妙法蓮華経従地涌出品第十五

407
爾時他方国土。諸来菩薩摩訶薩。    爾の時に他方の国土の、諸の来れる菩薩摩訶薩の、
過八恒河沙数。於大衆中。       八恒河沙の数に過ぎたる、大衆の中に於て、
起立合掌作礼。而白仏言。       起立合掌し礼を作して、仏に白して言さく、
世尊。若聴我等。於仏滅後。       世尊、若し我等、仏の滅後に於て、
在此娑婆世界。勤加精進。        此の娑婆世界に在って、勤加精進して、
護持読誦。書写供養。是経典者。     是の経典を護持し、読誦し、書写し、供養せんことを聴したまわば、
当於此土。而広説之。          当に此の土に於て、広く之を説きたてまつるべし。
爾時仏告。諸菩薩摩訶薩衆。      爾の時に仏、諸の菩薩摩訶薩衆に告げたまわく、

408
止。善男子。不須汝等。護持此経。    止みね、善男子。汝等が此の経を護持せんことを須いじ。
所以者何。我娑婆世界。         所以は何ん。我が娑婆世界に、
自有六万。恒河沙等。菩薩摩訶薩。    自ら六万恒河沙等の菩薩摩訶薩有り。
一一菩薩。各有六万。恒河沙眷属。    一一の菩薩に各六万恒河沙の眷属有り。
是諸人等。能於我滅後。         是の諸人等、能く我が滅後に於て、
護持読誦。広説此経。          護持し、読誦し、広く此の経を説かん。
仏説是時。娑婆世界。三千大千国土。  仏、是を説きたもう時、娑婆世界の三千大千の国土、
地皆震裂。而於其中。有無量千万億。  地皆震裂して、其の中より、無量千万億の
菩薩摩訶薩。同時涌出。是諸菩薩。   菩薩摩訶薩有って、同時に涌出せり。是の諸の菩薩は、
身皆金色。三十二相。無量光明。    身皆金色にして、三十二相、無量の光明あり。
先尽在。娑婆世界之下。        先より尽く娑婆世界の下、
此界虚空中住。是諸菩薩。       此の界の虚空の中に在って住せり。是の諸の菩薩、
聞釈迦牟尼仏。所説音声。従下発来。  釈迦牟尼仏の所説の音声を聞いて、下より発来せり。
一一菩薩。皆是大衆。唱導之首。    一一の菩薩、皆是れ大衆唱導の首なり。
各将六万。恒河沙等眷属。       各六万恒河沙等の眷属を将いたり。
況将五万。四万。三万。二万。     況んや五万、四万、三万、二万、
一万。恒河沙等眷属者。        一万恒河沙等の眷属を将いたる者をや。

409
況復乃至。一恒河沙。半恒河沙。    況んや復、乃至一恒河沙、半恒河沙、
四分之一。乃至千万億。那由他分之一。 四分の一、乃至千万億那由他分の一なるをや。
況復千万億。那由他眷属。       況んや復、千万億那由他の眷属なるをや。
況復億万眷属。況復千万。       況んや復、億万の眷属なるをや。況んや復、千万、
百万。乃至一万。           百万、乃至一万なるをや。
況復一千。一百。乃至一十。      況んや復、一千、一百、乃至一十なるをや。
況復将五。四。三。二。一。弟子者。  況や復、五、四、三、二、一の弟子を将いたる者をや。
況復単己。楽遠離行。如是等比。    況んや復、単己にして遠離の行を楽えるをや。是の如き等比、
無量無辺。算数譬喩。所不能知。    無量無辺にして、算数譬喩も知ること能わざる所なり。
是諸菩薩。従他出已。各詣虚空。    是の諸の菩薩、地より出で已って、各、虚空の
七宝妙塔。多宝如来。釈迦牟尼仏所。  七宝妙塔の多宝如来、釈迦牟尼仏の所に詣ず。
到已向二世尊。頭面礼足。       到り已って、二世尊に向いたてまつりて、
乃至諸宝樹下。師子座上仏所。     頭面に足を礼し、乃至諸の宝樹下の師子座上の仏の所にても、
亦皆作礼。右遶三帀。合掌恭敬。    亦皆礼を作して、右に遶ること三帀して、合掌恭敬し、

