富木殿御書  文永一一年五月一七日  五三歳

道中御書

 

(★730㌻)
 けかち申すばかりなし。米一合もうらず。がししぬべし。此の御房たちもみなかへして但一人候べし。このよしを御房たちにもかたらせ給へ。
 十二日さかわ、十三日たけのした、十四日くるまがへし、十五日をゝみや、十六日なんぶ、十七日このところ。いまださだまらずといえども、たいしはこの山中心中に叶ひて候へば、しばらくは候はんずらむ。結句は一人になて日本国に流浪すべきみにて候。又たちとゞまるみならばげざんに入り候べし。恐々謹言。
 十七日        日蓮 花押
 ときどの
 
 飢えは言いようもないほどである。米は一合も売ってくれない。餓死してしまうことであろう。この御房達もみな帰して、ただ一人いることにしよう。この事情を御房達に語らせて、お聞きいただきたい。
 十二日に酒匂、十三日に竹之下、十四日に車返、十五日に大宮、十六日に南部、十七日にここまで着いた。まだ定まらないけれどおも、おおむねこの身延の山中は心にかなっているので、しばらくは居ることであろう。結句は一人になって日本国を流浪するであろう身である。また、もしとどまる身ならば、お目にかかりたいものである。恐恐謹言。
 十七日        日蓮在御判
 ときどの