妙法蓮華経法師品第十

318
爾時世尊。因薬王菩薩。        爾の時に世尊、薬王菩薩に因せて、
告八万大士。             八万の大士に告げたまわく、
薬王。汝見大衆中。無量諸天。龍王。   薬王、汝是の大衆の中の、無量の諸天、龍王、
夜叉。乾闥婆。阿修羅。迦楼羅。     夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、
緊那羅。摩睺羅伽。人与非人。      緊那羅、摩睺羅伽、人と非人と、
及比丘。比丘尼。優婆塞。        及び比丘、比丘尼、優婆塞、
優婆夷。求声聞者。           優婆夷の、声聞を求むる者、
求辟支仏者。求仏道者。         辟支仏を求むる者、仏道を求むる者を見るや。
如是等類。咸於仏前。          是の如き等類、咸く仏前に於て、
聞妙法華経。一偈一句。         妙法華経の、一偈一句を聞いて、
乃至一念随喜者。我皆与授記。      乃至一念も随喜せん者には、我皆記を与え授く。
当得阿耨多羅三藐三菩提。        当に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。 

319
仏告薬王。              仏、薬王に告げたまわく、
又如来滅度之後。若有人。        又、如来の滅度の後に、若し人有って、
聞妙法華経。乃至一偈一句。       妙法華経の、乃至一偈一句を聞いて、
一念随喜者。我亦与授。         一念も随喜せん者には、我亦、
阿耨多羅三藐三菩提記。         阿耨多羅三藐三菩提の記を与え授く。
若復有人。               若し復人有って、
受持。読。誦。解説。書写。妙法華経。  妙法華経の、乃至一偈を受持、読、誦、解説、書写し、 
乃至一偈。於此経巻。敬視如仏。     此の経巻に於て、敬い視ること仏の如くにして、  
種種供養。華香。瓔珞。抹香。      種種に華香、瓔珞、抹香、
塗香。焼香。繒蓋。幢幡。衣服。     塗香、焼香、繒蓋、幢幡、衣服、
伎楽。乃至合掌恭敬。          伎楽を供養し、乃至合掌恭敬せん。
薬王当知。是諸人等。          薬王、当に知るべし。是の諸人等は、
已曽供養。十万億仏。          已に曽て十万億の仏を供養し、
於諸仏所。成就大願。          諸仏の所に於て、大願を成就して、
愍衆生故。生此人間。          衆生を愍れむが故に、此の人間に生ずるなり。
薬王。若有人問。            薬王、若し人有って、

320
何等衆生。於未来世。          何等の衆生か未来世に於て、       
当得作仏。応示。            当に作仏することを得べきと問わば、応に示すべし。  
是諸人等。於未末世。必得作仏。      是の諸人等は、未来世に於て、必ず作仏することを得ん。
何以故。若善男子。善女人。       何を以ての故に、若し善男子、善女人、 
於法華経。乃至一句。          法華経の、乃至一句に於ても、
受持。読。誦。解説。書写。       受持、読、誦、解説、書写し、 
種種供養経巻。華香。瓔珞。       種種に経巻に、華香、瓔珞、
抹香。塗香。焼香。繒蓋。        抹香、塗香、焼香、繒蓋、
幢幡。衣服。伎楽。合掌恭敬。      幢幡、衣服、伎楽を供養し、合掌恭敬せん。
是人一切世間。所応瞻奉。        是の人は一切世間の、応に瞻奉すべき所なり。
応以如来供養。而供養之。        応に如来の供養を以て、之を供養すべし。  
当知此人。是大菩薩。          当に知るべし、此の人は是れ大菩薩の
成就阿耨多羅三藐三菩提。        阿耨多羅三藐三菩提を成就して、
哀愍衆生。願生此間。          衆生を哀愍し、願って此の間に生れ、
広演分別。妙法華経。          広く妙法華経を演べ分別するなり。
何況尽能受持。種種供養者。       何に況んや、尽して能く受持し、種種に供養せん者をや。

