妙法蓮華経授記品第六

229
爾時世尊。説是偈已。         爾の時に世尊、是の偈を説き已って、
告諸大衆。唱如是言。         諸の大衆に告げて、是の如き言を唱えたまわく、
我此弟子。摩訶迦葉。於未来世。     我が此の弟子摩訶迦葉、未来世に於て、
当得奉覲。三百万億。諸仏世尊。     当に三百万億の諸仏世尊を奉覲して、
供養恭敬。尊重讃歎。          供養恭敬し、尊重讃歎し、
広宣諸仏。無量大法。          広く諸仏の無量の大法を宣ぶることを得べし。
於最後身。得成為仏。          最後身に於て、成じて仏に為ることを得ん。 
名曰光明如来。応供。正遍知。      名を光明如来・応供・正遍知・   
明行足。善逝。世間解。無上士。     明行足・善逝・世間解・無上士・ 
調御丈夫。天人師。仏世尊。       調御丈夫・天人師・仏世尊と曰わん。
国名光徳。劫名大荘厳。         国を光徳と名づけ、劫を大荘厳と名づけん。
仏寿十二小劫。正法住世。二十小劫。   仏の寿は十二小劫、正法世に住すること二十小劫、

230
像法亦住。二十小劫。          像法も亦住すること二十小劫ならん。
国界厳飾。無諸穢悪。瓦礫荊棘。     国界厳飾して、諸の穢悪、瓦礫、荊棘、
便利不浄。其土平正。無有高下。     便利の不浄無く、其の土、平正にして、高下、 
坑坎堆阜。瑠璃為地。宝樹行列。     坑坎、堆阜有ること無けん。瑠璃を地と為して宝樹行列し、
黄金為縄。以界道側。散諸宝華。     黄金を縄と為して、以て道の側を界い、諸の宝華を散じ、
周遍清浄。其国菩薩。無量千億。     周遍して清浄ならん。其の国の菩薩、無量千億にして、
諸声聞衆。亦復無数。無有魔事。     諸の声聞衆、亦復無数ならん。魔事有ること無けん。
雖有魔。及魔民。皆護仏法。       魔及び魔民有りと雖も、皆仏法を護らん。
爾時世尊。              爾の時に世尊、
 欲重宣此義。而説偈言        重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
 告諸比丘 我以仏眼          諸の比丘に告ぐ 我仏眼を以て
 見是迦葉 於未来世          是の迦葉を見るに 未来世に於て
 過無数劫 当得作仏          無数劫を過ぎて 当に作仏することを得べし         

231
 而於来世 供養奉覲          而も来世に於て 三百万億の
 三百万億 諸仏世尊          諸仏世尊を 供養し奉覲して
 為仏智慧 浄修梵行          仏の智慧の為に 浄く梵行を修せん
 供養最上 二足尊已          最上の 二足尊を供養し已って
 修習一切 無上之慧          一切の 無上の意を修習し
 於最後身 得成為仏          最後身に於て 成じて仏に為ることを得ん
 其土清浄 瑠璃為地          其の土清浄にして 瑠璃を地と為し
 多諸宝樹 行列道側          諸の宝樹多くして 道の側に行列し
 金縄界道 見者歓喜          金縄道を界いて 見る者歓喜せん
 常出好香 散衆名華          常に好香を出し 衆の名華を散じて
 種種奇妙 以為荘厳          種種の奇妙なるものを 以て荘厳と為し
 其地平正 無有丘坑          其の地平正にして 丘坑有ること無けん

232
 諸菩薩衆 不可称計          諸の菩薩衆 称計すべからず
 其心調柔 逮大神通          其の心調柔にして 大神通に逮び
 奉持諸仏 大乗経典          諸仏の 大乗経典を奉持せん
 諸声聞衆 無漏後身          諸の声聞衆の 無漏の後身
 法王之子 亦不可計          法王の子となる 亦計るべからず
 乃以天眼 不能数知          乃ち天眼を以ても 数え知ること能わじ
 其仏当寿 十二小劫          其の仏は当に寿 十二小劫なるべし
 正法住世 二十小劫          正法世に住すること 二十小劫
 像法亦住 二十小劫          像法亦住すること 二十小劫ならん
 光明世尊 其事如是          光明世尊 其の事是の如し
爾時大目揵連。須菩提。摩訶迦旃延等。 爾の時に大目揵連、須菩提、摩訶迦旃延等、
皆悉悚慄。一心合掌。         皆悉く悚慄して、一心に合掌し、  
瞻仰世尊。目不暫捨。         世尊を瞻仰して、目暫くも捨てず。 

