214
爾時世尊。告摩訶迦葉。及諸大弟子。 爾の時に世尊、摩訶迦葉及び諸の大弟子に告げたまわく、
善哉善哉。迦葉。 善哉善哉、迦葉、
善説如来。真実功徳。 善く如来の真実の功徳を説く。
誠如所言。如来復有。 誠に所言の如し。如来復、
無量無辺。阿僧祇功徳。 無量無辺阿僧祇の功徳有り。
汝等若於。無量億劫。説不能尽。 汝等、若し無量億劫に於て説くとも、尽すこと能わじ。
迦葉当知。如来是諸法之王。 迦葉、当に知るべし。如来は是れ、諸法の王なり。
若有所説。皆不虚也。 若し所説有るは、皆虚しからず。
於一切法。以智方便。而演説之。 一切の法に於て、智の方便を以て之を演説す。
其所説法。皆悉到於。一切智地。 其の所説の法は、皆悉く一切智地に到らしむ。
如来観知。一切諸法。之所帰趣。 如来は一切諸法の帰趣する所を観知し、
215
亦知一切衆生。深心所行。通達無礙。 亦一切衆生の深心の所行を知って、通達無礙なり。
又於諸法。究尽明了。 又諸法に於て、究尽明了にして、
示諸衆生。一切智慧。 諸の衆生に、一切の智慧を示す。
迦葉。譬如三千大千世界。 迦葉、譬えば三千大干世界の
山川渓谷土地。所生卉木叢林。 山川、谿谷、土地に生いたる所の卉木叢林、
及諸薬草。種類若干。多色各異。 及び諸の薬草、種類若干にして、名色各異るが如し。
密雲弥布。遍覆三千大千世界。 密雲弥布して、遍く三千大干世界を覆い、
一時等澍。其沢普洽。卉木叢林。 一時に等しく澍ぐ。其の沢、普く卉木叢林、
及諸薬草。小根小茎。小枝小葉。 及び諸の薬草の小根小茎、小枝小葉、
中根中茎。中枝中葉。 中根中茎、中枝中葉、
大根大茎。大枝大葉。 大根大茎、大枝大葉に洽う。
諸樹大小。随上中下。各有所受。 諸樹の大小、上中下に随って、各受くる所有り。
一雲所雨。称其種性。 一雲の雨らす所、其の種性に称いて、
両得生長。華菓敷実。 生長することを得、華菓は敷け実る。
216
雖一地所生。一雨所潤。 一地の所生、一雨の所潤なりと雖も、
而諸草木。各有差別。 而も諸の草木に、各差別有り。
迦葉当知。如来亦復如是。 迦葉、当に知るべし。如来も亦復是の如し。
出現於世。如大雲起。 世に出現すること、大雲の起るが如く、
以大音声。普遍世界。天人阿修羅。 大音声を以て、普く世界の天、人、阿修羅に遍せること、
如彼大雲。遍覆三千大千国土。 彼の大雲の遍く三千大千国土に覆うが如し。
於大衆中。而唱是言。 大衆の中に於て是の言を唱う。
我是如来。応供。正遍知。明行足。 我は是れ如来・応供・正遍知・明行足・
善逝。世間解。無上士。調御丈夫。 善逝・世間解・無上士・調御丈夫・
天人師。仏世尊。未度者令度。 天人師・仏世尊なり。未だ度せざる者は度せしめ、
未解者令解。未安者令安。 未だ解せざる者は解せしめ、未だ安せざる者は安ぜしめ、
未涅槃者。令得涅槃。 未だ涅槃せざる者は涅槃を得せしむ。
今世後世。如実知之。 今世、後世、実の如く之を知る。
我是一切知者。一切見者。 我は是れ一切知者、一切見者、
知道者。開道者。説道者。 知道者、開道者、説道者なり。
217
汝等天人。阿修羅衆。 汝等、天、人、阿修羅衆、
皆応到此。為聴法故。 皆応に此に到るべし。法を聴かんが為の故に。
爾時無数。千万億種衆生。 爾の時に無数千万億種の衆生、
来至仏所。而聴法。 仏所に来至して法を聴く。
如来于時。観是衆生。諸根利鈍。 如来、時に是の衆生の諸根の利鈍、
精進懈怠。随其所堪。 精進、懈怠を観じて、其の堪うる所に随って、
而為説法。種種無量。 為に法を説くこと種種無量にして、
皆令歓喜。快得善利。 皆歓喜し快く善利を得せしむ。
是諸衆生。聞是法已。 是の諸の衆生、是の法を聞き已って
現世安穏。後生善処。 現世安穏にして後に善処に生じ、
以道受楽。亦得聞法。 道を以て楽を受け、亦法を聞くことを得。
既聞法已。離諸障礙。於諸法中。 既に法を聞き已って、諸の障礙を離れ、諸法の中に於て、
任力所能。漸得入道。 力の能うる所に任せて、漸く道に入ることを得。
如彼大雲。雨於一切。卉木叢林。 彼の大雲の一切の卉木叢林、
及諸薬草。如其種性。具足蒙潤。 及び諸の薬草に雨るに、其の種性の如く具足して潤を蒙り、
