245
仏告諸比丘。 仏、諸の比丘に告げたまわく、
乃往過去。無量無辺。不可思議。 乃往過去、無量無辺不可思議
阿僧祇劫。爾時有仏。 阿僧祇劫、爾の時に仏有しき。
名大通智勝如来。応供。正遍知。 大通智勝如来・応供・正遍知・
明行足。善逝。世間解。無上士。 明行足・善逝・世間解・無上士・
調御丈夫。天人師。仏世尊。 調御丈夫・天人師・仏世尊と名づく。
其国名好成。劫名大相。 其の国を好成と名づけ、劫を大相と名づく。
諸比丘。彼仏滅度已来。甚大久遠。 諸の比丘、彼の仏の滅度より已来、甚だ大いに久遠なり。
譬如三千大千世界。所有地種。 譬えば三千大干世界の所有の地種を、
仮使有人。磨以為墨。 仮使人有って、磨り、以て墨と為し、
過於東方。千国土。 東方の千の国土を過ぎて、
246
乃下一点。大如微塵。 乃ち一点を下さん。大さ微塵の如し。
又過千国土。復下一点。 又、千の国土を過ぎて、復一点を下さん。
如是展転。尽地種墨。 是の如く、展転して地種の墨を尽さんが如き、
於汝等意云何。是諸国土。 汝等が意に於て云何。是の諸の国土を、
若算師。若算師弟子。 若しは算師、若しは算師の弟子、
能得辺際。知其数不。 能く辺際を得て、其の数を知らんや不や。
不也世尊。 不なり、世尊。
諸比丘。是人所経国土。 諸の比丘、是の人の経る所の国土の、
若点不点。尽抹為塵。 若しは点ぜると点ぜざるとを、尽く抹して塵と為して、
一塵一劫。彼仏滅度已来。 一塵を一劫とせん。彼の仏の滅度より已来、
復過是数。無量無辺。 復是の数に過ぎたること、無量無辺
百千万億。阿僧祇劫。 百千万億阿僧祇劫なり。
我以如来知見力故。 我、如来の知見力を以ての故に、
観彼久遠。猶如今日。 彼の久遠を観ること、猶今日の如し。
爾時世尊。欲重宣此義。 爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、
而説偈言。 偈を説いて言わく、
247
我念過去世 無量無辺劫 我過去世の 無量無辺劫を念うに
有仏両足尊 名大通智勝 仏両足尊有しき 大通智勝と名づく
如人以力磨 三千大千土 如し人力を以て 三千大千の土を磨って
尽此諸地種 皆悉以為墨 此の諸の地種を尽して 皆悉く以て墨と為し
過於千国土 乃下一塵点 千の国土を過ぎて 乃ち一の塵点を下さん
如是展転点 尽此諸塵墨 是の如く展転し点じて 此の諸の塵墨を尽さん
如是諸国土 点与不点等 是の如き諸の国土の 点ぜると点ぜざると等を
復尽抹為塵 一塵為一劫 復尽く抹して塵と為し 一塵を一劫と為ん
此諸微塵数 其劫復過是 此の諸の微塵の数に 其の劫復是に過ぎたり
彼仏滅度来 如是無量劫 彼の仏の滅度より来 是の如く無量劫なり
如来無礙智 知彼仏滅度 如来の無礙智 彼の仏の滅度
及声聞菩薩 如見今滅度 及び声聞菩薩を知ること 今の滅度を見るが如し
248
諸比丘当知 仏智浄微妙 諸の比丘当に知るべし 仏智は浄くして微妙に
無漏無所礙 通達無量劫 無漏無所礙にして 無量劫を通達す
仏告諸比丘。 仏、諸の比丘に告げたまわく、
大通智勝仏。 大通智勝仏は、
寿五百四十万億。那由他劫。 寿五百四十万億那由他劫なり。
其仏本坐道場。破魔軍已。 其の仏、本、道場に坐して、魔軍を破し已って、
垂得阿耨多羅三藐三菩提。 阿耨多羅三藐三菩提を得たもうに垂んとするに、
而諸仏法。不現在前。 而も諸仏の法、現在前せず。
如是一小劫。乃至十小劫。 是の如くして一小劫、乃至十小劫、
結跏趺坐。身心不動。 結跏趺坐して、身心動じたまわず。
而諸仏法。猶不在前。 而も諸仏の法、猶在前せざりき。
爾時忉利諸天。先為彼仏。 爾の時に忉利の諸天、先より彼の仏の為に、
於菩提樹下。敷師子座。 菩提樹下に於て、師子座を敷けり。
高一由旬。仏於此座。 高さ一由旬なり。仏、此の座に於て、
当得阿耨多羅三藐三菩提。 当に阿耨多羅三藐三菩提を得たもうべしと。
適坐此座。時諸梵天王。 適めて此の座に坐したもう。時に諸の梵天王、
雨衆天華。面百由旬。 衆の天華を雨らすこと、面ごとに百由旬なり。
249
香風時来。 香風、時に来って、
吹去萎華。更雨新者。 萎める華を吹き去って、更に新しき者を雨らす。
如是不絶。満十小劫。供養於仏。 是の如く絶えず、十小劫を満てて、仏を供養す。
乃至滅度。常雨此華。 乃至滅度まで、常に此の華を雨らしき。
四王諸天。為供養仏。常撃天鼓。 四王の諸天は、仏を供養せんが為に、常に天鼓を撃つ。
其余諸天。作天伎楽。 其の余の諸天、天の伎楽を作すこと、
満十小劫。至于滅度。亦復如是。 十小劫を満つ。滅度に至るまで、亦復是の如し。
諸比丘。大通智勝仏。過十小劫。 諸の比丘、大通智勝仏、十小劫を過ぎて、
諸仏之法。乃現在前。 諸仏の法、乃し現在前して、
成阿耨多羅三藐三菩提。 阿耨多羅三藐三菩提を成じたまいき。
其仏未出家時。有十六子。 其の仏、未だ出家したまわざりし時に、十六の子有り。
其第一者。名曰智積。 其の第一をば、名を智積と曰う。
諸子各有。種種珍異。玩好之具。 諸子、各種種の珍異玩好の具有り。
聞父得成。阿耨多羅三藐三菩提。 父、阿耨多羅三藐三菩提を成ずるを得たもうと聞いて、
皆捨所珍。往詣仏所。 皆、所珍を捨てて、仏所に往詣す。
諸母涕泣。而随送之。 諸母、涕泣して、随って之を送る。
250
其祖転輪聖王。 其の祖転輪聖王、
与一百大臣。及余百千万億人民。 一百の大臣、及び余の百千万億の人民と、
随至道場。皆共囲遶。 皆共に囲遶して、随いて道場に至る。
咸欲親近。大通智勝如来。 咸く大通智勝如来に親近して、
供養恭敬。尊重讃歎。 供養恭敬し、尊重讃歎したてまつらんと欲す。
到已頭面礼足。遶仏畢已。 到り已って、頭面に足を礼し、仏を遶り畢已って、
一心合掌。瞻仰世尊。以偈頌曰 一心に合掌し、世尊を瞻仰して、偈を以て頌して曰さく、
大威徳世尊 為度衆生故 大威徳世尊 衆生を度せんが為の故に