233
即共同声。而説偈言。         即ち共に声を同じうして、偈を説いて言さく、    
 大雄猛世尊 諸釈之法王        大雄猛世尊 諸釈の法王
 哀愍我等故 而賜仏音声        我等を哀愍心したもうが故に 而も仏の音声を賜え
 若知我深心 見為授記者        若し我が深心を知ろしめして 授記為らるれば
 如以甘露灑 除熱得清涼        甘露を以て灑ぐに 熱を除いて清涼を得るが如くならん
 如従飢国来 忽遇大王膳        飢えたる国より来って 忽ちに大王の膳に遇わんに
 心猶懐疑懼 未敢即便食        心猶疑懼を懐いて 未だ敢えて即便ち食せず
 若復得王教 然後乃敢食        若し復王の教を得ば 然して後に乃ち敢えて食せんが如く
 我等亦如是 毎惟小乗過        我等も亦是の如し 毎に小乗の過を惟いて
 不知当云何 得仏無上慧        当に云何にして 仏の無上慧を得べきを知らず
 雖聞仏音声 言我等作仏        仏の音声の 我等作仏せんと言うを聞くと雖も
 心尚懐憂懼 如未敢便食        心尚憂懼を懐くこと 未だ敢えて便ち食せざるが如し

234
 若蒙仏授記 爾乃快安楽        若し仏の授記を蒙りなば 爾して乃ち快く安楽ならん
 大雄猛世尊 常欲安世間        大雄猛世尊 常に世間を安んぜんと欲す
 願賜我等記 如飢須教食        願わくは我等に記を賜え 飢えて教を須って食するが如くならん
爾時世尊。知諸大弟子。        爾の時に世尊、諸の大弟子の、
心之所念。告諸比丘。         心の所念を知ろしめして、諸の比丘に告げたまわく、
是須菩提。於当来世。          是の須菩提は、当来世に於て、
奉覲三百万億。那由他仏。        三百万億那由他の仏を奉覲して、
供養恭敬。尊重讃歎。常修梵行。     供養恭敬し、尊重讃歎し、常に梵行を修し、
具菩薩道。於最後身。得成為仏。     菩薩の道を具して、最後身に於て、成じて仏と為ることを得ん。
号曰名相如来。応供。正遍知。      号を名相如来・応供・正遍知・  
明行足。善逝。世間解。無上士。     明行足・善逝・世間解・無上士・
調御丈夫。天人師。仏世尊。       調御丈夫・天人師・仏世尊と曰わん。
劫名有宝。国名宝生。          劫を有宝と名づけ、国を宝生と名づけん。
其土平正。頗梨為地。宝樹荘厳。     其の土、平正にして頗梨を地と為し、宝樹荘厳して、
無諸丘坑。沙礫荊棘。          諸の丘坑、沙礫、荊棘、

235
便利之穢。宝華覆地。周遍清浄。     便利の穢無く、宝華、地に覆い、周遍して清浄ならん。
其土人民。皆処宝台。珍妙楼閣。     其の土の人民、皆宝台、珍妙の楼閣に処せん。
声聞弟子。無量無辺。          声聞の弟子、無量無辺にして、
算数譬喩。所不能知。          算数譬喩の知ること能わざる所ならん。
諸菩薩衆。無数千万億。那由他。     諸の菩薩衆、無数千万億那由他ならん。 
仏寿十二小劫。正法住世。二十小劫。   仏の寿は十二小劫、正法世に住すること二十小劫、 
像法亦住。二十小劫。          像法亦住すること二十小劫ならん。
其仏常処虚空。為衆説法。        其の仏、常に虚空に処して、衆の為に法を説いて、
度脱無量菩薩。及声聞衆。        無量の菩薩及び声聞衆を度脱せん。  
爾時世尊。              爾の時に世尊、
欲重宣此義。而説偈言         重ねて此の義を宣べんど欲して、偈を説いて言わく、
 諸比丘衆 今告汝等          諸の比丘衆 今汝等に告ぐ
 皆当一心 聴我所説          皆当に一心に 我が所説を聴くべし
 我大弟子 須菩提者          我が大弟子 須菩提は
 当得作仏 号曰名相          当に作仏することを得べし 号を名相と曰わん

