信心をとり給へ。あへて臆病にては叶ふべからず候。恐々謹言。 十月二十三日 日蓮 花押 四条金吾殿御返事 |
これにつけても、いよいよ妙法に対して強盛な大信力を出していきなさい。自分の福運が尽きて、諸天善神の守護がないと恨むようなことがあってはいけない。 平将門は、武将としての名を高め兵法の大事をきわめていたが、朝廷の命令には負けてしまった。樊噲や張良のような中国の武将の力も決局かいがなかった。ただ根本は心が大切なのである。 日蓮がいかにあなたのことを祈ったとしても、あなた自身がこの仏法を信じなければ、濡れた火口に火を打ちかけるようなもので無駄になってしまう。 したがって、なお一層、自分自身を励まして、強盛な信力を出していきなさい。過日、強敵にあいながら、無事に助かったことは、全く御本尊の不思議な功力と思いなさい。いかなる兵法よりも法華経の信心を用いていきなさい。法華経薬王品第二十三の「諸の余の怨敵、皆悉く摧滅す」とある金言は決して空しくないであろう。兵法剣形の大事もこの妙法より出たのである。このことを深く信じていきなさい。あえて臆病では何事も叶わないのである。恐恐謹言。 十月二十三日 日蓮花押 四条金吾殿御返事 |