321
薬王。当知是人。自捨清浄業報。     薬王、当に知るべし。是の人は自ら清浄の業報を捨てて、
於我滅度後。愍衆生故。生於悪世。    我が滅度の後に於て、衆生を愍れむが故に悪世に生れて、
広演此経。               広く此の経を演ぶるなり。
若是善男子。善女人。我滅度後。     若し是の善男子、善女人、我が滅度の後、
能竊為一人。説法華経。乃至一句。    能く竊に一人の為にも、法華経の、乃至一句を説かん。
当知是人。則如来使。          当に知るべし、是の人は則ち如来の使なり。
如来所遣。行如来事。          如来の所遣として、如来の事を行ずるなり。
何況於大衆中。広為人説。        何に況んや、大衆の中に於て、広く人の為に説かんをや。 
薬王。若有悪人。以不善心。       薬王、若し悪人有って、不善の心を以て、
於一劫中。現於仏前。          一劫の中に於て、現に仏前に於て、
常毀罵仏。其罪尚軽。          常に仏を毀罵せん、其の罪尚軽し。
若人以一悪言。毀呰在家出家。      若し人一の悪言を以て、在家出家の法華経を 
読誦法華経者。其罪甚重。        読誦する者を毀呰せん、其の罪甚だ重し。
薬王。其有読誦。法華経者。       薬王、其れ法華経を読誦すること有らん者は、

322
当知是人。以仏荘厳。而自荘厳。     当に知るべし。是の人は仏の荘厳を以て、自ら荘厳するなり。
則為如来。肩所荷担。          則ち如来の肩に荷担せらるるを為ん。
其所至方。応随向礼。          其の所至の方には、応に随って向い礼すべし。
一心合掌。恭敬供養。尊重讃歎。     一心に合掌して、恭敬供養、尊重讃歎し、
華香。瓔珞。抹香。塗香。焼香。     華香、瓔珞、抹香、塗香、焼香、繒蓋、
繒蓋。幢幡。衣服。肴膳。作諸伎楽。   幢幡、衣服、肴膳をもってし、諸の伎楽を作し、
人中上供。而供養之。          人中の上供をもって、之を供養せよ。
応持天宝。而以散之。          応に天の宝を持って、以て之を散ずべし。
天上宝聚。応以奉献。所以者何。     天上の宝聚、応に以て奉献すべし。所以は何ん。
是人歓喜説法。須臾聞之。        是の人歓喜して法を説かんに、須臾も之を聞かば、
即得究竟。阿耨多羅三藐三菩提故。    即ち阿耨多羅三藐三菩提を究竟することを得んが故なり。
爾時世尊。欲重宣此義。        爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、  
而説偈言               偈を説いて言わく、

323
 若欲住仏道 成就自然智        若し仏道に住して 自然智を成就せんと欲せば
 常当勤供養 受持法華者        常に当に勤めて 法華を受持せん者を供養すべし
 其有欲疾得 一切種智慧        其れ疾く 一切種智慧を得んと欲すること有らんは
 当受持是経 并供養持者        当に是の経を受持し 并びに持者を供養すべし
 若有能受持 妙法華経者        若し能く 妙法華経を受持すること有らん者は
 当知仏所使 愍念諸衆生        当に知るべし仏の所使として 諸の衆生を愍念するなり
 諸有能受持 妙法華経者        諸の能く 妙法華経を受持すること有らん者は
 捨於清浄土 愍衆故生此        清浄の土を捨てて 衆を愍れむが故に此に生ずるなり
 当知如是人 自在所欲生        当に知るべし是の如き人は 生ぜんと欲する所に自在なれば
 能於此悪世 広説無上法        能く此の悪世に於て 広く無上の法を説くなり
 応以天華香 及天宝衣服        応に天の華香 及び天の宝衣服
 天上妙宝聚 供養説法者        天上の妙宝聚を以て 説法者に供養すべし
 吾滅後悪世 能持是経者        吾が滅後の悪世に 能く是の経を持たん者をば

324
 当合掌礼敬 如供養世尊        当に含掌し礼敬して 世尊に供養するが如くすべし
 上饌衆甘美 及種種衣服        上饌の衆の甘美 及び種種の衣服をもって
 供養是仏子 冀得須臾聞        是の仏子に供養して 須臾も聞くことを得んと冀うべし
 若能於後世 受持是経者        若し能く後の世に於て 是の経を受持せん者は
 我遣在人中 行於如来事        我遣して人中に在らしめて 如来の事を行ぜしむるなり
 若於一劫中 常懐不善心        若し一劫の中に於て 常に不善の心を懐いて
 作色而罵仏 獲無量重罪        色を作して仏を罵らんは 無量の重罪を獲ん
 其有読誦持 是法華経者        其れ 是の法華経を読誦し持つこと有らん者に
 須臾加悪言 其罪復過彼        須臾も悪言を加えんは 其の罪復彼に過ぎん
 有人求仏道 而於一劫中        人有って仏道を求めて 一劫の中に於て
 合掌在我前 以無数偈讃        合掌し我が前に在って 無数の偈を以て讃めん
 由是讃仏故 得無量功徳        是の讃仏に由るが故に 無量の功徳を得ん

