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(★1244㌻) しなじなの |
種々の物を、お送りいただき、法華経の御宝前にお供えした。 さて、日本国の人々を皆養うよりも、父母一人を養うほうが功徳は優れている。日本国のすべての人を殺しても、七大地獄に堕ちるだけであるが、父母を殺す人は第八の無間地獄という地獄に堕ちる。父母を殺し、釈迦仏の御身に傷をつけ、血を出させた人は、父母を殺した罪では無間地獄に堕ちないが、仏の御身より血を出させた罪で無間地獄に堕ちるのである。 |
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又十悪・五逆をつくり、十方三世の仏の身よりちをいだせる人の法華経の御かたきとなれるは、 (★1245㌻) 十悪・五逆、十方の仏の御身よりちをいだせるつみにては |
また、十悪・五逆罪を作り、十方・三世の仏の身から血を出させた人が、法華経の敵となった場合、十悪・五逆罪や十方の仏の身から血を出させた罪では阿鼻地獄に入ることはない。ただ法華経不信の大罪によって無間地獄に堕ちるのである。 | |
| 又十悪・五逆を日々につくり十方の諸仏を月々にばうずる人と、十悪・五逆を日々につくらず十方の諸仏を月々に |
また、十悪・五逆罪を日日に作り、十方の諸仏を月月に謗ずる人と、十悪・五逆を日日に作らず、十方の諸仏を月月に謗じない人とではその善悪は大いに異なっているけれども、法華経に一字一点も背くならば、必ず同じように無間地獄に入るのである。 |
| しかれば |
そこで、今の世の漁師や狩人で、日々に魚や鹿等を殺している人や、源家・平家等の武士等で、年々にの合戦をしている人々は、父母を殺さないので、おそらく無間地獄には入らないであろう。機会があれば、法華経を信じて仏になる人もいるであろう。それに対し、今の天台宗延暦寺の座主・東寺・仁和寺・七大寺の検校・三井寺の長吏等の真言師・ならびに禅宗・念仏者・律宗等の人は、表面的には法華経を信じ、読誦しているようであっても、その根本を究めるならば、弘法大師・慈覚大師・智証大師・善導・法然等の弟子である。 | |
| 源 |
源が濁れば流れは清くない。天が曇れば地は暗い。父母が謀反をおこせば、妻子は亡ぶ。山が崩れれば草木は倒れる道理であるから、日本六十六ヵ国の比丘・比丘尼等の善人等は、皆無間地獄に堕ちるであろう。だから、今の世に地獄に堕ちる者は、悪人よりも善人・善人よりも僧尼・僧尼よりも持戒で智慧のある人々が阿鼻地獄へ堕ちるのである。 |
| 此の法門は当世日本国に一人も |
この法門は、今の日本国では一人も知っている人はいない。ただ日蓮一人ばかりであるので、これを知って言わなければ、日蓮は無間地獄に堕ちて浮かぶ時もないであろう。たとえば、謀反の者を知りながら国主へ言わなければ罪となるようなものである。これを言うならば敵は雨のように風のように襲ってくる。謀叛の者のように、海賊・山賊の者のように憎まれる。いずれにしても忍び難いことである。例えば、威音王仏の末の不軽菩薩のようであり、歓喜仏の末の覚徳比丘のようである。天台大師、伝教大師のようである。また、これらの人々よりも敵ははるかに勝っている。これらの人々は、諸人に憎まれたけれども、まだ国主に怨まれてはいない。日蓮は、諸人よりは国主に怨まれること、父母の敵にも過ぎているのは、見られるとおりである。 |
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(★1246㌻) かゝる 七月七日 日 蓮 花押 御返事 |
このような不思議な者を不憫と思って御供養くだされた貴殿は、日蓮の過去の父母であろうか。または過去世からの因縁であろうか。いずれにしても、浅い因縁ではないであろう。 そのうえ、雨が降り、風が吹き、人が制止する時にこそ、志はあらわれるものである。今、貴殿が種々の物をお送りくださったこともまた同じである。平穏な時でさえ、駿河と甲斐との境は、山が高く、河は深く、石は多く、道は狭い。まして、今は、豪雨が三ヵ月も降り続き、河は増水して九十日、山は崩れ、道は塞がり、人も通わず、食糧も絶えて、命もこれまでというときに、この種々の物をお送りくださり、法華経の御声も継ぎ、釈迦仏の御命をも助けられたのである。その功徳は計り知れないものがある。くわしくはまた申し上げよう。恐恐謹言。 七月七日 日 蓮 花押 御返事 |