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(★1073㌻) 日蓮 花押 松野殿 |
むかし、釈迦が過去世において因位の修行をしていたときのことである。珊提嵐国という国があった。その国に大王がおり、名を無諍念王といった。その王に千人の王子がいた。また、王の第一の大臣を宝海梵志といい、その梵志に子がいて、名を法蔵といった。 ところで無諍念王の千人の太子はみな、この娑婆世界を嫌って捨て去り、浄土を求めたのである。そのわけは、この娑婆世界はどんなところであるかといえば、十方の国土で、父母を殺し、正法を誹謗し、聖人を殺した者がそれぞれの国からこの娑婆世界へ追いやられてきて住むところだからである。たとえば、この日本国の人は、大罪を犯した者が牢獄に入れられているようなものである。それゆえ、自分の力ではおよばないので、千人の太子は憐れみをかけずに、穢土を捨ててしまわれたのである。ところが、宝海梵志一人がこの難事をひきうけて、娑婆世界の人々の導師となられた。宝海梵志の願いにいうには「我は未来世の悪穢土の中において、必ず成仏するであろう。そのときには、十方浄土から追い出された衆生を集めて、必ず、これらの衆生を成仏へ導く」と誓われた。このときの無諍念王と申すは阿弥陀仏でり、その千人の太子とは今の観音・勢至・普賢。文殊等である。また宝海梵志というのは今の釈迦如来である。この娑婆世界の一切の衆生は悪心強盛で、十方の諸仏から抜き捨てられたのを、釈迦仏がただ一人だけで、これらの衆生を仏道に導くことを扶けられたのである。このことを法華経譬喩品には「唯我れ一人のみ能く救護を為す」と説かれているのである。 日蓮 花押 松野殿 |