236
 当供無数 万億諸仏          当に無数 万億の諸仏を供し
 随仏所行 漸具大道          仏の所行に随って 漸く大道を具すべし
 最後身得 三十二相          最後身に 三十二相を得て
 端正姝妙 猶如宝山          端正姝妙なること 猶宝山の如くならん
 其仏国土 厳浄第一          其の仏の国土 厳浄第一にして
 衆生見者 無不愛楽          衆生の見る者 愛楽せざること無けん
 仏於其中 度無量衆          仏其の中に於て 無量の衆を度せん
 其仏法中 多諸菩薩          其の仏の法の中には 諸の菩薩多く
 皆悉利根 転不退輪          皆悉く利根にして 不退の輪を転ぜん
 彼国常以 菩薩荘厳          彼の国は常に 菩薩を以て荘厳せん
 諸声聞衆 不可称数          諸の声聞衆 称数すべからず
 皆得三明 具六神通          皆三明を得 六神通を具し

237
 住八解脱 有大威徳          八解脱に住し 大威徳有らん
 其仏説法 現於無量          其の仏の説法には 無量の
 神通変化 不可思議          神通変化を現ずること 不可思議ならん
 諸天人民 数如恒沙          諸天人民 数恒沙の如くにして
 皆共合掌 聴受仏語          皆共に合掌し 仏語を聴受せん
 其仏当寿 十二小劫          其の仏は当に寿 十二小劫なるべし
 正法住世 二十小劫          正法世に住すること 二十小劫
 像法亦住 二十小劫          像法亦住すること 二十小劫ならん
爾時世尊。復告諸比丘衆。       爾の時に世尊、復諸の比丘衆に告げたまわく、
我今語汝。是大迦旃延。於当来世。    我今汝に語る。是の大迦旃延は当来世に於て、 
以諸供具。供養奉事。八千億仏。     諸の供具を以て、八千億の仏に供養奉事し、
恭敬尊重。諸仏滅後。各起塔廟。     恭敬尊重せん。諸仏の滅後に、各塔廟を起てん。

238
高千由旬。縦広正等。五百由旬。     高さ千由旬、縦広正等にして、五百由旬ならん。
以金。銀。瑠璃。硨磲。碼碯。真珠。    金、銀、瑠璃、硨磲、碼碯、真珠、
玫瑰。七宝合成。衆華瓔珞。塗香。     玫瑰の七宝を以て合成し、衆華、瓔珞、塗香、
抹香。焼香。繪蓋。幢幡。供養塔廟。    抹香、焼香、繪蓋、幢幡を塔廟に供養せん。
過是已後。当復供養。二万億仏。      是を過ぎて已後、当に復二万億の仏を供養するも、
亦復如是。供養是諸仏已。         亦復是の如くすべし。是の諸仏を供養し已って、
具菩薩道。当得作仏。           菩薩の道を具して、当に作仏することを得べし。
号曰閻浮那提金光如来。応供。正遍知。   号を閻浮那提金光如来・応供・正遍知・
明行足。善逝。世間解。無上士。      明行足・善逝・世間解・無上士・
調御丈夫。天人師。仏世尊。        調御丈夫・天人師・仏世尊と曰わん。 
其土平正。頗梨為地。           其の土、平正にして頗梨を地と為し、
宝樹荘厳。黄金為縄。           宝樹荘厳し、黄金を縄と為し、
以界道側。妙華覆地。周遍清浄。      以て道の側を界い、妙華、地に覆い、周遍清浄にして、
見者歓喜。無四悪道。地獄。餓鬼。     見る者歓喜せん。四悪道の地獄、餓鬼、    
畜生。阿修羅道。多有天人。        畜生、阿修羅道無く、多く天、人有らん。
諸声聞衆。及諸菩薩。           諸の声聞衆及び諸の菩薩、
無量万億。荘厳其国。           無量万億にして、其の国を荘厳せん。

239
仏寿十二小劫。正法住世。二十小劫。    仏の寿は十二小劫、正法世に住すること二十小劫、
像法亦住。二十小劫。           像法亦住すること二十小劫ならん。
爾時世尊。               爾の時に世尊、
欲重宣此義。而説偈言          重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、 
 諸比丘衆 皆一心聴           諸の比丘衆 皆一心に聴け
 如我所説 真実無異           我が所説の如きは 真実にして異ること無し
 是迦旃延 当以種種           是の迦旃延 当に種種の
 妙好供具 供養諸仏           妙好の供具を以て 諸仏を供養すべし
 諸仏滅後 起七宝塔           諸仏の滅後に 七宝の塔を起て
 亦以華香 供養舎利           亦華香を以て 舎利を供養し
 其最後身 得仏智慧           其の最後身に 仏の智慧を得て