410
以諸菩薩。種種讃法。而以讃歎。    諸の菩薩の、種種の讃法を以て、以て讃歎したてまつり、
住在一面。欣楽瞻仰。於二世尊。    一而に住在し、欣楽して二世尊を瞻仰す。
是諸菩薩摩訶薩。従地涌出。      是の諸の菩薩摩訶薩、地より涌出して、
以諸菩薩。種種讃法。而讃於仏。    諸の菩薩の種種の讃法を以て、仏を讃めたてまつる。
如是時間。経五十小劫。        是の如くする時の間に、五十小劫を経たり。
是時釈迦牟尼仏。黙然而坐。      是の時に釈迦牟尼仏、黙然として坐したまえり。
及諸四衆。亦皆黙然。五十小劫。    及び諸の四衆も、亦皆黙然たること、五十小劫なり。
仏神力故。令諸大衆。謂如半日。    仏の神力の故に、諸の大衆をして半日の如しと謂わしむ。
爾時四衆。亦以仏神力故。見諸菩薩。  爾の時に四衆、亦仏の神力を以ての故に、
遍満無量。百千万億。国土虚空。    諸の菩薩、無量百千万億の国土の虚空に遍満せるを見る。
是菩薩衆中。有四導師。        是の菩薩衆の中に、四導師有り。
一名上行。二名無辺行。        一を上行と名づけ、二を無辺行と名づけ、
三名浄行。四名安立行。        三を浄行と名づけ、四を安立行と名づく。
是四菩薩。於其衆中。         是の四菩薩、其の衆の中に於て、
最為上首。唱導之師。         最も為れ上首唱導の師なり。

411
在大衆前。各共合掌。         大衆の前に在って、各共に合掌し、
観釈迦牟尼仏。而問訊言。       釈迦牟尼仏を観たてまつりて、問訊して言さく、
世尊。少病少悩。安楽行不。       世尊、少病少悩にして、安楽に行じたもうや不や。
所応度者。受教易不。          応に度すべき所の者、教を受くること易しや不や。
不令世尊。生疲労耶。          世尊をして疲労を生さしめざるや。
爾時四大菩薩。而説偈言        爾の時に四大菩薩、而も偈を説いて言さく、
 世尊安楽 少病少悩          世尊は安楽にして 少病少悩にいますや
 教化衆生 得無疲倦          衆生を教化したもうに 疲倦無きことを得たまえりや
 又諸衆生 受化易不          又諸の衆生 化を受くること易しや不や
 不令世等 生疲労耶          世尊をして 疲労を生さしめざるや
爾時世尊。於諸菩薩大衆中。而作是言。 爾の時に世尊、諸の菩薩大衆の中に於て、是の言を作したまわく、
如是如是。諸善男子。          是の如し、是の如し。諸の善男子、

412
如来安楽。少病少悩。諸衆生等。     如来は安楽にして、少病少悩なり。諸の衆生等は、
易可化度。無有疲労。所以者何。     化度すべきこと易し。疲労有ること無し。所以は何ん。
是諸衆生。世世已来。常受我化。     是の諸の衆生は、世世より已来、常に我が化を受けたり。
亦於過去諸仏。供養尊重。種諸善根。   亦過去の諸仏に於て、供養尊重して、諸の善根を種えたり。
此諸衆生。始見我身。聞我所説。     此の諸の衆生は、始め我が身を見、我が所説を聞き、
即皆信受。入如来慧。除先修習。     即ち皆信受して、如来の慧に入りにき。先より修習して、
学小乗者。如是之人。我今亦令。     小乗を学せる者をば除く。是の如きの人も、我今亦、
得聞是経。入於仏慧。          是の経を聞かしめて仏慧に入ることを得せしむ。
爾時諸大菩薩。而説偈言        爾の時に諸の大菩薩、而も偈を説いて言さく、
 善哉善哉 大雄世尊          善哉善哉 大雄世尊
 諸衆生等 易可化度          諸の衆生等 化度したもうべきこと易し
 能問諸仏 甚深智慧          能く諸仏の 甚深の智慧を問いたてまつり