於無量億歳 爾乃得成仏 無量の億歳に於て 爾して乃し成仏することを得
諸願已具足 善哉吉無上 諸願已に具足したまえり 善哉吉無上
世尊甚希有 一坐十小劫 世尊は甚だ希有なり 一び坐して十小劫
身体及手足 静然安不動 身体及び手足 静然として安じて動じたまわず
其心常憺怕 未曽有散乱 其の心常に憺怕にして 末だ曽て散乱有らず
究竟永寂滅 安住無漏法 究竟して永く寂滅し 無漏の法に安住したまえり
251
今者見世尊 安穏成仏道 今者世尊の 安穏に仏道を成じたもうを見て
我等得善利 称慶大歓喜 我等善利を得 称慶して大いに歓喜す
衆生常苦悩 盲冥無導師 衆生は常に苦悩し 盲冥にして導師無し
不識苦尽道 不知求解脱 苦尽の道を識らず 解脱を求むることを知らずして
長夜増悪趣 減損諸天衆 長夜に悪趣を増し 諸天衆を減損す
従冥入於冥 永不聞仏名 冥きより冥きに入り 永く仏の名を聞かず
今仏得最上 安穏無漏法 今仏最上 安穏無漏の法を得たまえり
我等及天人 為得最大利 我等及び天人 為れ最大の利を得たり
是故咸稽首 帰命無上尊 是の故に咸く稽首して 無上尊に帰命したてまつる
爾時十六王子。偈讃仏已。 爾の時に十六の王子、偈をもって仏を讃め已って、
勧請世尊。転於法輪。咸作是言。 世尊に法輪を転じたまえと勧請し、咸く是の言を作さく、
世尊説法。多所安穏 世尊、法を説きたまえ。安穏ならしむる所多からん。
252
憐愍饒益。諸天人民。 諸天、人民を憐愍し、饒益したまえ。
重説偈言 重ねて偈を説いて言さく、
世雄無等倫 百福自荘厳 世雄は等倫無し 百福をもって自ら荘厳し
得無上智慧 願為世間説 無上の智慧を得たまえり 願わくは世間の為に説いて
度脱於我等 及諸衆生類 我等 及び諸の衆生の類を度脱し
為分別顕示 令得是智慧 為に分別し顕示して 是の智慧を得せしめたまえ
若我等得仏 衆生亦復然 若し我等仏を得ば 衆生亦復然ならん
世尊知衆生 深心之所念 世尊は衆生 深心の所念を知り
亦知所行道 又知智慧力 亦所行の道を知り 又智慧力を知ろしめせり
欲楽及修福 宿命所行業 欲楽及び修福 宿命所行の業
世尊悉知已 当転無上輪 世尊悉く知ろしめし已れり 当に無上輪を転じたもうべし
仏告諸比丘。 仏、諸の比丘に告げたまわく、
253
大通智勝仏。得阿耨多羅三藐三菩提時。 大通智勝仏、阿耨多羅三藐三菩提を得たまいし時、
十方各五百万億。諸仏世界。 十方各五百万億の諸仏世界、
六種震動。其国中間。幽冥之処。 六種に震動し、其の国の中間、幽冥の処、
日月威光。所不能照。 日月の威光も照すこと能わざる所、
而皆大明。其中衆生。 而も皆大いに明かとなり、其の中の衆生、
各得相見。咸作是言。 各相見ることを得て、咸く是の言を作さく、
此中云何。忽生衆生。 此の中に云何ぞ、忽ちに衆生を生ぜる。
又其国界。諸天宮殿。乃至梵宮。 又其の国界の諸天の宮殿、乃至梵宮まで、
六種震動。大光普照。遍満世界。 六種に震動し、大光普く照して、世界に遍満し、
勝諸天光。爾時東方。五百万億。 諸天の光に勝れり。爾の時に、東方五百万億の、
諸国土中。梵天宮殿。光明照曜。 諸の国土の中の梵天の宮殿、光明照曜して、
倍於常明。諸梵天王。各作是念。 常の明に倍れり。諸の梵天王、各是の念を作さく、
今者宮殿光明。昔所未有。 今者、宮殿の光明、昔より未だ有らざる所なり。
以何因縁。而現此相。 何の因縁を以て、此の相を現ずる。
254
是時諸梵天王。即各相詣。共議此事。 是の時に諸の梵天王、即ち各相詣って、共に此の事を議す。
而彼衆中。有一大梵天王。名救一切。 而も彼の衆の中に、一りの大梵天王有り。救一切と名づく。
為諸梵衆。而説偈言 諸の梵衆の為に、偈を説いて言わく、
我等諸宮殿 光明昔未有 我等が諸の宮殿 光明昔より未だ有らず
此是何因縁 宜各共求之 此は是れ何の因縁ぞ 宜しく各共に之を求むべし
為大徳天生 為仏出世間 大徳の天の生ぜるとや為ん 仏の世間に出でたまえるとや為ん
而此大光明 遍照於十方 而も此の大光明は 遍く十方を照す
爾時。五百万億国土。諸梵天王。 爾の時に、五百万億の国土の、諸の梵天王、
与宮殿倶。各以衣裓。盛諸天華。 宮殿と倶に、各衣裓を以て、諸の天華を盛って、
共詣西方。推尋是相。 共に西方に詣いて是の相を推尋するに、
見大通智勝如来。処于道場。菩提樹下。 大通智勝如来の道場菩提樹下に処し、
坐師子座。諸天。龍王。乾闥婆。緊那羅。 師子座に坐して、諸天、龍王、乾闥婆、緊那羅、
255
摩睺羅伽。人非人等。恭敬囲遶。 摩睺羅伽の、人非人等の、恭敬囲遶せるを見、
及見十六王子。諸仏転法輪。 及び十六王子の、仏に転法輪を請ずるを見る。
即時諸梵天王。頭面礼仏。 即時に諸の梵天王、頭面に仏を礼し、
遶百千帀。即以天華。而散仏上。 遶ること百千帀して、即ち天華を以て、仏の上に散ず。
其所散華。如須弥山。 其の所散の華、須弥山の如し。
并以供養。仏菩提樹。 并びに以て、仏の菩提樹に供養す。
其菩提樹。高十由旬。 其の菩提樹、高さ十由旬なり。
華供養已。各以宮殿。 華の供養已って、各宮殿を以て、
奉上彼仏。而作是言。 彼の仏に奉上して、是の言を作さく、
唯見哀愍。饒益我等。 唯、我等を哀愍し饒益せられて、
所献宮殿。願垂納処。 所献の宮殿、願わくは納処を垂れたまえ。
時諸梵天王。即於仏前。 時に諸の梵天王、即ち仏前に於て、
一心同声。以偈頌曰 一心に声を同じうして、偈を以て頌して曰さく、
世尊甚希有 難可得値遇 世尊は甚だ希有にして 値遇すること得べきこと難し
具無量功徳 能救護一切 無量の功徳を具して 能く一切を救護し
256
天人之大師 哀愍於世間 天人の大師として 世間を哀愍したもう
十方諸衆生 普皆蒙饒益 十方の諸の衆生 普く皆饒益を蒙る
我等所従来 五百万億国 我等が従来せる所は 五百万億の国なり
