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(★1288㌻) いゑの |
里芋一駄、柑子蜜柑一籠、銭六百文のかわりに御座の莚十枚を頂戴した。 去年から今年にかけて大疫病がこの国に流行して、人の死ぬことは大風で木が倒れ、大雪で草が折られるようなもので、ひとりも生き残れるとは思えなかった。しかし、今年の気候は順調で、寒温は時にしたがって、五穀は田畠に満ち、草木は野山に生い繁って、尭舜の時代のように、成劫の初めのように見えていたのに、八月・九月の大雨や大風で、日本国全体が不作となり、残った万民は冬を過ごし難い。これは、去る寛喜・正嘉の天災にも超え、将来にくる三災にも劣らないであろう。 内乱が起こって盗賊が国に満ち、他国が襲って来て、合戦に費やしている。人の心は不孝になって、父母を見るのに他人のようであり、僧や尼は邪見になって、犬と猿が出あったようである。慈悲心がないから諸天も此の国を守らず、邪見であるから三宝にも捨てられたのである。 |
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| 又 かゝる (★1289㌻) 申すべし。恐々謹言。 上野殿御返事 |
また疫病も一時は止んだように見えたけれども、鬼神がかえってきて入ったのであろうか、北国も東国も西国も南国も一同に疫病をわずらい、嘆いていると聞いている。このような世に、どのような過去の因縁であろうか。法華経の行者を供養されたということは、ありがたいことである。ありがたいことである。 詳しいことは、お目にかかった時に申し上げよう。恐々謹言。 後十月十二日 日蓮 花押 上野殿御返事 |