413
 聞已信解 我等随喜          聞き已って信解せり 我等随喜す
於時世尊。讃歎上首。諸大菩薩。    時に世尊、上首の諸の大菩薩を讃歎したまわく、
善哉善哉。善男子。           善哉善哉、善男子。
汝等能於如来。発随喜心。        汝等能く如来に於て、随喜の心を発せり。
爾時弥勒菩薩。及八千恒河沙。     爾の時に弥勒菩薩、及び八千恒河沙の
諸菩薩衆。皆作是念。         諸の菩薩衆、皆是の念を作さく、
我等従昔已来。不見下聞。        我等昔より已来、
如最大菩薩摩訶薩衆。          是の如き大菩薩摩訶薩衆の、
従地涌出。住世尊前。          地より涌出して、世尊の前に住して、
合掌供養。問訊如来。          合掌し供養して、如来を問訊したてまつるを、見ず聞かず。
時弥勒菩薩摩訶薩。知八千恒河沙。   時に弥勒菩薩摩訶薩、八千恒河沙の
諸菩薩等。心之所念。并欲自決所疑。  諸の菩薩等の心の所念を知り、并びに自ら所疑を決せんと欲して、
合掌向仏。以偈問曰          合掌し仏に向いたてまつりて、偈を以て問うて曰さく、
 無量千万億 大衆諸菩薩        無量千万億の 大衆の諸の菩薩

414
 昔所未曽見 願両足尊説        昔より未だ曽て見ざる所なり 願わくは両足尊説きたまえ
 是従何所来 以何因縁集        是れ何れの所より来れる 何の因縁を以てか集れる
 巨身大神通 智慧叵思議        巨身にして大神通あり 智慧思議し叵し
 其志念堅固 有大忍辱力        其の志念堅固にして 大忍辱力有り
 衆生所楽見 為従何所来        衆生の見んと楽う所なり 為れ何れの所より来れる
 一一諸菩薩 所将諸眷属        一一の諸の菩薩の 所将の諸の眷属
 其数無有量 如恒洞沙等        其の数量り有ること無く 恒河沙等の如し
 或有大菩薩 将六万恒沙        或は大菩薩の 六万恒沙を将いたる有り
 如是諸大衆 一心求仏道        是の如き諸の大衆 一心に仏道を求む
 是諸大師等 六万恒河沙        是の諸の大師等 六万恒河沙あり
 倶来供養仏 及護持是経        倶に来って仏を供養し 及び是の経を護持す
 将五万恒沙 其数過於是        五万恒沙を将いたる 其の数是に過ぎたり

415
 四万及三万 二万至一万        四万及び三万 二万より一万に至り
 一千一百等 乃至一恒沙        一千一百等 乃至一恒沙
 半及三四分 億万分之一        半及び三四分 億万分の一
 千万那由他 万億諸弟子        千万那由他 万億の諸の弟子
 乃至於半億 其数復過上        乃ち半億に至る 其の数復上に過ぎたり
 百万至一万 一千及一百        百万より一万に至り 一千及び一百
 五十与一十 乃至三二一        五十と一十と 乃至三二一
 単己無眷属 楽於独処者        単己にして眷属無く 独処を楽う者
 倶来至仏所 其数転過上        倶に仏所に来至せる 其の数転上に過ぎたり
 如是諸大衆 若人行籌数        是の如き諸の大衆 若し人籌を行いて数うること
 過於恒沙劫 猶不能尽知        恒沙劫を過ぐとも 猶尽して知ること能わじ
 是諸大威徳 精進菩薩衆        是の諸の大威徳 精進の菩薩衆は