捨深禅定楽 為供養仏故 深禅定の楽を捨てたることは 仏を供養せんが為の故なり
我等先世福 宮殿甚厳飾 我等先世の福あって 宮殿甚だ厳飾せり
今以奉世尊 唯願哀納受 今以て世尊に奉る 唯願わくは哀れみて納受したまえ
爾時諸梵天王。 爾の時に諸の梵天王、
偈讃仏已。各作是言。 偈をもって仏を讃め已って、各是の言を作さく、
唯願世尊。 唯願わくは世尊、
転於法輪。度脱衆生。開涅槃道。 法輪を転じて衆生を度脱し、涅槃の道を開きたまえ。
時諸梵天王。一心同声。而説偈言 時に諸の梵天王、一心に声を同じうして、偈を説いて言さく、
世雄両足尊 唯願演説法 世雄両足尊 唯願わくは法を演説し
257
以大慈悲力 度苦悩衆生 大慈悲の力を以て 苦悩の衆生を度したまえ
爾時大通智勝如来。黙然許之。 爾の時に大通智勝如来、黙然として之を許したもう。
又諸比丘。東南方。五百万億国土。 又諸の比丘、東南方五百万億の国土の、
諸大梵王。各自見宮殿。光明照曜。 諸の大梵王、各自ら、宮殿の光明照曜して、
昔所未有。歓喜踊躍。 昔より未だ有らざる所なるを見て、歓喜踊躍し、
生希有心。即各相詣。 希有の心を生じて、即ち各相詣って、
共議此事。時彼衆中。 共に此の事を議す。時に彼の衆の中に、
有一大梵天王。名曰大悲。 一りの大梵天王有り、名を大悲と曰う。
為諸梵衆。而説偈言 諸の梵衆の為に、偈を説いて言わく、
是事何因縁 而現如此相 是の事何の因縁あって 此の如き相を現ずる
我等諸宮殿 光明昔未有 我等が諸の宮殿 光明昔より未だ有らず
為大徳天生 為仏出世間 大徳の天の生ぜるとや為ん 仏の世間に出でたまえるとや為ん
未曽見此相 当共一心求 未だ曽て此の相を見ず 当に共に一心に求むべし
258
過千万億土 尋光共推之 千万億の土を過ぐとも 光を尋ねて共に之を推せん
多是仏出世 度脱苦衆生 多くは是れ仏の世に出でて 苦の衆生を度脱したもうならん
爾時。五百万億。諸梵天王。 爾の時に、五百万億の諸の梵天王、
与宮殿倶。各以衣裓。盛諸天華。 宮殿と倶に、各衣裓を以て、諸の天華を盛って、
共詣西北方。推尋是相。 共に西北方に詣いて、是の相を推尋するに、
見大通智勝如来。 大通智勝如来の、
処于道場。菩提樹下。坐師子座。 道場菩提樹下に処し師子座に坐して、
諸天。龍王。乾闥婆。緊那羅。 諸天、龍王、乾闥婆、緊那羅、
摩睺羅伽。人非人等。恭敬囲遶。 摩睺羅伽の、人非人等の、恭敬し囲遶せるを見、
及見十六王子。諸仏転法輪。 及び十六王子の、仏に転法輪を請ずるを見る。
時諸梵天王。頭面礼仏。 時に諸の梵天王、頭面に仏を礼し、
遶百千帀。即以天華。而散仏上。 遶ること百千帀して、即ち天華を以て、仏の上に散ず。
所散之華。如須弥山。 所散の華、須弥山の如し。
并以供養。仏菩提樹。 并びに以て、仏の菩提樹に供養す。
華供養已。各以宮殿。 華の供養已って、各宮殿を以て、
奉上彼仏。而作是言。 彼の仏に奉上して、是の言を作さく、
259
唯見哀愍。饒益我等。 唯、我等を哀愍し、饒益せられて、
所献宮殿。願垂納処。 所献の宮殿を、願わくは納処を垂れたまえ。
爾時諸梵天王。即於仏前。 爾の時に諸の梵天王、即ち仏前に於て、
一心同声。以偈頌曰 一心に声を同じうして、偈を以て頌して曰さく、
聖主天中天 迦陵頻伽声 聖主天中天 迦陵頻伽の声をもって
哀愍衆生者 我等今敬礼 衆生を哀愍したもう者 我等今敬礼す
世尊甚希有 久遠乃一現 世尊は甚だ希有にして 久遠に乃し一たび現じたもう
一百八十劫 空過無有仏 一百八十劫 空しく過ぎて仏有すこと無し
三悪道充満 諸天衆減少 三悪道充満し 諸天衆は減少せり
今仏出於世 為衆生作眼 今仏世に出でて 衆生の為に眼と作り
世間所帰趣 救護於一切 世間の帰趣する所として 一切を救護し
為衆生之父 哀愍饒益者 衆生の父と為って 哀愍し饒益したもう者なり
260
我等宿福慶 今得値世尊 我等に宿福の慶あって 今世尊に値いたてまつることを得たり
爾時諸梵天王。偈讃仏已。 爾の時に諸の梵天王、偈をもって仏を讃め已って、
各作是言。 各是の言を作さく、
唯願世尊。哀愍一切。 唯願わくは世尊、一切を哀愍して、
転於法輪。度脱衆生。 法輪を転じ、衆生を度脱したまえ。
時諸梵天王。一心同声。而説偈言 時に諸の梵天王、一心に声を同じうして、偈を説いて言さく、
大聖転法輪 顕示諸法相 大聖法輪を転じて 諸法の相を顕示し
度苦悩衆生 令得大歓喜 苦悩の衆生を度して 大歓喜を得せしめたまえ
衆生聞此法 得道若生天 衆生此の法を聞かば 道を得若しは天に生じ
諸悪道減少 忍善者増益 諸の悪道減少し 忍善の者は増益せん
爾時大通智勝如来。黙然許之。 爾の時に大通智勝如来、黙然として之を許したもう。
又諸比丘。南方五百万億国土。 又諸の比丘、南方五百万億の国土の、
261
諸大梵王。各自見宮殿。光明照曜。 諸の大梵王、各自ら、宮殿の光明照曜して、
昔所未有。歓喜踊躍。 昔より未だ有らざる所なるを見て、歓喜踊躍し、
生希有心。即各相詣。共議此事。 希有の心を生じて、即ち各相詣って、共に此の事を議す。
以何因縁。我等宮殿。有此光曜。 何の因縁を以て、我等が宮殿、此の光曜有る。
而彼衆中。有一大梵天王。 而も彼の衆の中に、一りの大梵天王有り、
名曰妙法。為諸梵衆。而説偈言 名を妙法と曰う。諸の梵衆の為に、偈を説いて言わく、
我等諸官殿 光明甚威曜 我等が諸の宮殿 光明甚だ威曜せり
此非無因縁 是相宜求之 此れ因縁無きに非じ 是の相宜しく之を求むべし
過於百千劫 未曽見是相 百千劫を過ぐれども 未だ曽て是の相を見ず
為大徳天生 為仏出世間 大徳の天の生ぜるとや為ん 仏の世間に出でたまえるとや為ん
爾時。五百万億。諸梵天王。与宮殿倶。 爾の時に、五百万億の諸の梵天王、宮殿と倶に、
各以衣裓。盛諸天華。 各衣裓を以て、諸の天華を盛って、
262
共詣北方。推尋是相。 共に北方に詣いて、是の相を推尋するに、