240
 成等正覚 国土清浄           等正覚を成じ 国土清浄にして
 度脱無量 万億衆生           無量 万億の衆生を度脱し
 皆為十方 之所供養           皆十方の 供養する所と為らん
 仏之光明 無能勝者           仏の光明 能く勝れる者無けん
 其仏号曰 閻浮金光           其の仏の号を 閻浮金光と曰わん
 菩薩声聞 断一切有           菩薩声聞の 一切の有を断ぜる
 無量無数 荘厳其国           無量無数にして 其の国を荘厳せん
爾時世尊。復告大衆。          爾の時に世尊、復大衆に告げたまわく、
我今語汝。是大目揵連。          我今汝に語る。是の大目揵連は、
当以種種供具。供養八千諸仏。       当に種種の供具を以て、八千の諸仏に供養し、
恭敬尊重。諸仏滅後。           恭敬尊重したてまつるべし。  
各起塔廟。高千由旬。           諸仏の滅後に、各塔廟を起てて、高さ千由旬、
縦広正等。万百由旬。           縦広正等にして、五百由旬ならん。
以金。銀。瑠璃。硨磲。          金、銀、瑠璃、硨磲、

241
碼碯。真珠。攻瑰。七宝合成。       碼碯、真珠、攻瑰の七宝を以て合成し、
衆華。瓔珞。塗香。抹香。焼香。      衆華、瓔珞、塗香、抹香、焼香、
繪蓋。幢幡。以用供養。          繪蓋、幢幡を以用て供養せん。
過是已後。当復供養。二百万億諸仏。    是を過ぎて已後、当に復二百万億の諸仏を供養するも、
亦復如是。当得成仏。           亦復是の如くすべし。当に成仏することを得べし。
号曰多摩羅跋栴檀香如来。応供。      号を多摩羅跋栴檀香如来・応供・  
正遍知。明行足。善逝。世間解。      正遍知・明行足・善逝・世間解・
無上士。調御丈夫。天人師。仏世尊。    無上士・調御丈夫・天人師・仏世尊と曰わん。
劫名喜満。国名意楽。           劫を喜満と名づけ、国を意楽と名づけん。
其土平正。頗梨為地。宝樹荘厳。      其の土平正にして、頗梨を地と為し、宝樹荘厳し、
散真珠華。周遍清浄。見者歓喜。      真珠華を散じ、周遍清浄にして、見る者歓喜せん。   
多諸天人。菩薩声聞。其数無量。      諸の天、人多く、菩薩、声聞其の数無量ならん。
仏寿二十四小劫。正法住世。四十小劫。   仏の寿は二十四小劫、正法世に住すること四十小劫、
像法亦住。四十小劫。           像法亦住すること四十小劫ならん。
爾時世尊。               爾の時に世尊、
欲重宣此義。而説偈言          重ねて此の義を宣へんど欲して、偈を説いて言わく、

242
 我此弟子 大目揵連           我が此の弟子 大目揵連は
 捨是身已 得見八千           是の身を捨て已って 八千
 二百万億 諸仏世尊           二百万億の 藷仏世尊を見たてまつることを得
 為仏道故 供養恭敬           仏道の為の故に 供養恭敬し
 於諸仏所 常修梵行           諸仏の所に於て 常に梵行を修し
 於無量劫 奉持仏法           無量劫に於て 仏法を奉持せん
 諸仏滅後 起七宝塔           諸仏の滅後に 七宝の塔を起てて
 長表金刹 華香伎楽           長く金刹を表し 華香伎楽をもって
 而以供養 諸仏塔廟           以て諸仏の 塔廟に供養し
 漸漸具足 菩薩道已           漸漸に 菩薩の道を具足し已って
 於意楽国 両得作仏           意楽国に於て 而も作仏することを得

243
 号多摩羅 栴檀之香           多摩羅 栴檀の香と号けん
 其仏寿命 二十四劫           其の仏の寿命 二十四劫ならん
 常為天人 演説仏道           常に天人の為に 仏道を演説せん
 声聞無量 如恒河沙           声聞無量にして 恒河沙の如く
 三明六通 有大威徳           三明六通あって 大威徳有らん
 菩薩無数 志固精進           菩薩無数にして 志固く精進し
 於仏智慧 皆不退転           仏の智慧に於て 皆退転せじ
 仏滅度後 正法当住           仏の滅度の後 正法当に住すること
 四十小劫 像法亦爾           四十小劫なるべし 像法亦爾なり
 我諸弟子 威徳具足           我が諸の弟子の 威徳具足せる
 其数五百 皆当授記           其の数五百なるも 皆当に授記すべし
 於未来世 咸得成仏           未来世に於て 咸く成仏することを得ん

244
 我及汝等 宿世因縁           我及ぴ汝等が 宿世の因縁
 吾今当説 汝等善聴           吾今当に説くべし 汝等善く聴け