416
 誰為其説法 教化而成就        誰か其の為に法を説き 教化して成就せる
 従誰初発心 称揚何仏法        誰に従って初めて発心し 何れの仏法を称揚し
 受持行誰経 修習何仏道        誰れの経を受持し行じ 何れの仏道を修習せる
 如是諸菩薩 神通大智力        是の如き諸の菩薩 神通大智力あり
 四方地震裂 皆従中涌出        四方の地震裂して 皆中より涌出せり
 世尊我昔来 未曽見是事        世尊我昔より来 未だ曽て是の事を見ず
 願説其所従 国土之名号        願わくは其の所従の 国土の名号を説きたまえ
 我常遊諸国 未曽見是事        我常に諸国に遊べども 未だ曽て是の事を見ず
 我於此衆中 乃不識一人        我此の衆の中に於て 乃し一人をも識らず
 忽然従地出 願説其因縁        忽然として地より出でたり 願わくは其の因縁を説きたまえ
 今此之大会 無量百千億        今此の大会の 無量百千億なる
 是諸菩薩等 皆欲知此事        是の諸の菩薩等 皆此の事を知らんと欲す

417
 是諸菩薩衆 本末之因縁        是の諸の菩薩衆 本末の因縁あるべし
 無量徳世尊 唯願決衆疑        無量徳の世尊 唯願わくは衆の疑を決したまえ
爾時釈迦牟尼仏。分身諸仏。      爾の時に釈迦牟尼仏の分身の諸仏、
従無量千万億。他方国土来者。     無量千万億の他方の国土より来りたまえる者、
在於八方。諸宝樹下。師子座上。    八方の諸の宝樹下の師子座上に在して、
結跏趺坐。其仏侍者。         結跏趺坐したまえり。其の仏の侍者、
各各見。是菩薩大衆。         各各に是の菩薩大衆の、
於三千大千世界四方。         三千大千世界の四方に於て、
従地涌出。住於虚空。各白其仏言。   地より涌出して虚空に住せるを見て、各其の仏に白して言さく、
世尊。此諸無量無辺阿僧祇。       世尊、此の諸の無量無辺阿僧祇の
菩薩大衆。従何所来。          菩薩大衆は、何れの所より来れる。
爾時諸仏。各告侍者。         爾の時に諸仏、各侍者に告げたまわく、
諸善男子。且待須臾。有菩薩摩訶薩。   諸の善男子、且く須臾を待て。菩薩摩訶薩有り、
名曰弥勒。釈迦牟尼仏。之所授記。    名を弥勒と曰う。釈迦牟尼仏の授記したもう所なり。

418
次後作仏。                次いで後に作仏すべし。
已問斯事。仏今答之。          已に斯の事を問いたてまつる。仏今之に答えたまわん。
汝等自当。因是得聞。          汝等自ら当に、是に因って聞くことを得べし。
爾時釈迦牟尼仏。告弥勒菩薩。     爾の時に釈迦牟尼仏、弥勒菩薩に告げたまわく、
善哉善哉。阿逸多。乃能問仏。如是大事。 善哉善哉、阿逸多、乃し能く仏に、是の如き大事を問えり。
汝等当共一心。被精進鎧。発堅固意。   汝等当に共に一心に、精進の鎧を被、堅固の意を発すべし。
如来今欲。顕発宣示。諸仏智慧。     如来今、諸仏の智慧、
諸仏自在神通之力。諸仏師子奮迅之力。  諸仏の自在神通の力、諸仏の師子奮迅の力、
諸仏威猛大勢之力。           諸仏の威猛大勢の力を顕発し、宣示せんと欲す。
爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言    爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
 当精進一心 我欲説此事        当に精進して心を一にすべし 我此の事を説かんと欲す
 勿得有疑悔 仏智叵思議        疑悔有ることを得る勿れ 仏智は思議し叵し