見大通智勝如来。 大通智勝如来の、
処于道場。菩提樹下。坐師子座。 道場菩提樹下に処し、師子座に坐して、
諸天。龍王。乾闥婆。緊那羅。 諸天、龍王、乾闥婆、緊那羅、
摩睺羅伽。人非人等。恭敬囲遶。 摩睺羅伽の、人非人等の、恭敬囲遶せるを見、
及見十六王子。諸仏転法輪。 及び十六王子の、仏に転法輪を請ずるを見る。
時諸梵天王。頭面礼仏。 時に諸の梵天王、頭面に仏を礼し、
遶百千帀。即以天華。 遶ること百千帀して、即ち天華を以て、
而散仏上。所散之華。如須弥山。 仏の上に散ず。所散の華、須弥山の如し。
并以供養。仏菩提樹。 并びに以て、仏の菩提樹に供養す。
華供養已。各以宮殿。 華の供養已って、各宮殿を以て、
奉上彼仏。而作是言。 彼の仏に奉上して、是の言を作さく、
唯見哀愍。饒益我等。 唯、我等を哀愍し、饒益せられて、
所献宮殿。願垂納処。 所献の宮殿、願わくは納処を垂れたまえ。
爾時諸梵天王。即於仏前。 爾の時に諸の梵天王、即ち仏前に於て、
一心同声。以偈頌曰 一心に声を同じうして、偈を以て頌して曰さく、
263
世尊甚難見 破諸煩悩者 世尊は甚だ見たてまつり難し 諸の煩悩を破したまえる者なり
過百三十劫 今乃得一見 百三十劫を過ぎて 今乃ち一び見たてまつることを得
諸飢渇衆生 以法雨充満 諸の飢渇の衆生に 法雨を以て充満したもう
昔所未曽覩 無量智慧者 昔より未だ曽て覩ざる所の 無量の智慧者なり
如優曇波羅 今日乃値遇 優曇波羅の如くにして 今日乃ち値遇したてまつる
我等諸宮殿 蒙光故厳飾 我等が諸の宮殿 光を蒙るが故に厳飾せり
世尊大慈悲 唯願垂納受 世尊大慈悲をもって 唯願わくは納受を垂れたまえ
爾時諸梵天王。偈讃仏已。 爾の時に諸の梵天王、偈をもって仏を讃め已って、
各作是言。 各是の言を作さく、
唯願世尊。転於法輪。令一切世間。 唯願わくは世尊、法輪を転じて、一切世間の
諸天。魔。梵。沙門。婆羅門。 諸天、魔、梵、沙門、婆羅門をして、
皆獲安穏。而得度脱。 皆安穏なることを獲、而も度脱することを得せしめたまえと。
264
時諸梵天王。一心同声。以偈頌曰 時に諸の梵天王、一心に声を同じうして、偈を以て頌して曰さく、
唯願天人尊 転無上法輪 唯願わくは天人尊 無上の法輪を転じ
撃于大法鼓 而吹大法螺 大法の鼓を撃ち 大法の螺を吹き
普雨大法雨 度無量衆生 普く大法の雨を雨らして 無量の衆生を度したまえ
我等咸帰請 当演深遠音 我等咸く帰請したてまつる 当に深遠の音を演べたもうべし
爾時大通智勝如来。黙然許之。 爾の時に大通智勝如来、黙然として之を許したもう。
西南方。乃至下方。亦復如是。 西南方、乃至下方も、亦復是の如し。
爾時上方。五百万億国土。諸大梵王。 爾の時に上方、五百万億の国土の、諸の大梵王、
皆悉自覩。所止宮殿。光明威曜。 皆悉く、自らの所止の宮殿の光明威曜して、
昔所未有。歓喜踊躍。 昔より未だ有らざる所なるを覩て、歓喜踊躍し、
生希有心。即各相詣。共議此事。 希有の心を生じて、即ち各相詣って、共に此の事を議す。
265
以何因縁。我等宮殿。有斯光明。 何の因縁を以て、我等が宮殿に、斯の光明有る。
而彼衆中。有一大梵天王。名曰尸棄。 而も彼の衆の中に、一りの大梵天王有り、名を尸棄と曰う。
為諸梵衆。而説偈言 諸の梵衆の為に、偈を説いて言わく、
今以何因縁 我等諸宮殿 今何の因縁を以て 我等が諸の宮殿
威徳光明曜 厳飾未曽有 威徳光明曜き 厳飾せること未曽有なる
如是之妙相 昔所未聞見 是の如きの妙相は 昔より未だ聞き見ざる所なり
為大徳天生 為仏出世間 大徳の天の生ぜるとや為ん 仏の世間に出でたまえるとや為ん
爾時。五百万億。諸梵天王。 爾の時に、五百万億の諸の梵天王、
与宮殿倶。各以衣裓。盛諸天華。 宮殿と倶に、各衣裓を以て、諸の天華を盛って、
共詣下方。推尋是相。 共に下方に詣いて是の相を推尋するに、
見大通智勝如来。処于道場。菩提樹下。 大通智勝如来の道場、菩提樹下に処し、
坐師子座。諸天。龍王。 師子座に坐して、諸天、龍王、
乾闥婆。緊那羅。 乾闥婆、緊那羅、
266
摩睺羅伽。人非人等。恭敬囲遶。 摩睺羅伽の、人非人等の、恭敬囲遶せるを見、
及見十六王子。請仏転法輪。 及び十六王子の、仏に転法輪を請ずるを見る。
時諸梵天王。頭面礼仏。 時に諸の梵天王、頭面に仏を礼し、
遶百千帀。即以天華。 遶ること百千帀して、即ち天華を以て、
而散仏上。所散之華。如須弥山。 仏の上に散ず。所散の華、須弥山の如し。
并以供養。仏菩提樹。 并びに以て、仏の菩提樹に供養す。
華供養已。各以宮殿。 華の供養已って、各宮殿を以て、
奉上彼仏。而作是言。 彼の仏に奉上して、是の言を作さく、
唯見哀愍。饒益我等。 唯、我等を哀愍し、饒益せられて、
所献宮殿。願垂納処。 所献の宮殿、願わくは納処を垂れたまえ。
時諸梵天王。即於仏前。 時に諸の梵天王、即ち仏前に於て、
一心同声。以偈頌曰 一心に声を同じうして、偈を以て頌して曰さく、
善哉見諸仏 救世之聖尊 善哉諸仏 救世の聖尊を見たてまつるに
能於三界獄 勉出諸衆生 能く三界の獄より 諸の衆生を勉出したもう
普智天人尊 愍哀群萌類 普智なる天人尊 群萌類を愍哀し
267
能開甘露門 広度於一切 能く甘露の門を開いて 広く一切を度したもう
於昔無量劫 空過無有仏 昔の無量劫に於て 空しく過ぎて仏有すこと無し
世尊未出時 十方常暗瞑 世尊未だ出でたまわざりし時は 十方常に暗瞑にして
三悪道増長 阿修羅亦盛 三悪道増長し 阿修羅亦盛んなり
諸天衆転減 死多堕悪道 請天衆転滅じ 死して多く悪道に堕つ
不従仏聞法 常行不善事 仏より法を聞かず 常に不善の事を行じ
色力及智慧 斯等皆減少 色力及び智慧 斯等は皆減少す
罪業因縁故 失楽及楽想 罪業の因縁の故に 楽及び楽の想を失い
住於邪見法 不識善儀則 邪見の法に住して 善の儀則を識らず
