308
爾時阿難。羅睺羅。而作是念。 爾の時に阿難、羅睺羅、而も是の念を作さく、
我等毎自思惟。 我等毎に自ら思惟すらく、
設得授記。不亦快乎。 設し授記を得ば、亦快からざらんや。
即従座起。到於仏前。 即ち座より起って、仏前に到り、
頭面礼足。倶白仏言。 頭面に足を礼し、倶に仏に白して言さく、
世尊。我等於此。亦応有分。 世尊、我等此に於て、亦応に分有るべし。
唯有如来。我等所帰。 唯如来のみ有して、我等が帰する所なり。
又我等。為一切世間。 又、我等は為れ一切世間の
天人阿修羅。所見知識。 天、人、阿修羅に知識せらる所なり。
阿難常為侍者。護持法蔵。 阿難は常に侍者と為って法蔵を護持す。
羅睺羅。是仏之子。 羅睺羅は是れ仏の子なり。
309
若仏見授。阿耨多羅三藐三菩提記者。 若し仏、阿耨多羅三藐三菩提の記を授けらるれば、
我願既満。衆望亦足。 我が願既に満じて衆の望亦足りなん。
爾時学無学。声聞弟子。二千人。 爾の時に、学無学の声聞の弟子二千人、
皆従座起。偏袒右肩。 皆座より起って、偏に右の肩を袒にし、
到於仏前。一心合掌。 仏の前に到り、一心に合掌し、
瞻仰世尊。如阿難。羅睺羅所願。 世尊を瞻仰して、阿難、羅睺羅の所願の如くにして、
住立一面。 一面に住立せり。
爾時仏告阿難。 爾の時に仏、阿難に告げたまわく、
汝於来世。当得作仏。 汝来世に於て、当に作仏することを得べし。
号山海慧自在通王如来。応供。 山海慧自在通王如来・応供・
正遍知。明行足。善逝。世間解。 正遍知・明行足・善逝・世間解・
無上士。調御丈夫。天人師。仏世尊。 無上士・調御丈夫・天人師・仏世尊と号けん。
当供養。六十二億諸仏。護持法蔵。 当に六十二億の諸仏を供養し、法蔵を護持して、
然後得阿耨多羅三藐三菩提。 然して後に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。
教化二十千万億。恒河沙。諸菩薩等。 二十千万億恒河沙の諸の菩薩等を教化して、
310
令成阿耨多羅三藐三菩提。 阿耨多羅三藐三菩提を成ぜしめん。
国名常立勝幡。其土清浄。 国を常立勝幡と名づけ、其の土清浄にして、
瑠璃為地。劫名妙音遍満。 瑠璃を地と為ん。劫を妙音遍満と名づけん。
其仏寿命。無量千万億。阿僧祇劫。 其の仏の寿命、無量千万億阿僧祗劫ならん。
若人於千万億。無量阿僧祗劫中。 若し人、千万億無量阿僧祇劫の中に於て、
算数校計。不能得知。 算数校計すとも、知ることを得ること能わじ。
正法住世。倍於寿命。 正法世に住すること寿命に倍し、
像法住世。復倍正法。 像法世に住すること復正法に倍せん。
阿難。是山海慧自在通王仏。 阿難、是の山海慧自在通王仏は、
為十方。無量千万億。 十方の無量千万億
恒河沙等。諸仏如来。 恒河沙等の諸仏如来に、
所共讃歎。称其功徳。 共に其の功徳を讃歎し称せらるることを為ん。
爾時世尊。欲重宣此義。 爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、
而説偈言 偈を説いて言わく、
我今僧中説 阿難持法者 我今僧中にして説く 阿難持法者
311
当供養諸仏 然後成正覚 当に諸仏を供養し 然して後に正覚を成ずべし
号曰山海慧 自在通王仏 号を山海慧 自在通王仏と曰わん
其国土清浄 名常立勝幡 其の国土清浄にして 常立勝幡と名づけん
教化諸菩薩 其数如恒沙 諸の菩薩を教化すること 其の数恒沙の如くならん
仏有大威徳 名聞満十方 仏大威徳有して 名聞十方に満ち
寿命無有量 以愍衆生故 寿命量有ること無けん 衆生を愍れむを以ての故に
正法倍寿命 像法復倍是 正法寿命に倍し 像法復是に倍せん
如恒河沙等 無数諸衆生 恒河沙等の如き 無数の諸の衆生
於此仏法中 種仏道因縁 此の仏法の中に於て 仏道の因縁を種えん
爾時会中。新発意菩薩八千人。 爾の時に、会中の新発意の菩薩八千人、
咸作是念。 咸く是の念を作さく、
我等尚不聞。諸大菩薩。得如是記。 我等、尚、諸の大菩薩の、是の如き記を得ることを聞かず。
有何因縁。而諸声聞。得如是決。 何の因縁有って、諸の声聞、是の如き決を得る。
312
爾時世尊。知諸菩薩。心之所念。 爾の時に世尊、諸の菩薩の心の所念を知ろしめして、
而告之曰。 之に告げて曰わく、
諸善男子。我与阿難等。於空王仏所。 諸の善男子、我と阿難とは等しく、空王仏の所に於て、
同時発阿耨多羅三藐三菩提心。 同時に阿耨多羅三藐三菩提の心を発しき。
阿難常楽多聞。我常勤精進。 阿難は常に多聞を楽い、我は常に勤めて精進す。
是故我已。 是の故に我は已に、
得成阿耨多羅三藐三菩提。 阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得たり。
而阿難。護持我法。 而るに阿難は、我が法を護持し、
亦護将来。諸仏法蔵。 亦、将来の諸仏の法蔵を護って、
教化成就。諸菩薩衆。 諸の菩薩衆を教化し成就せん。
其本願如是。故獲斯記。 其の本願是の如し。故に斯の記を獲。
阿難面於仏前。自聞授記。 阿難面り仏前に於て、自ら授記、