419
 汝今出信力 住於忍善中        汝今信力を出して 忍善の中に住せよ
 昔所未聞法 今皆当得聞        昔より未だ聞かざる所の法 今皆当に聞くことを得べし
 我今安慰汝 勿得懐疑懼        我今汝を安慰す 疑懼を懐くことを得る勿れ
 仏無不実語 智慧不可量        仏には不実の語無し 智慧量るべからず
 所得第一法 甚深叵分別        得たる所の第一の法は 甚深にして分別し叵し
 如是今当説 汝等一心聴        是の如きを今当に説くべし 汝等一心に聴け
爾時世尊。説是偈已。告弥勒菩薩。   爾の時に世尊、是の偈を説き已って、弥勒菩薩に告げたまわく、
我今於此大衆。宣告汝等。        我今此の大衆に於て、汝等に宣告す。
阿逸多。是諸大菩薩摩訶薩。       阿逸多、是の諸の大菩薩摩訶薩の、
無量無数。阿僧祇。従地涌出。      無量無数阿僧祇にして地より涌出せる、
汝等昔所未見者。我於是娑婆世界。    汝等昔より未だ見ざる所の者は、我是の娑婆世界に於て、
得阿耨多羅三藐三菩提已。        阿耨多羅三藐三菩薩を得已って、
教化示導。是諸菩薩。          是の諸の菩薩を教化示導し、
調伏其心。令発道意。此諸菩薩。     其の心を調伏して、道の意を発さしめたり。此の諸の菩薩は、

420
皆於是娑婆世界之下。此界虚空中住。   皆是の娑婆世界の下、此の界の虚空の中に於いて住せり。
於諸経典。読誦通利。思惟分別。     諸の経典に於て、読誦通利し、思惟分別し、
正憶念。阿逸多。是諸善男子等。     正憶念せり。阿逸多、是の諸の善男子等は、
不楽在衆。多有所説。          衆に在って多く所説有ることを楽わず。
常楽静処。勤行精進。未曽休息。     常に静かなる処を楽い、勤行精進して、未だ曽て休息せず。
亦不依止。人天而住。常楽深智。     亦、人、天に依止して住せず。常に深智を楽って、
無有障礙。亦常楽於。諸仏之法。     障礙有ること無し。亦常に諸仏の法を楽い、
一心精進。求無上慧。          一心に精進して、無上慧を求む。
爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言。   爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
 阿逸汝当知 是諸大菩薩        阿逸汝当に知るべし 是の諸の大菩薩は
 従無数劫来 修習仏智慧        無数劫より来 仏の智慧を修習せり
 悉是我所化 令発大道心        悉く是れ我が所化として 大道心を発さしめたり

421
 此等是我子 依止是世界        此等は是れ我が子なり 是の世界に依止せり
 常行頭陀事 志楽於静処        常に頭陀の事を行じて 静かなる処を志楽し
 捨大衆憒鬧 不楽多所説        大衆の憒鬧を捨てて 所説多きことを楽わず
 如是諸子等 学習我道法        是の如き諸子等は 我が道法を学習して
 昼夜常精進 為求仏道故        昼夜に常に精進す 仏道を求むるを為ての故に
 在娑婆世界 下方空中住        娑婆世界の 下方の空中に在って住す
 志念力堅固 常勤求智慧        志念力堅固にして 常に智慧を勤求し
 説種種妙法 其心無所畏        種種の妙法を説いて 其の心畏るる所無し
 我於伽耶城 菩提樹下坐        我伽耶城 菩提樹下に坐し
 得成最正覚 転無上法輪        最正覚を成ずることを得て 無上の法輪を転じ
 爾乃教化之 令初発道心        爾して乃ち之を教化して 初めて道心を発さしむ
 今皆住不退 悉当得成仏        今皆不退に住せり 悉く当に成仏を得べし

