妙法蓮華経勧持品第十三

370
爾時薬王菩薩摩訶薩。及大楽説。    爾の時に薬王菩薩摩訶薩、及び大楽説 
菩薩摩訶薩。与二万菩薩眷属倶。    菩薩摩訶薩、二万の菩薩眷属と倶に、
皆於仏前。作是誓言。         皆仏前に於て、是の誓言を作さく、 
唯願世尊。不以為慮。          唯願わくは世尊、以て慮いしたもう為からず。
我等於仏滅後。当奉持読誦。       我等仏の滅後に於て、当に此の経典を奉持し、読誦し、
説此経典。               説きたてまつるべし。
後悪世衆生。善根転少。多増上慢。    後の悪世の衆生、善根転少くして増上慢多く、 
貪利供養。増不善根。遠離解脱。     利供養を貪り不善根を増し、解脱を遠離せん。
雖難可教化。我等当起大忍力。      教化すべきこと難しと雖も、我等当に大忍力を起して、
読誦此経。持説書写。          此の経を読誦し、持説し、書写し、                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
種種供養。不惜身命。          種種に供養して、身命を惜しまざるべし。 

371
爾時衆中。五百阿羅漢。得受記者。   爾の時に、衆中の五百の阿羅漢の受記を得たる者、
白仏言。               仏に白して言さく、
世尊。我等亦自誓願。          世尊、我等亦、自ら誓願すらく、
於異国土。広説此経。          異の国土に於て広く此の経を説かん。
復有学無学。八千人。得受記者。    復、学無学八千人の受記を得たる者有り。
従座而起。合掌向仏。         座より起って、合掌し、仏に向いたてまつりて、
作是誓言。              是の誓言を作さく、
世尊。我等亦当。於他国土。       世尊、我等亦、当に他の国土に於て、
広説此経。所以者何。          広く此の経を説くべし。所以は何ん。
是娑婆国中。人多弊悪。懐増上慢。    是の娑婆国の中は、人弊悪多く、増上慢を懐き、
功徳浅薄。瞋濁諂曲。心不実故。     功徳浅薄に、瞋濁諂曲にして、心不実なるが故に。
爾時仏姨母。摩訶波闍波堤比丘尼。   爾の時に仏の姨母・摩訶波闍波堤比丘尼、
与学無学比丘尼。六千人倶。      学無学の比丘尼六千人と倶に、 
従座而起。一心合掌。瞻仰尊顔。    座より起って、一心に合掌し、尊顔を瞻仰して、
目不暫捨。於時世尊。告憍曇弥。    目暫くも捨てず。時に世尊、憍曇弥に告げたまわく、
何故憂色。而視如来。          何が故ぞ、憂の色にして如来を視る。

372
汝心将無謂。我不説汝名。        汝が心に将に、我汝が名を説いて  
授阿耨多羅三藐三菩提記耶。       阿耨多羅三藐三菩提の記を授けず、と謂うこと無しや。
憍曇弥。我先総説。           憍曇弥、我、先に総じて、
一切声聞。皆已授記。          一切の声聞に、皆已に授記すと説きき。
今汝欲知記者。将来之世。        今汝記を知らんと欲せば、将来の世に、
当於六万八千億。諸仏法中。為大法師。  当に六万八千億の諸仏の法の中に於て、大法師と為るべし。
及六千学無学比丘尼。倶為法師。     及び六千の学無学の比丘尼も、倶に法師と為らん。   
汝如是。漸漸具菩薩道。         汝、是の如く漸漸に菩薩の道を具して、
当得作仏。               当に作仏することを得べし。 
号一切衆生喜見如来。応供。正遍知。   一切衆生喜見如来・応供・正遍知・
明行足。善逝。世間解。無上士。     明行足・善逝・世間解・無上士・
調御丈夫。天人師。仏世尊。       調御丈夫・天人師・仏世尊と号けん。 
憍曇弥。是一切衆生喜見仏。       憍曇弥、是の一切衆生喜見仏、 
及六千菩薩。転次授記。         及び六千の菩薩、転次に記を授かりて、 
得阿耨多羅三藐三菩提。         阿耨多羅三藐三菩提を得ん。
爾時羅睺羅母。耶輸陀羅比丘尼。    爾の時に羅睺羅の母・耶輸陀羅比丘尼、     
作是念。               是の念を作さく、

