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(★1043㌻) いゑの芋一駄送り給び候。 (★1044㌻) |
里芋一駄、お送っていただいた。 崑崙山という山には、宝石だけがあって石がない。石が少ないので宝石をもって石を買う。彭蠡浜という湖の入江には木草がない。 魚をもって薪を買う。鼻に病気がある者にとっては、栴檀香は用をなさない。眼のない者にとっては、曇りのない鏡も何の役に立とう。 |
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此の身延の沢と申す処は甲斐国波木井の郷の内の深山なり。西には |
この身延の沢という処は、甲斐国の波木井の郷の内の深山である。西には七面のがれという嶽があり、東は天子の嶽、南は鷹取の嶽、北は身延の嶽、四つの山の中に 囲まれたなかに深い谷がり、箱の底のようである。峰は巴峡の猿の鳴き声がやかましい。谷には川の水をせき止める程大きい石が多い。 | |
| 然れども、 建治 九月十五日 日蓮 花押 九郎太郎殿御返事 |
しかしながら、駿河の芋のような石は一つもない。芋の貴重な事、暗い夜の灯にも過ぎ、のどの渇いたときの水にすぎるほどである。どうして、珍しくないものなどと言われるのであろう。ということは、そちらには多くあるからであろうか。ああ悲しいことである。法華経・釈迦仏にお譲り申し上げた。きっと、仏は御志をおきめられて御悦びである。霊山浄土へ行かれたときに尋ねられるがよい。恐々謹言。 建治 九月十五日 日 蓮 花押 九郎太郎殿御返事 |