不蒙仏所化 常堕於悪道 仏の所化を蒙らずして 常に悪道に堕つ
仏為世間眼 久遠時乃出 仏は世間の眼と為って 久遠に時に乃し出でたまえり
哀愍諸衆生 故現於世間 諸の衆生を哀愍したもう故に 世間に現じ
268
超出成正覚 我等甚欣慶 超出して正覚を成じたまえり 我等は甚だ欣慶す
及余一切衆 喜歎未曽有 及び余の一切の衆も 喜んで未曽有なりと歎ず
我等諸宮殿 蒙光故厳飾 我等が諸の宮殿 光を蒙るが故に厳飾せり
今以奉世尊 唯垂哀納受 今以て世尊に奉る 唯哀れみを垂れて納受したまえ
願以此功徳 普及於一切 願わくは此の功徳を以て 普く一切に及ぼし
我等与衆生 皆共成仏道 我等と衆生と 皆共に仏道を成ぜん
爾時。五百万億。諸梵天王。 爾の時に、五百万億の諸の梵天王、
偈讃仏已。各白仏言。 偈をもって仏を讃め已って、各仏に白して言さく、
唯願世尊。転於法輪。 唯、願わくは世尊、法輪を転じたまえ。
多所安穏。多所度脱。 安穏ならしむる所多く、度脱したもう所多からん。
時諸梵天王。而説偈言 時に諸の梵天王、而も偈を説いて言さく、
世尊転法輪 撃甘露法鼓 世尊法輪を転じ 甘露の法鼓を撃って
269
度苦悩衆生 開示涅槃道 苦悩の衆生を度し 涅槃の道を開示したまえ
唯願受我請 以大微妙音 唯願わくは我が請を受けて 大微妙の音を以て
哀愍而敷演 無量劫習法 哀愍して 無量劫に習える法を敷演したまえ
爾時大通智勝如来。受十方諸梵天王。 爾の時に大通智勝如来、十方の諸の梵天王、
及十六王子請。即時三転。 及び十六王子の請を受けて、即時に三たび、
十二行法輪。 十二行の法輪を転じたもう。
若沙門。婆羅門。若天。魔梵。 若しは沙門、婆羅門、若しは天、魔、梵、
及余世間。所不能転。 及び余の世間の転ずること能わざる所なり。謂わく、
謂是苦。是苦集。是苦滅。是苦滅道。 是れ苦、是れ苦の集、是れ苦の滅、是れ苦滅の道なり。
及広説十二因縁法。 及び広く十二因縁の法を説きたもう。
無明縁行。行縁識。 無明は行に縁たり。行は識に縁たり。
識縁名色。名色縁六入。 識は名色に縁たり。名色は六入に縁たり。
六入縁触。触縁受。 六入は蝕に縁たり。蝕は受に縁たり。
受縁愛。愛縁取。 受は愛に縁たり。愛は取に縁たり。
取縁有。有縁生。 取は有に縁たり。有は生に縁たり。
270
生縁老死。憂悲苦悩。 生は老死、憂悲、苦悩に縁たり。
無明滅則行滅。行滅則識滅。 無明滅すれば則ち行滅す。行滅すれば則ち識滅す。
識滅則名色滅。名色滅則六入滅。 識滅すれば則ち名色滅す。名色滅すれば則ち六入滅す。
六入滅則触滅。触滅則受滅。 六入滅すれば則ち触滅す。触滅すれば則ち受滅す。
受滅則愛滅。愛滅則取滅。 受滅すれば則ち愛滅す。愛滅すれば則ち取滅す。
取滅則有滅。有滅則生滅。 取滅すれば則ち有滅す。有滅すれば則ち生滅す。
生滅則老死。憂悲苦悩滅。 生滅すれば則ち老死、憂悲、苦悩滅す。
仏於天人。大衆之中。説是法時。 仏、天・人大衆の中に於て、是の法を説きたまいし時、
六百万億。那由他人。以不受。一切法故。 六百万億那由他の人、一切の法を受けざるを以ての故に、
而於諸漏。心得解脱。皆得深妙禅定。 而も諸漏に於て、心解脱を得、皆、深妙の禅定、
三明。六通。具八解脱。 三明、六通を得、八解脱を具しぬ。
第二。第三。第四。説法時。 第二、第三、第四の説法の時も、
千万億恒河沙。那由他等衆生。 千万億恒河沙那由他等の衆生、
亦以不受。一切法故。 亦一切の法を受けざるを以ての故に、
271
而於諸漏。心得解脱。 而も諸漏に於て、心解脱を得。
従是已後。諸声聞衆。 是より已後、諸の声聞衆、
無量無辺。不可称数。 無量無辺にして、称数すべからず。
爾時十六王子。 爾の時に十六王子、
皆以童子出家。而為沙弥。 皆童子なるを以て、出家して沙弥と為りぬ。
諸根通利。智慧明了。 諸根通利にして、智慧明了なり。
已曽供養。百千万億諸仏。 已に曽て、百千万億の諸仏を供養し、
浄修梵行。求阿耨多羅三藐三菩提。 浄く梵行を修して、阿耨多羅三藐三菩提を求む。
倶白仏言。 倶に仏に白して言さく、
世尊。是諸無量千万億。 世尊、是の諸の無量千万億の、
大徳声聞。皆已成就。 大徳の声聞は、皆已に成就しぬ。
世尊。亦当為我等。 世尊、亦当に我等が為に、
説阿耨多羅三藐三菩提法。 阿耨多羅三藐三菩提の法を説きたもうべし。
我等聞已。皆共修学。 我等聞き已って、皆共に修学せん。
世尊。我等志願。如来知見。 世尊、我等、如来の知見を志願す。
深心所念。仏自証知。 深心の所念は、仏自ら証知したまわん。
爾時転輪聖王。所将衆中。 爾の時に、転輪聖王の所将の衆中、
272
八万億人。見十六王子出家。 八万億の人、十六王子の出家を見て、
亦求出家。王即聴許。 亦出家を求む。王即ち聴許しき。
爾時彼仏。受沙弥請。 爾の時に彼の仏、沙弥の請を受けて、
過二万劫已。乃於四衆之中。 二万劫を過ぎ己って、乃ち四衆の中に於て、
説是大乗経。名妙法蓮華。 是の大乗経の妙法蓮華・
教菩薩法。仏所護念。 教菩薩法・仏所護念と名づくるを説きたもう。
説是経已。十六沙弥。 是の経を説き已って、十六の沙弥、
為阿耨多羅三藐三菩提故。 阿耨多羅三藐三菩提の為の故に、
皆共受持。諷誦通利。 皆共に受持し、諷誦、通利しき。
説是経時。十六菩薩沙弥。皆悉信受。 是の経を説きたまいし時、十六の菩薩沙弥、皆悉く信受す。
声聞衆中。亦有信解。 声聞衆の中にも、亦信解する有り。
其余衆生。千万億種。皆生疑惑。 其の余の衆生の、千万億種なるは、皆疑惑を生じき。
仏説是経。於八千劫。 仏、是の経を説きたもうこと、八千劫に於て、
未曽休廃。説此経已。 未だ曽て休廃したまわず。此の経を説き已って、
即入静室。住於禅定。八万四千劫。 即ち静室に入って、禅定に住したもうこと、八万四千劫なり。
是時十六菩薩沙弥。 是の時に十六の菩薩沙弥、
273
知仏入室。寂然禅定。 仏の室に入りて、寂然として禅定したもうを知って、