325
 歎美持経者 其福復過彼        持経者を歎美せんは 其の福復彼に過ぎん
 於八十億劫 以最妙色声        八十億劫に於て 最妙の色声
 及与香味触 供養持経者        及与香味触を以て 持経者に供養せよ
 如是供養已 若得須臾聞        是の如く供養し已って 若し須臾も聞くことを得ば
 則応自欣慶 我今獲大利        則ち応に自ら欣慶すべし 我今大利を獲つと
 薬王今告汝 我所説諸経        薬王今汝に告ぐ 我が所説の諸経
 而於此経中 法華最第一        而も此の経の中に於て 法華最も第一なり
而時仏復告。薬王菩薩摩訶薩。     爾の時に仏、復、薬王菩薩摩訶薩に告げたまわく、
我所説経典。無量千万億。        我が所説の経典、無量千万億にして、
已説。今説。当説。而於其中。      已に説き、今説き、当に説かん。而も其の中に於て、
此法華経。最為難信難解。        此の法華経、最も為れ難信難解なり。
薬王。此経是諸仏。秘要之蔵。      薬王、此の経は、是れ諸仏の秘要の蔵なり。
不可分布。妄授与人。          分布して、妄りに人に授与すべからず。

326
諸仏世尊。之所守護。          諸仏世尊の守護したもう所なり。
従昔已来。未曽顕説。          昔より已来、未だ曽て顕説せず。
而此経者。如来現在。          而も此の経は、如来の現在すら、
猶多怨嫉。況滅度後。          猶怨嫉多し。況んや滅度の後をや。
薬王当知。如来滅後。          薬王、当に知るべし。如来の滅後に、
其能書持。読誦供養。為他人説者。    其れ能く書持し、読誦し、供養し、他人の為に説かん者は、
如来則為。以衣覆之。          如来則ち、衣を以て之を覆いたもう為し。
又為他方。現在諸仏。之所護念。     又、他方の現在の諸仏に護念せらるることを為ん。
是人有大信力。及志願力。諸善根力。   是の人は大信力、及び志願力、諸善根力有らん。
当知是人。与如来共宿。         当に知るべし、是の人は如来と共に宿するなり。
則為如来。手摩其頭。          則ち如来の手をもって、其の頭を摩でたもうを為ん。
薬王。在在処処。若説。         薬王、在在処処に、若しは説き、 
若読。若誦。若書。           若しは読み、若しは誦し、若しは書き、
若経巻所住之処。皆応起七宝塔。     若しは経巻所住の処には、皆応に七宝の塔を起てて、 
極令高広厳飾。不須復安舎利。      極めて高広厳飾ならしむべし。復舎利を安んずることを須いず。

327
所以者何。此中已有。如来全身。     所以は何ん。此の中には、已に如来の全身有す。
此塔応以。一切華香瓔珞。        此の塔をば応に、一切の華香瓔珞、
繒蓋幢幡。伎楽歌頌。          繒蓋幢幡、伎楽歌頌を以て、
供養恭敬。尊重讃歎。          供養恭敬し、尊重讃歎したてまつるべし。
若有人得見此塔。            若し人有って、此の塔を見たてまつることを得て、
礼拝供養。当知是等。          礼拝し供養せんに、当に知るべし、
皆近阿耨多羅三藐三菩提。        是等は皆、阿耨多羅三藐三菩提に近づきぬ。 
薬王。多有人。在家出家。        薬王、多く人有って、在家出家の、
行菩薩道。若不能得。見聞読誦。     菩薩の道を行ぜんに、若し是の法華経を見聞読誦し、
書持供養。是法華経者。         書持供養すること得ること能わずんば、当に知るべし、
当知是人。未善行菩薩道。        是の人は未だ善く菩薩の道を行ぜざるなり。
若有得聞。是経典者。          若し是の経典を聞くこと得ること有らん者は、 
乃能善行。菩薩之道。          乃ち能善く菩薩の道を行ずるなり。
其有衆生。求仏道者。          其れ衆生の、仏道を求むる者有って、 
若見若聞。是法華経。          是の法華経を、若しは見、若しは聞き、
聞已信解。受持者。当知是人。      聞き已って信解し、受持せば、当に知るベし、 