422
 我今説実語 汝等一心信        我今実語を説く 汝等一心に信ぜよ
 我従久遠来 教化是等衆        我久遠より来 是等の衆を教化せり
爾時弥勒菩薩摩訶薩。及無数諸菩薩等。 爾の時に弥勒菩薩摩訶薩、及び無数の諸の菩薩等、
心生疑惑。怪未曽有。而作是念。    心に疑惑を生じ、未曽有なりと怪んで、是の念を作さく、
云何世尊。於少時間。教化如是。     云何ぞ世尊、少時の間に於て、是の如き
無量無辺。阿僧祇。諸大菩薩。      無量無辺阿僧祇の諸の大菩薩を教化して、
令住阿耨多羅三藐三菩提。        阿耨多羅三藐三菩提に住せしめたまえる。
即白仏言。              即ち仏に白して言さく、
世尊。如来為太子時。出於釈宮。     世尊、如来太子為りし時、釈の宮を出でて、
去伽耶城不遠。坐於道場。        伽耶城を去ること遠からず、道場に坐して、
得成阿耨多羅三藐三菩提。        阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得たまえり。
従是已来。始過四十余年。        是より已来、始めて四十余年を過ぎたり。
世尊。云何於此少時。大作仏事。     世尊、云何ぞ此の少時に於て、大いに仏事を作したまえる。

423
以仏勢力。以仏功徳。          仏の勢力を以てや、仏の功徳を以てや、
教化如是。無量大菩薩衆。        是の如き、無量の大菩薩衆を教化して、
当成阿耨多羅三藐三菩提。        当に阿耨多羅三藐三菩提を成ぜしめたもうべき。
世尊。此大菩薩衆。仮使有人。      世尊、此の大菩薩衆は、仮使人有って、
於千万億劫。数不能尽。不得其辺。    千万億劫に於て、数うとも尽すこと能わず。其の辺を得じ。
斯等久遠已来。於無量無辺諸仏所。    斯等は久遠より已来、無量無辺の諸仏の所に於て、
殖諸善根。成就菩薩道。常修梵行。    諸の善根を殖え、菩薩の道を成就し、常に梵行を修せり。
世尊。如此之事。世所難信。       世尊、此の如き事は、世の信じ難き所なり。
譬如有人。色美髪黒。          譬えば人有って、色美しく、髪黒くして、
年二十五。指百歳人。言是我子。     年二十五なる、百歳の人を指して、是れ我が子なりと言わん。
其百歳人。亦指年少。言是我父。     其の百歳の人、亦年少を指して、是れ我が父なり、
生育我等。是事難信。          我等を生育せりと言わん。是の事信じ難きが如く、
仏亦如是。得道已来。其実未久。     仏も亦是の如し。得道より已来、其れ実に未だ久しからず。

424
而此大衆。諸菩薩等。          而るに此の大衆の、諸の菩薩等は、
已於無量千万億劫。為仏道故。      已に無量千万億劫に於て、仏道の為の故に、
勤行精進。善入出住。無量百千万億三昧。 勤行精進し、善く無量百千万億の三昧に入出住し、
得大神通。久修梵行。          大神通を得、久しく梵行を修し、
善能次第。集諸善法。          善能く次第に諸の善法を集い、
巧於問答。人中之宝。          問答に巧に、人中の宝として、
一切世間。甚為希有。          一切世間に甚だ為れ希有なり。
今日世尊。方云得仏道時。初令発心。   今日世尊、方に仏道を得たまいし時、初めて発心せしめ、
教化示導。令向阿耨多羅三藐三菩提。   教化示等して、阿耨多羅三藐三菩提に向わしめたりと云う。
世尊。得仏未久。            世尊、仏を得たまいて未だ久しからざるに、
乃能作此。大功徳事。          乃し能く此の大功徳の事を作したまえり。
我等雖復信仏。随宜所説。        我等は復、仏の随宜の所説、
仏所出言。未曽虚妄。          仏の所出の言、未だ曽て虚妄ならず、
仏所知者。皆悉通達。          仏の所知は皆悉く通達したまえりと信ずと雖も、
然諸新発意菩薩。於仏滅後。       然も諸の新発意の菩薩、仏の滅後に於て、

