孝子御書 弘安二年二月二八日 五八歳

 

(★1353㌻)
 ()(しん)()逝去(せいきょ)の由、風聞(まこと)にてや候らん。貴辺と大夫(たいふの)(さかん)の御事は、()末法に入って生を辺土にうけ、法華の大法を御信用候へば、悪鬼定めて国主と父母等の御身に入りかわり(あだ)をなさん事疑ひなかるべきところに、案にたが()ふ事なく親父より度々の御かんどう(勘当)かうほ()らせ給ひしかども、兄弟ともに浄蔵・浄眼の後身か、将又(はたまた)薬王・薬上の御計らひかのゆへに、ついに事ゆへなく親父の御かん()()()りさせ給ひて、(さき)に立てまいらせし御孝養、心にまか()せさせ給ひぬるは、あに孝子にあらずや。定めて天よりも悦びをあたへ、法華経・(じゅう)()(せつ)も御納受あるべ
(★1354㌻)
し。其の上貴辺の御事は心の内に感じをもう事候。此の法門経のごとくひろまり候わば御悦び申し候べし。穴賢穴賢。兄弟の御中不和にわたらせ給ふべからず、不和にわたらせ給ふべからず。大夫(さかん)殿の御文にくはしくかきて候。きこしめすべし。恐々謹言。
  二月廿八日    日蓮花押
 
 御親父御逝去とのこと、うわさは事実でしょうか。
 あなた((ひょう)(えの)(さかん))と兄大夫志殿のことは、世は末法に入って、しかも生を辺土日本にうけて、法華の大法すなわち大御本尊を信心されたのであるから、悪鬼が必ず国主と父母等の身に入り代わって、あなたがた兄弟に怨をなすことは疑いないところだったが、案に相違することなく、御親父よりたびたびの御勘当を蒙ったけれども、兄弟ともに妙荘厳王を仏法に帰依させた浄蔵・浄眼の後身か、はたまた薬王菩薩・薬上菩薩の御計らいのゆえであろうか、ついに無事に御親父の御勘気もゆるされて、以前に尽くしていたように御孝養心にまかせて、御親父につくすことができたのは、真実の孝子ではないか。定めし、諸天も喜びを与え、御本尊もその志を納受されるであろう。
 その上、あなたの事については、心の内に深く感じ思うことがある。この法門すなわち三大秘法が法華経に予言されているがごとく弘まっていくならば、あなたにお悦びを申すであろう。あなかしこ、あなかしこ。
 あなたがた兄弟の仲は、決して不和であってはならない。兄大夫殿への手紙にくわしく書いておいたから、よくよく聞きなさい。恐恐謹言。
  弘安二年二月二十八日    日蓮花押