328
得近阿耨多羅三藐三菩提。        是の人は阿耨多羅三藐三菩提に近づくことを得たり。  
薬王。譬如有人。渇乏須水。       薬王、譬えば人有って、渇乏して水を須めんとして、       
於彼高原。穿鑿求之。          彼の高原に於て、穿鑿して之を求むるに、
猶見乾土。知水尚遠。          猶乾ける土を見ては、水尚遠しと知る。
施功不已。転見湿土。          功を施すこと已まずして、転湿える土を見、
遂漸至泥。其心決定。          遂に漸く泥に至りぬれば、其の心決定して、
知水必近。菩薩亦復如是。        水必ず近しと知らんが如く、菩薩も亦復是の如し。
若未聞未解。未能修習。         若し是の法華経を未だ聞かず、未だ解せず、
是法華経。当知是人。          未だ修習すること能わずんば、当に知るべし、
去阿耨多羅三藐三菩提尚遠。       是の人は阿耨多羅三藐三菩提を去ること尚遠し。 
若得聞解。思惟修習。          若し聞解し、思惟し、修習することを得ば、 
必知得近。阿耨多羅三藐三菩提。     必ず阿耨多羅三藐三菩提に近づくことを得たりと知れ。
所以者何。一切菩薩。          所以は何ん。一切の菩薩の
阿耨多羅三藐三菩提。皆属此経。     阿耨多羅三藐三菩提は、皆此の経に属せり。
此経開方便門。示真実相。        此の経は、方便の門を開いて真実の相を示す。
是法華経蔵。深固幽遠。無人能到。    是の法華経の蔵は深固幽遠にして、人の能く到る無し。 

329
今仏教化。成就菩薩。而為開示。     今仏、菩薩を教化し成就して、為に開示す。
薬王。若有菩薩。            薬王、若し菩薩有って、
聞是法華経。驚疑怖畏。         是の法華経を聞いて驚疑し怖畏せん。
当知是為。新発意菩薩。         当に知るべし、是を新発意の菩薩と為づく。 
若声聞人。聞是経。驚疑怖畏。      若し声聞の人、是の経を聞いて驚疑し怖畏せん。
当知是為。増上慢者。          当に知るべし、是を増上慢の者と為づく。
薬王。若有善男子。善女人。       薬王、若し善男子、善女人有って、
如来滅後。欲為四衆。          如来の滅後に、四衆の為に、
説是法華経者。云何応説。        是の法華経を説かんと欲せば、云何が応に説くべき。
是善男子。善女人。入如来室。      是の善男子、善女人は、如来の室に入り、
著如来衣。坐如来座。          如来の衣を著、如来の座に坐して、
爾乃応為四衆。広説斯経。        爾して乃し四衆の為に広く斯の経を説くべし。
如来室者。一切衆生中。大慈悲心是。   如来の室とは、一切衆生の中の大慈悲心是なり。
如来衣者。柔和忍辱心是。        如来の衣とは柔和忍辱の心是なり。

330
如来座者。一切法空是。         如来の座とは一切法空是なり。
安住是中。然後以不懈怠心。       是の中に安住して、然して後に不懈怠の心を以て、
為諸菩薩。及四衆。広説是法華経。    諸の菩薩、及び四衆の為に、広く是の法華経を説くべし。
薬王。我於余国。遣化人。        薬王、我余国に於て、化人を遣して、
為其集聴法衆。亦遣化比丘。比丘尼。   其れが為に聴法の衆を集め、亦、化の比丘、比丘尼、
優婆塞。優婆夷。聴其説法。       優婆塞、優婆夷を遣して、其の説法を聴かしめん。
是諸化人。聞法信受。随順不逆。     是の諸の化人、法を聞いて信受し、随順して逆わじ。
若説法者。在空閑処。          若し説法者、空閑の処に在らば、
我時広遣。天龍鬼神。          我時に広く天、龍、鬼神、
乾闥婆。阿修羅等。聴其説法。      乾闥婆、阿修羅等を遣して、其の説法を聴かしめん。
我雖在異国。時時令説法者。       我異国に在りと雖も、時時に説法者をして、
得見我身。若於此経。          我が身を見ることを得せしめん。若し此の経に於て、
忘失句逗。我還為説。          句逗を忘失せば、我還って為に説いて、
会得具足。               具足することを得せしめん。
爾時世尊。欲重宣此義。        爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、
而説偈言               偈を説いて言わく、