各昇法座。亦於八万四千劫。 各法座に昇りて、亦八万四千劫に於て、
為四部衆。広説分別。妙法華経。 四部の衆の為に、広く妙法華経を説き分別す。
一一皆度。六百万億。 一一に皆、六百万億
那由他。恒河沙等衆生。示教利喜。 那由他恒河沙等の衆生を度し、示教利喜して、
令発阿耨多羅三藐三菩提心。 阿耨多羅三藐三菩提の心を発さしむ。
大通智勝仏。過八万四千劫已。 大通智勝仏、八万四千劫を過ぎ已って、
従三昧起。往詣法座。 三昧より起ちて、法座に往詣し、
安詳而坐。普告大衆。 安詳として坐して、普く大衆に告げたまわく、
是十六菩薩沙弥。甚為希有。 是の十六の菩薩沙弥は、甚だ為れ希有なり。
諸根通利。智慧明了。 諸根通利にして、智慧明了なり。
已曽供養。無量千万億数諸仏。 已に曽て、無量千万億数の諸仏を供養し、
於諸仏所。常修梵行。 諸仏の所に於て、常に梵行を修し、
受持仏智。開示衆生。令入其中。 仏智を受持し、衆生に開示して、其の中に入らしむ。
汝等皆当。数数親近。而供養之。 汝等皆、当に数数親近して、之を供養すべし。
274
所以者何。若声聞。辟支仏。及諸菩薩。 所以は何ん。若し声聞、辟支仏、及び諸の菩薩、
能信是十六菩薩。所説経法。 能く是の十六の菩薩の所説の経法を信じ、
受持不毀者。是人皆当得。 受持して毀らざらん者、是の人は皆、
阿耨多羅三藐三菩提。 当に阿耨多羅三藐三菩提の如来の慧を得べし。
如来之慧。仏告諸比丘。 仏、諸の比丘に告げたまわく、
是十六菩薩。常楽説是。妙法蓮華経。 是の十六の菩薩は、常に楽って、是の妙法蓮華経を説く。
一一菩薩。所化六百万億。 一一の菩薩の所化の、六百万
那由化。恒河沙等衆生。世世所生。 億那由他恒河沙等の衆生は、世世に生まるる所、
与菩薩倶。従其聞法。悉皆信解。 菩薩と倶にして、其に従い法を聞いて、悉く皆信解せり。
以此因縁。得値四万億。 此の因縁を以て、四万億の
諸仏世尊。于今不尽。 諸仏世尊に値いたてまつることを得、今に尽きず。
諸比丘。我今語汝。 諸の比丘、我今汝に語る。
彼仏弟子。十六沙弥。 彼の仏の弟子の十六の沙弥は、
今皆得阿耨多羅三藐三菩提。 今皆阿耨多羅三藐三菩提を得て、
於十方国土。現在説法。 十方の国土に於て、現在に法を説きたもう。
275
有無量百千万億。菩薩声聞。以為眷属。 無量百千万億の菩薩、声聞有って、以て眷属と為り。
其二沙弥。東方作仏。 其の二りの沙弥は、東方にして作仏す。
一名阿閦。在歓喜国。二名須弥頂。 一を阿閦と名づけ、歓喜国に在す。二を須弥頂と名づく。
東南方二仏。一名師子音。二名師子相。 東南方に二仏、一を師子音と名づけ、二を師手相と名づく。
南方二仏。一名虚空住。二名常滅。 南方に二仏、一を虚空住と名づけ、二を常滅と名づく。
西南方二仏。一名帝相。二名梵相。 西南方に二仏、一を帝相と名づけ、二を梵相と名づく。
西方二仏。一名阿弥陀。 西方に二仏、一を阿弥陀と名づけ、
二名度一切世間苦悩。 二を度一切世間苦悩と名づく。
西北方二仏。一名多摩羅跋栴檀香神通。 西北方に二仏、一を多摩羅跋栴檀香神通と名づけ、
二名須弥相。 二を須弥相と名づく。
北方二仏。一名雲自在。二名雲自在王。 北方に二仏、一を雲自在と名づけ、二を雲自在王と名づく。
東北方仏。名壊一切世間怖畏。 東北方の仏を、壊一切世間怖畏と名づく。
第十六我釈迦牟尼仏。 第十六は、我釈迦牟尼仏なり。
於娑婆国土。成阿耨多羅三藐三菩提。 娑婆国土に於て、阿耨多羅三藐三菩提を成ぜり。
276
諸比丘。我等為沙弥時。 諸の比丘、我等、沙弥為りし時、
各各教化。無量百千万億。恒河沙等衆生。 各各に、無量百千万億恒河沙等の衆生を教化せり。
従我聞法。為阿耨多羅三藐三菩提。 我に従って法を聞きしは、阿耨多羅三藐三菩提を為しにき。
此諸衆生。于今有住。声聞地者。 此の諸の衆生、今に声聞地に住せる者有り。
我常教化。阿耨多羅三藐三菩提。 我常に阿耨多羅三藐三菩提に教化す。
是諸人等。応以是法。 是の諸人等、応に是の法を以て、
漸入仏道。所以者何。 漸く仏道に入るべし。所以は何ん。
如来智慧。難信難解。 如来の智慧は信じ難く解し難ければなり。
爾時所化。無量恒河沙等衆生者。 爾の時の所化の、無量恒河沙等の衆生は、
汝等諸比丘。及我滅度後。 汝等諸の比丘、及び我が滅度の後の、
未来世中。声聞弟子是也。 未来世の中の声聞の弟子是なり。
我滅度後。復有弟子。 我か滅度の後、復弟子有って、
不聞是経。不知不覚。菩薩所行。 是の経を聞かず、菩薩の所行を知らず、覚らず。
自於所得功徳。生滅度想。 自ら所得の功徳に於て、滅度の想を生じて、当に涅槃に入るべし。
277
当入涅槃。我於余国作仏。更有異名。 我、余国に於て、作仏して更に異名有らん。
是人雖生。滅度之想。入於涅槃。 是の人、滅度の想を生じ、涅槃に入ると雖も、
而於彼土。求仏智慧。得聞是経。 而も彼の土に於て、仏の智慧を求め、是の経を聞くことを得ん。
唯以仏乗。而得滅度。更無余乗。 唯、仏乗を以てのみ滅度を得。更に余乗無し。
除諸如来。方便説法。 諸の如来の方便の説法をば除く。
諸比丘。若如来自知。涅槃時到。 諸の比丘、若し如来、自ら涅槃の時到り、
衆又清浄。信解堅固。了達空法。 衆又清浄に、信解堅固にして空法を了達し、
深入禅定。便集諸菩薩。 深く禅定に入れりと知りぬれば、便ち諸の菩薩、
及声聞衆。 為説是経。 及び声聞衆を集めて、為に是の経を説く。
世間無有二乗。而得滅度。 世間に二乗として、滅度を得ること有ること無し。
唯一仏乗。得滅度耳。比丘当知。 唯一仏乗をもって、滅度を得る耳。比丘、当に知るべし。
如来方便。深入衆生之性。 如来の方便は、深く衆生の性に入れり。
知其志楽小法。深著五欲。 其の小法を志楽し、深く五欲に著するを知って、
為是等故。説於涅槃。 是等の為の故に涅槃を説く。
278