273
世尊於授記中。独不説我名。       世尊、授記の中に於て、独我が名を説きたまわず。
仏告耶輸陀羅。            仏、耶輸陀羅に告げたまわく、
汝於来世。百千万億。諸仏法中。     汝、来世百千万億の諸仏の法の中に於て、
修菩薩行。為大法師。          菩薩の行を修し、大法師と為り、
漸具仏道。於善国中。          漸く仏道を具して、善国の中に於て、
当得作仏。               当に作仏することを得べし。
号具足千万光相如来。応供。正遍知。   具足千万光相如来・応供・正遍知・
明行足。善逝。世間解。無上士。     明行足・善逝・世間解・無上士・ 
調御丈夫。天人師。仏世尊。       調御丈夫・天人師・仏世尊と号けん。  
仏寿無量。阿僧祗劫。          仏の寿、無量阿僧祗劫ならん。
爾時摩訶波闍波提比丘尼。       爾の時に摩訶波闍波提比丘尼、 
及耶輸陀羅比丘尼。并其眷属。     及び耶輸陀羅比丘尼、并びに其の眷属、
皆大歓喜。得未曽有。         皆大いに歓喜し、未曽有なることを得、
即於仏前。而説偈言          即ち仏前に於て、偈を説いて言さく、
 世尊導師 安穏天人          世尊導師 天人を安穏ならしめたもう
 我等聞記 心安具足          我等記を聞いて 心安んじて具足しぬ

374
諸比丘尼。説是偈已。白仏言。     諸の比丘尼、是の偈を説き已って、仏に白して言さく、
世尊。我等亦能。於他方国土。      世尊、我等亦、能く他方の国土に於て、
広宣此経。               広く此の経を宣べん。
爾時世尊。視八十万億那由他。     爾の時に世尊、八十万億那由他の
諸菩薩摩訶薩。            諸の菩薩摩訶薩を視す。
是諸菩薩。皆是阿惟越致。       是の諸の菩薩は、皆是れ阿惟越致にして、
転不退法輪。得諸陀羅尼。       不退の法輪を転じ、諸の陀羅尼を得たり。
即従座起。至於仏前。         即ち座より起って、仏前に至り、
一心合掌。而作是念。         一心に合掌して、是の念を作さく、
若世尊。告勅我等。持説此経者。     若し世尊、我等に此の経を持説せよと告勅したまわば、
当如仏教。広宣斯法。          当に仏の教の如く、広く斯の法を宣ぶべし。
復作是念。              復是の念を作さく、
仏今黙然。不見告勅。我当云何。     仏、今黙然として、告勅せられず、我当に云何がすべき。
時諸菩薩。敬順仏意。         時に諸の菩薩、仏意に敬順し、
并欲自満本願。            并びに自ら本願を満ぜんと欲して、
便於仏前。作師子吼。而発誓言。    便ち仏前に於て、師子吼を作して、誓言を発さく、

375
世尊。我等於如来滅後。         世尊、我等、如来の滅後に於て、
周旋往返。十方世界。能令衆生。     十方世界に周旋往返して、能く衆生をして、
書写此経。受持読誦。解説其義。     此の経を書写し、受持し、読誦し、其の義を解説し、
如法修行。正憶念。           法の如く修行し、正憶念せしめん。
皆是仏之威力。唯願世尊。        皆是れ仏の威力ならん。唯願わくは世尊、 
在於他方。遙見守護。          他方に在すとも、遥かに守護せられよ。 
即時諸菩薩。倶同発声。        即時に諸の菩薩、倶に同じく声を発して、
而説偈言               偈を説いて言さく、
 唯願不為慮 於仏滅度後        唯願わくは慮いしたもう為からず 仏の滅度の後の
 恐怖悪世中 我等当広説        恐怖悪世の中に於て 我等当に広く説くべし
 有諸無智人 悪口罵詈等        諸の無智の人の 悪口罵詈等し
 及加刀杖者 我等皆当忍        及び刀杖を加うる者有らん 我等皆当に忍ぶべし
 悪世中比丘 邪智心諂曲        悪世の中の比丘は 邪智にして心諂曲に
 未得謂為得 我慢心充満        未だ得ざるを為れ得たりと謂い 我慢の心充満せん

