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(★902㌻) 一、 |
わざわざお使いの人をよこされたことをありがたく思う。その使いの報告では、館を建てられるとのこと。めでたいことである。何かお伺いして、新築落成のお祝いを申し上げたいと思っている。 一つに棟札のことについては承知した。書いて、この伯耆公に持たせてある。この経文は次のようないわれがある。須達長者は祇園精舎を造った人である。ところが、どういう因縁によるのであろうか。須達長者は七度まで火災にあったことがある。その時、長者がこのわけを仏に質問した。仏は答えて「あなたの一族は貪欲が深いが故に、この火災の難が起こるのである」と仰せられた。長者は「はてさて、どうのようにしてこの火災の難を防ぐことができるのでしょうか」と問うた。 |
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仏の |
仏のいわく「南東の方から兆があるであろう。あなたは、ひたすら身を清め心を慎んで、その方向に向かいなさい。その方向から光が射すならば、鬼神が三人やって来ていうであろう。すなわち、南海に、ある鳥がいる。鳴忿と名づけられている。この鳥の住む所に火災はない。また、この鳥は一つの文を唱えるであろう。その文は『諸聖の主で天中の天よ、迦陵頻伽声の声をもって衆生を哀れみ情けをかける者よ、我等は今、尊敬礼拝する』等というものである。この文を唱えるときには、必ず三十万里の内には火災が起こらない、と。この三人の鬼神は、このように告げるであろう」と仰せられた。 | |
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須達、仏の仰せの如くせしかば少しもちがはず候ひき。其の後火災なきと見えて候。これに依りて滅後末代にいたるまで、此の経文を書きて火災をやめ候。今以てかくの如くなるべく候。返す返す信じ給ふべき経文なり。是は法華経の第三の巻 八月十八日 日蓮 花押 上野殿御返事 |
須達長者が仏の仰せのとおりしたところ、少しも違うことはなかった。その後、火災はなかったと記されている。このことによって釈尊滅後、末代にいたるまで、この経文を書いて火災を防止したのである。今の場合でも、同様になるであろう。くれぐれも信ずべき経文である。これは法華経の第三巻の化城喩品第七に説かれている。詳しくは、この御房に言い含めてある。 八月十八日 日蓮 花押 上野殿御返事 |