是人若聞。則便信受。 是の人、若し聞かば則便ち信受す。
譬如五百由旬。険難悪道。 譬えば、五百由旬の険難悪道の曠かに絶えて、
曠絶無人。怖畏之処。 人無き怖畏の処あらんが如し。
若有多衆。欲過此道。至珍宝処。 若し多くの衆有って、此の道を過ぎて珍宝の処に至らんと欲せんに、
有一導師。聡慧明達。 一りの導師有り。聡慧明達にして、
善知険道。通塞之相。 善く険道の通塞の相を知れり。
将導衆人。欲過此難。 衆人を将導して此の難を過きんと欲す。
所将人衆。中路懈退。白導師言。 所将の人衆、中路に懈退して、導師に白うして言さく、
我等疲極。而復怖畏。 我等疲極して、復怖畏す。
能復進。前路猶遠。今欲退還。 復進むこと能わず。前路猶遠し、今、退き還らんと欲す。
導師多諸方便。而作是念。 導師、諸の方便多くして、是の念を作さく、
此等可愍。云何捨大珍宝。而欲退還。 此等愍れむべし。云何ぞ大珍宝を捨てて、退き還らんと欲する。
作是念已。以方便力。於険道中。 是の念を作し已って、方便力を以て、険道の中に於て、
279
過三百由旬。化作一城。告衆人言。 三百由旬を過ぎ、一城を化作して、衆人に告げて言わく、
汝等勿怖。莫得退還。 汝等、怖るること勿れ。退き還ること得ること莫れ。
今此大城。可於中止。随意所作。 今此の大城、中に於て止って、意の所作に随うべし。
若入是城。快得安穏。 若し是の城に入りなば、快く安穏なることを得ん。
若能前至宝所。亦可得去。 若し能く前んで宝所に至らば、亦去ることを得べし
是時疲極之衆。心大歓喜。歎未曽有。 是の時に疲極の衆、心大いに歓喜して、未曽有なりと歎ず。
我等今者。免斯悪道。快得安穏。 我等今者、斯の悪道を免れて、快く安穏なることを得つ。
於是衆人。前入化城。 是に於て衆人、前んで化城に入って、
生已度想。生安穏想。 已度の想を生じ、安穏の想を生ず。
爾時導師。知此人衆。既得止息。 爾の時に導師、此の大衆の、既に止息することを得て、
無復疲倦。即滅化城。語衆人言。 復疲倦無きを知って、即ち化城を滅して、衆人に語って言く、
汝等去来。宝処在近。 汝等、去来、宝処は近きに在り。
向者大城。我所化作。為止息耳。 向の大城は、我が化作する所なり。止息せんが為耳。
280
諸比丘。如来亦復如是。 諸の比丘、如来も亦復是の如し。
今為汝等。作大導師。 今、汝等が為に大導師と作って、
知諸生死。煩悩悪道。 諸の生死煩悩の悪道、
険難長遠。応去応度。 険難長遠にして、応に去るべく応に度すべきを知れり。
若衆生。但聞一仏乗者。 若し衆生、但一仏乗を聞かば、
則不欲見仏。不欲親近。 則ち仏を見んと欲せず、親近せんと欲せじ。
便作是念。 便ち是の念を作さん。
仏道長遠。久受勤苦。乃可得成。 仏道は長遠なり。久しく勤苦を受けて、乃し成ずることを得べし。
仏知是心。怯弱下劣。 仏、是の心の、怯弱下劣なるを知ろしめして、
以方便力。而於中道。為止息故。 方便力を以て中道に於て止息せんが為の故に、
説二涅槃。若衆生。住於二地。 二涅槃説く。若し衆生、二地に住すれば、
如来爾時。即便為説。 如来爾の時、即便ち為に説く。
汝等所作未弁。 汝等は所作未だ弁ぜず。
汝所住地。近於仏慧。 汝が所住の地は仏慧に近し。
当観察籌量。所得涅槃。 当に観察し籌量すべし。所得の涅槃は、真実に非ず。
非真実也。但是如来。方便之力。 但是れ如来、方便の力をもって
281
於一仏乗。分別説三。 一仏乗に於て、分別して三と説く。
如彼導師。為止息故。 彼の導師の、止息せんが為の故に、
化作大城。既知息已。而告之言。 大城を化作し、既に息み己んぬと知って、之に告げて、
宝処在近。此城非実。 宝処は近きに在り、此の城は実に非ず。我が化作ならく耳。
我化作耳。 と言わんが如し。
爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言。 爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
大通智勝仏 十劫坐道場 大通智勝仏 十劫道場に坐したまえども
仏法不現前 不得成仏道 仏法現前せず 仏道を成ずることを得たまわず
諸天神龍王 阿修羅衆等 諸天神龍王 阿修羅衆等
常雨於天華 以供養彼仏 常に天華を雨らして 以て彼の仏に供養す
諸天撃天鼓 并作衆伎楽 諸天天鼓を撃ち 并びに衆の伎楽を作す
香風吹萎華 更雨新好者 香風萎める華を吹いて 更に新しき好き者を雨らす
過十小劫已 乃得成仏道 十小劫を過ぎ已って 乃ち仏道を成ずることを得たまえり
282
諸天及世人 心皆懐踊躍 諸天及び世人 心に皆踊躍を懐く
彼仏十六子 皆与其眷属 彼の仏の十六の子 皆其の眷属
千万億囲遶 倶行至仏所 千万億の囲遶せると 倶に仏所に行き至って
頭面礼仏足 而請転法輪 頭面に仏足を礼して 転法輪を請ず
聖師子法雨 充我及一切 聖師子法雨をもって 我及び一切に充てたまえ
世尊甚難値 久遠時一現 世尊は甚だ値いたてまつり難し 久遠に時に一び現じ
為覚悟群生 震動於一切 群生を覚悟せんが為に 一切を震動したもう
東方諸世界 五百万億国 東方の諸の世界 五百万億国の
梵宮殿光曜 昔所未曽有 梵の宮殿光曜して 昔より未だ曽て有らざる所なり
諸梵見此相 尋来至仏所 諸梵此の相を見て 尋ねて仏所に来至し
散華以供養 并奉上宮殿 華を散じて以て供養し 并びに宮殿を奉上し
請仏転法輪 以偈而讃歎 仏に転法輪を請じ 偈を以て讃歎す
283
仏知時未至 受請黙然坐 仏時末だ至らずと知ろしめして 請を受けて黙然として坐したまえり
三方及四維 上下亦復爾 三方及び四維 上下亦復爾なり
散華奉宮殿 請仏転法輪 華を散じ宮殿を奉り 仏に転法輪を請ず
世尊甚難値 願以大慈悲 世尊は甚だ値いたてまつり難し 願わくは大慈悲を以て
広開甘露門 転無上法輪 広く甘露の門を開き 無上の法輪を転じたまえ