376
 或有阿練若 納衣在空閑        或は阿練若に 納衣にして空閑に在って
 自謂行真道 軽賎人間者        自ら真の道を行ずと謂いて 人間を軽賎する者有らん
 貪著利養故 与白衣説法        利養に貪著するが故に 白衣の与に法を説いて
 為世所恭敬 如六通羅漢        世に恭敬せらるること 六通の羅漢の如くならん
 是人懐悪心 常念世俗事        是の人悪心を懐き 常に世俗の事を念い
 仮名阿練若 好出我等過        名を阿練若に仮って 好んで我等の過を出さん
 而作如是言 此諸比丘等        而も是の如き言を作さん 此の諸の比丘等は
 為貪利養故 説外道論議        利養を貪るを為ての故に 外道の論議を説き
 自作此経典 誑惑世間人        自ら此の経典を作って 世間の人を誑惑し
 為求名聞故 分別説是経        名聞を求むるを為ての故に 分別して是の経を説くと
 常在大衆中 欲毀我等故        常に大衆の中に在って 我等を毀らんと欲するが故に
 向国王大臣 婆羅門居士        国王大臣 婆羅門居士

377
 及余比丘衆 誹謗説我悪        及び余の比丘衆に向って 誹謗して我が悪を説いて
 謂是邪見人 説外道論議        是れ邪見の人 外道の論議を説くと謂わん
 我等敬仏故 悉忍是諸悪        我等仏を敬うが故に 悉く是の諸悪を忍ばん
 為斯所軽言 汝等皆是仏        斯に軽しめられて 汝等は皆是れ仏なりと言われん
 如此軽慢言 皆当忍受之        此の如き軽慢の言を 皆当に忍んで之を受くべし
 濁劫悪世中 多有諸恐怖        濁劫悪世の中には 多く諸の恐怖有らん
 悪鬼入其身 罵詈毀辱我        悪鬼其の身に入って 我を罵詈毀辱せん
 我等敬信仏 当著忍辱鎧        我等仏を敬信して 当に忍辱の鎧を著るべし
 為説是経故 忍此諸難事        是の経を説かんが為の故に 此の諸の難事を忍ばん
 我不愛身命 但惜無上道        我身命を愛せず 但無上道を惜む
 我等於来世 護持仏所嘱        我等来世に於て 仏の所嘱を護持せん
 世尊自当知 濁世悪比丘        世尊自ら当に知ろしめすべし 濁世の悪比丘は

378
 不知仏方便 随宜所説法        仏の方便 随宜所説の法を知らず
 悪口而嚬蹙 数数見擯出        悪口して嚬蹙し 数数擯出せられ
 遠離於塔寺 如是等衆悪        塔寺を遠離せん 是の如き等の衆悪をも
 念仏告勅故 皆当忍是事        仏の告勅を念うが故に 皆当に是の事を忍ぶべし
 諸聚落城邑 其有求法者        諸の聚落城邑に 其れ法を求むる者有らは
 我皆到其所 説仏所嘱法        我皆其の所に到って 仏の所嘱の法を説かん
 我是世尊使 処衆無所畏        我は是れ世尊の使なり 衆に処するに畏るる所無し
 我当善説法 願仏安穏住        我当に善く法を説くべし 願わくは仏安穏に住したまえ
 我於世尊前 諸来十方仏        我世尊の前 諸の来りたまえる十方の仏に於て
 発如是誓言 仏自知我心        是の如き誓言を発す 仏自ら我が心を知ろしめすらむ