331
 欲捨諸懈怠 応当聴此経        諸の懈怠を捨てんと欲せば 応当に此の経を聴くべし
 是経難得聞 信受者亦難        是の経は聞くこと得難し 信受する者亦難し
 如人渇須水 穿鑿於高原        人の渇して水を須めんとして 高原を穿鑿するに
 猶見乾燥土 知去水尚遠        猶乾燥ける土を見ては 水を去ること尚遠しと知る
 漸見湿土泥 決定知近水        漸く湿える土泥を見ては 決定して水に近づきぬと知らんが如し
 薬王汝当知 如是諸人等        薬王汝当に知るべし 是の如き諸人等
 不聞法華経 去仏智甚遠        法華経を聞かずんば 仏智を去ること甚だ遠し
 若聞是深経 決了声聞法        若し是の深経の 声聞の法を決了する
 是諸経之王 聞已諦思惟        是れ諸経の王なるを聞き 聞き已って諦かに思惟せん
 当知此人等 近於仏智慧        当に知るべし此の人等は 仏の智慧に近づきぬ
 若人説此経 応入如来室        若し人此の経を説かば 応に如来の室に入り

332
 著於如来衣 而坐如来座        如来の衣を著 而も如来の座に坐して
 処衆無所畏 広為分別説         衆に処して畏るる所無く 広く為に分別して説くべし
 大慈悲為室 柔和忍辱衣        大慈悲を室と為し 柔和忍辱を衣とし
 諸法空為座 処此為説法        諸法空を座と為す 此に処して為に法を説け
 若説此経時 有人悪口罵        若し此の経を説かん時 人有って悪口し罵り
 加刀杖瓦石 念仏故応忍        刀杖瓦石を加うとも 仏を念ずるが故に応に忍ぶべし
 我千万億土 現浄堅固身        我千万億の土に 浄堅固の身を現じて
 於無量億劫 為衆生説法        無量億劫に於て 衆生の為に法を説く
 若我滅度後 能説此経者        若し我が滅度の後に 能く此の経を説かん者には
 我遣化四衆 比丘比丘尼        我化の四衆 比丘比丘尼
 及清信士女 供養於法師        及び清信の士女を遣して 法師を供養せしめ
 引導諸衆生 集之令聴法        諸の衆生を引導して 之を集めて法を聴かしめんに

333
 若人欲加悪 刀杖及瓦石        若し人悪 刀杖及び瓦石を加えんと欲せば
 則遣変化人 為之作衛護        則ち変化の人を遣して 之が為に衛護と作さん
 若説法之人 独在空閑処        若し説法の人 独空閑の処に在って
 寂漠無人声 読誦此経典        寂漠として人の声無からんに 此の経典を読誦せば
 我爾時為現 清浄光明身        我爾の時に為に 清浄光明の身を現ぜん
 若忘失章句 為説令通利        若し章句を忘失せば 為に説いて通利せしめん
 若人具是徳 或為四衆説        若し人是の徳を具して 或は四衆の為に説き
 空処読誦経 皆得見我身        空処にして経を読誦せば 皆我が身を見ることを得ん
 若人在空閑 我遣天龍王        若し人空閑に在らば 我天龍王
 夜叉鬼神等 為作聴法衆        夜叉鬼神等を遺して 為に聴法の衆と作さん
 是人楽説法 分別無罣礙        是の人法を楽説し 分別して罣礙無からん
 諸仏護念故 能令大衆喜        諸仏護念したもうが故に 能く大衆をして喜ばしめん

334
 若親近法師 速得菩薩道        若し法師に親近せば 速かに菩薩の道を得
 随順是師学 得見恒沙仏        是の師に随順して学せば 恒沙の仏を見たてまつることを得ん