425
若聞是語。或不信受。          若し是の語を聞かば、或は信受せずして、
而起破法。罪業因縁。          法を破する罪業の因縁を起さん。
唯然。世尊。              唯然なり。世尊、
願為解説。除我等疑。          願わくは為に解説して、我等の疑を除きたまえ。
及未来世。諸善男子。          及び未来世の諸の善男子、
聞此事已。亦下生疑。          此の事を聞き已りなば、亦疑を生せじ。
爾時弥勒菩薩。欲重宣此義。      爾の時に弥勒菩薩、重ねて此の義を宣べんと欲して、
而説偈言               偈を説いて言さく、
 仏昔従釈種 出家近伽耶        仏昔釈種より 出家して伽耶に近く
 坐於菩提樹 爾来尚未久        菩提樹に坐したまえり 爾しより来尚未だ久しからず
 此諸仏子等 其数不可量        此の諸の仏子等 其の数量るべからず
 久已行仏道 住神通智力        久しく已に仏道を行じて 神通智力に住せり
 善学菩薩道 不染世間法        善く菩薩の道を学して 世間の法に染まざること
 如蓮華在水 従地而涌出        蓮華の水に在るが如し 地より涌出し
 皆起恭敬心 住於世尊前        皆恭敬の心を起して 世尊の前に住せり

426
 是事難思議 云何而可信        是の事思議し難し 云何ぞ信ずべき
 仏得道甚近 所成就甚多        仏の得道は甚だ近く 成就したまえる所は甚だ多し
 願為除衆疑 如実分別説        願わくは為に衆の疑を除き 実の如く分別し説きたまえ
 譬如少壮人 年始二十五        譬えば少壮の人 年始めて二十五なる
 示人百歳子 髪白而面皺        人に百歳の子の 髪白くして面皺めるを示して
 是等我所生 子亦説是父        是等我が所生なりといい 子も亦是れ父なりと説かん
 父少而子老 挙世所不信        父は少く子は老いたる 世挙って信せざる所ならんが如く
 世尊亦如是 得道来甚近        世尊も亦是の如し 得道より来甚だ近し
 是諸菩薩等 志固無怯弱        是の諸の菩薩等 志固くして怯弱無し
 従無量劫来 而行菩薩道        無量劫より来 而も菩薩の道を行ぜり
 巧於難問答 其心無所畏        難問答に巧にして 其の心畏るる所無く
 忍辱心決定 端正有威徳        忍辱の心決定し 端正にして威徳有り

427
 十方仏所讃 善能分別説        十方の仏の讃めたもう所なり 善能く分別して説けり
 不楽在人衆 常好在禅定        人衆に在ることを楽わず 常に好んで禅定に在り
 為求仏道故 於下空中住        仏道を求むるを為ての故に 下の空中に於て住せり
 我等従仏聞 於此事無疑        我等は仏に従って聞きたてまつれば 此の事に於て疑無し
 願仏為未来 演説令開解        願わくは仏未来の為に 演説して開解せしめたまえ
 若有於此経 生疑不信者        若し此の経に於て 疑を生じて信ぜざること有らん者は
 即当堕悪道 願今為解説        即ち当に悪道に堕つべし 願わくは今為に解説したまえ
 是無量菩薩 云何於少時        是の無量の菩薩をば 云何にしてか少時に於て
 教化令発心 而住不退地        教化し発心せしめて 不退の地に住せしめたまえる