及国土荘厳。所願具足。 及び国土の荘厳を聞きたてまつりて、所願具足し、
心大歓喜。得未曽有。 心大いに歓喜して、未曽有なることを得たり。
即時憶念。過去無量千万億。 即時に過去の、無量千万億の
諸仏法蔵。通達無礙。 諸仏の法蔵を憶念するに、通達無礙なること、
313
如今所聞。亦識本願。 今聞く所の如し。亦本願を識りぬ。
爾時阿難。而説偈言 爾の時に阿難、偈を説いて言さく、
世尊甚希有 令我念過去 世尊は甚だ希有なり 我をして過去の
無量諸仏法 如今日所聞 無量の諸仏の法を念ぜしめたもう 今日聞く所の如し
我今無復疑 安住於仏道 我今復疑無くして 仏道に安住しぬ
方便為侍者 護持諸仏法 方便をもって侍者と為り 諸仏の法を護持せん
爾時仏告羅睺羅。 爾の時に仏、羅睺羅に告げたまわく、
汝於来世。当得作仏。 汝来世に於て、当に作仏することを得べし。
号蹈七宝華如来。応供。正遍知。 蹈七宝華如来・応供・正遍知・
明行足。善逝。世間解。無上士。 明行足・善逝・世間解・無上士・調御丈夫・
調御丈夫。天人師。仏世尊。 天人師・仏世尊と号けん。
当供養十世界。微塵等数。諸仏如来。 当に十世界、微塵等数の諸仏如来を供養すべし。
常為諸仏。而作長子。 常に諸仏の為に、而も長子と作ること、
314
猶如今也。 猶今の如くならん。
是蹈七宝華仏。国土荘厳。寿命劫数。 是の蹈七宝華仏の国土の荘厳、寿命の劫数、
所化弟子。正法像法。 所化の弟子、正法、像法、
亦如山海慧自在通王如来無異。 亦山海慧自在通王如来の如くにして、異ること無けん。
亦為此仏。而作長子。 亦此の仏の為に、而も長子と作らん。
過是已後。当得阿耨多羅三藐三菩提。 是を過ぎて已後、当に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。
爾時世尊。欲重宣此義。 爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、
而説偈言 偈を説いて言わく、
我為太子時 羅睺為長子 我太子為りし時 羅睺長子と為り
我今成仏道 受法為法子 我今仏道を成ずれば 法を受けて法子と為れり
於未来世中 見無量億仏 未来世の中に於て 無量億の仏を見たてまつるに
皆為其長子 一心求仏道 皆其の長子と為って 一心に仏道を求めん
羅睺羅密行 唯我能知之 羅睺羅の密行は 唯我のみ能く之を知れり
現為我長子 以示諸衆生 現に我が長子と為って 以て諸の衆生に示す
315
無量億千万 功徳不可数 無量億千万の 功徳数うべからず
安住於仏法 以求無上道 仏法に安住して 以て無上道を求む
爾時世尊。見学無学二千人。 爾の時に世尊、学無学の二千人を見たもうに、
其意柔軟。寂然清浄。 其の意柔軟に、寂然清浄にして、
一心観仏。仏告阿難。 一心に仏を観たてまつる。仏、阿難に告げたまわく、
汝見是学無学二千人不。 汝、是の学無学の二千人を見るや不や。
唯然已見。 唯然なり、已に見る。
阿難。是諸人等。 阿難、是の諸人等は、
当供養。五十世界微塵数。諸仏如来。 当に五十世界微塵数の諸仏如来を供養し、
恭敬尊重。護持法蔵。末後同時。 恭敬尊重し、法蔵を護持して、末後に同時に、
於十方国。各得成仏。 十方の国に於て、各成仏することを得べし。
皆同一号。名曰宝相如来。応供。 皆同じく一号にして、名づけて宝相如来・応供・
正遍知。明行足。善逝。世間解。 正通知・明行足・善逝・世間解・
無上士。調御丈夫。天人師。仏世尊。 無上士・調御丈夫・天人師・仏世尊と曰わん。
316
寿命一劫。国土荘厳。声聞菩薩。 寿命一劫ならん。国土の荘厳、声聞、菩薩、
正法像法。皆悉同等。 正法、像法、皆悉く同等ならん。
爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言 爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
是二千声聞 今於我前住 是の二千の声聞 今我が前に於て住せり
悉皆与授記 未来当成仏 悉く皆授記を与う 未来に当に成仏すべし
所供養諸仏 如上説塵数 供養する所の諸仏は 上に説く塵数の如くならん
護持其法蔵 後当成正覚 其の法蔵を護持して 後に当に正覚を成ずべし
各於十方国 悉同一名号 各十方の国に於て 悉く同じく一名号ならん
倶時坐道場 以証無上慧 倶時に道場に坐して 以て無上慧を証し
皆名為宝相 国土及弟子 皆名づけて宝相と為ん 国土及び弟子
正法与像法 悉等無有異 正法と像法と 悉く等しくして異なること有ること無けん
317
咸以諸神通 度十方衆生 咸く諸の神通を以て 十方の衆生を度し
名聞普周遍 漸入於涅槃 名聞普く周遍して 漸く涅槃に入らん
爾時学無学二千人。聞仏授記。 爾の時に学無学の二千人、仏の授記を聞きたてまつりて、
歓喜踊躍。而説偈言 歓喜踊躍して、偈を説いて言さく、
世尊慧灯明 我聞授記音 世尊は慧の灯明なり 我授記の音を聞きたてまつりて
心歓喜充満 如甘露見灌 心に歓喜充満せること 甘露をもって灌がるるが如し