無量慧世尊 受彼衆人請 無量慧の世尊 彼の衆人の請を受けて
為宣種種法 四諦十二縁 為に種種の法 四諦十二縁を宣べたもう
無明至老死 皆従生縁有 無明より老死に至るまで 皆生縁に従って有り
如是衆過患 汝等応当知 是の如きの衆の過患 汝等応当に知るべし
宣暢是法時 六百万億姟 是の法を宣暢したもう時 六百万億姟
得尽諸苦際 皆成阿羅漢 諸苦の際を尽すことを得て 皆阿羅漢と成る
第二説法時 千万恒沙衆 第二の説法の時 千万恒沙の衆
284
於諸法不受 亦得阿羅漢 諸法に於て受けずして 亦阿羅漢を得
従是後得道 其数無有量 是より後の得道 其の数量有ること無し
万億劫算数 不能得其辺 万億劫に算数すとも 其の辺を得ること能わじ
時十六王子 出家作沙弥 時に十六王子 出家して沙弥と作って
皆共請彼仏 演説大乗法 皆共に彼の仏に 大乗の法を演説したまえと請ず
我等及営従 皆当成仏道 我等及び営従 皆当に仏道を成ずべし
願得如世尊 慧眼第一浄 願わくは世尊の如く 慧眼第一浄なることを得ん
仏知童子心 宿世之所行 仏童子の心 宿世の所行を知ろしめして
以無量因縁 種種諸譬喩 無量の因縁 種種の諸の譬喩を以て
説六波羅蜜 及諸神通事 六波羅蜜 及び諸の神通の事を説き
分別真実法 菩薩所行道 真実の法 菩薩所行の道を分別して
説是法華経 如恒河沙偈 是の法華経の 恒河沙の如き偈を説きたまいき
285上
彼仏説経已 静室入禅定 彼の仏経を説きたまい已って 静室にして禅定に入り
一心一処坐 八万四千劫 一心にして一処に坐したもうこと 八万四千劫
是諸沙弥等 知仏禅未出 是の諸の沙弥等 仏の禅より未だ出でたまわざるを知って
為無量億衆 説仏無上慧 無量億の衆の為に 仏の無上慧を説く
各各坐法座 説是大乗経 各各法座に坐して 是の大乗経を説き
於仏宴寂後 宣揚助法化 仏宴寂の後に於て 宣揚して法化を助く
一一沙弥等 所度諸衆生 一一の沙弥等の 度する所の諸の衆生
有六百万億 恒河沙等衆 六百万億 恒河沙等の衆有り
彼仏滅度後 是諸聞法者 彼の仏の滅度の後 是の諸の聞法の者
在在諸仏土 常与師倶生 在在諸仏の土に 常に師と倶に生ず
是十六沙弥 具足行仏道 是の十六の沙弥 具足して仏道を行じて
今現在十方 各得成正覚 今現に十方に在って 各正覚を成ずることを得たまえり
286
爾時聞法者 各在諸仏所 爾の時の聞法の者 各諸仏の所に在り
其有住声聞 漸教以仏道 其の声聞に住すること有るは 漸く教うるに仏道を以てす
我在十六数 曽亦為汝説 我十六の数に在って 曽て亦汝が為に説きき
是故以方便 引汝趣仏慧 是の故に方便を以て 汝を引いて仏慧に趣かしむ
以是本因縁 今説法華経 是の本因縁を以て 今法華経を説いて
令汝入仏道 慎勿懐驚懼 汝をして仏道に入らしむ 慎んで驚懼を懐くこと勿れ
譬如険悪道 迥絶多毒獣 譬えば険悪道の 迥かに絶えて毒獣多く
又復無水草 人所怖畏処 又復水草無く 人に怖畏せらるる処あらんが如し
無数千万衆 欲過此険道 無数千万の衆 此の険道を過ぎんと欲す
其路甚曠遠 経五百由旬 其の路甚だ曠遠にして 五百由旬を経
時有一導師 強識有智慧 時に一りの導師有り 強識にして智慧有り
明了心決定 在険済衆難 明了にして心決定せり 険きに在って衆難を済う
287
衆人皆疲倦 而白導師言 衆人皆疲倦して 導師に白して言さく
我等今頓乏 於此欲退還 我等今頓乏せり 此より退き還らんと欲す
導師作是念 此輩甚可愍 導師是の念を作さく 此の輩甚だ愍れむべし
如何欲退還 而失大珍宝 如何ぞ退き還って 大珍宝を失わんと欲する
尋時思方便 当設神通力 尋いで時に方便を思わく 当に神通力を設くべしと
化作大城郭 荘厳諸舎宅 大城郭を化作して 諸の舎宅を荘厳す
周帀有園林 渠流及浴池 周帀して園林 渠流及び浴池
重門高楼閣 男女皆充満 重円高楼閣有って 男女皆充満せり
即作是化已 慰衆言勿懼 即ち是の化を作し已って 衆を慰めて言わく懼るること勿れ
汝等入此城 各可随所楽 汝等此の城に入りなば 各所楽に随うべし
諸人既入城 心皆大歓喜 諸人既に城に入って 心皆大いに歓喜し
皆生安穏想 自謂已得度 皆安穏の想を生じて 自ら已に度することを得つと謂えり
288
導師知息已 集衆而告言 導師息み已んぬと知って 衆を集めて告げて言わく
汝等当前進 此是化城耳 汝等当に前進むべし 此は是れ化城ならく耳
我見汝疲極 中路欲退還 我汝が疲極して 中路に退き還らんと欲するを見る
故以方便力 権化作此城 故に方便力を以て 権に此の城を化作せり
汝今勤精進 当共至宝所 汝今勤め精進して 当に共に宝所に至るべし
我亦復如是 為一切導師 我も亦復是の如し 為れ一切の導師なり
見諸求道者 中路而懈廃 諸の道を求むる者 中路にして懈廃し
不能度生死 煩悩諸険道 生死 煩悩の諸の険道を度すること能わざるを見る
故以方便力 為息説涅槃 故に方便力を以て 息めんが為に涅槃を説いて
言汝等苦滅 所作皆已弁 汝等は苦滅し 所作皆己に弁ぜりと言う
既知到涅槃 皆得阿羅漢 既に涅槃に到り 皆阿羅漢を得たりと知って
爾乃集大衆 為説真実法 爾して乃し大衆を集めて 為に真実の法を説く
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諸仏方便力 分別説三乗 諸仏は方便力をもって 分別して三乗を説きたもう
唯有一仏乗 息処故説二 唯一仏乗のみ有り 息処の故に二を説く
今為汝説実 汝所得非滅 今汝が為に実を説く 汝が所得は滅に非ず
為仏一切智 当発大精進 仏の一切智の為に 当に大精進を発すべし
汝証一切智 十力等仏法 汝一切智 十力等の仏法を証し
具三十二相 乃是真実滅 三十二相を具しなば 乃ち是れ真実の滅ならん
諸仏之導師 為息説涅槃 諸仏の導師は 息めんが為に涅槃を説きたもう
既知是息已 引入於仏慧 既に是れ息み已んぬと知れば 仏慧に引入したもう