各得生長。 各生長することを得るが如し。
218
如来説法。一相一味。 如来の説法は一相、一味なり。
所謂解脱相。離相滅相。 所謂解脱相、離相、滅相なり。
究竟至於。一切種智。 究竟して一切種智に至る。
其有衆生。聞如来法。若持読誦。 其れ衆生有って、如来の法を聞いて、若しは持ち読誦し、
如説修行。所得功徳。不自覚如。 説の如く修行するに、得る所の功徳、自ら覚知せず。
所以者何。唯有如来。 所以は何ん。唯如来のみ有って、
知此衆生。種相体性。今何事。 此の衆生の種・相・体・性、何の事を念じ、
思何事。修何事。云何念。云何思。 何の事を思し、何の事を修し、云何に念じ、云同に思し、
云何修。以何法念。以何法思。 云何に修し、何の法を以て念じ、何の法を以て思し、
以何法修。以何法。得何法。 何の法を以て修し、何の法を以て何の法を得ということを知れり。
衆生住於。種種之地。唯有如来。 衆生の種種の地に住せるを、唯如来のみ有って、
如実見之。明了無礙。 如実に之を見て明子無礙なり。
如彼卉木叢林。諸薬草等。 彼の卉木叢林、諸の薬草等の、
而不自知。上中下性。 而も自ら上中下の性を知らざるが如し。
219
如来知是。一相一味之法。 如来は是れ一相一味の法なりと知れり。
所謂解脱相。離相滅相。究竟涅槃。 所謂、解脱相、離相、滅相、究竟の涅槃、
常寂滅相。終帰於空。 常寂の滅相にして、終に空に帰す。
仏知是已。観衆生心欲。而将護之。 仏、是を知り已れども、衆生の心欲を観じて之を将護す。
是故不即為説。一切種智。 是の故に、即ち為に一切種智を説かず。
汝等迦葉。甚為希有。 汝等迦葉、甚だ為れ希有なり。
能知如来。随宜説法。能信能受。 能く如来の随宜の説法を知って、能く信じ能く受く。
所以者何。諸仏世尊。 所以は何ん。諸仏世尊の随宜の説法は、
随宜説法。難解難知。 解し難く知り難ければなり。
爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言 爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
破有法王 出現世間 有を破する法王 世間に出現して
随衆生欲 種種説法 衆生の欲に随って 種種に法を説きたまう
如来尊重 智慧深遠 如来は尊重にして 智慧深遠なり
久黙斯要 不務速説 久しく斯の要を黙して 務ぎて速かに説きたまわず
220
有智若聞 則能信解 智有るは若し聞いては 則ち能く信解し
無智疑悔 則為永失 智無きは疑悔して 則ち永く失う為し
是故迦葉 随力為説 是の故に迦葉 力に随いて為に説いて
以種種縁 令得正見 種種の縁を以て 正見を得せしむ
迦葉当知 譬如大雲 迦葉当に知るべし 譬えば大雲の
起於世間 遍覆一切 世間に起って 遍く一切を覆うに
恵雲含潤 電光晃曜 恵雲は潤を含み 電光晃り曜き
雷声遠震 令衆悦予 雷声遠く震いて 衆をして悦予せしめ
日光掩蔽 地上清涼 日光掩い蔽して 地の上清涼に
靉靆垂布 如可承攬 靉靆垂布して 承攬倶すべきが如く
其雨普等 四方倶下 其の雨普等にして 四方に倶に下り
流澍無量 率土充洽 流澍すること無量にして 率土充ち洽う
221
山川険谷 幽邃所生 山川険谷の 幽邃に生いたる所の
卉木薬草 大小諸樹 卉木薬草 大小の諸樹
百穀苗稼 甘蔗蒲萄 百穀苗稼 甘蔗蒲萄
雨之所潤 無不豊足 雨の潤す所 豊かに足らざること無く
乾地普洽 薬木並茂 乾地は普く洽い 薬木並に茂り
其雲所出 一味之水 其の雲より出ずる所の 一味の水に
草木叢林 随分受潤 草木叢林 分に随って潤を受く
一切諸樹 上中下等 一切の諸樹 上中下等しく
称其大小 各得生長 其の大小に称いて 各生長することを得
根茎枝葉 華菓光色 根茎枝葉 華菓光色
一雨所及 皆得鮮沢 一雨の及ぼす所 皆鮮沢することを得
如其体相 性分大小 其の体相 性の大小に分れたるが如く
222
所潤是一 而各滋茂 潤す所是れ一なれども 而も各滋茂るが如し
仏亦如是 出現於世 仏も亦是の如し 世に出現したもうこと
譬如大雲 普覆一切 譬えば大雲の 普く一切を覆うが如し
既出于世 為諸衆生 既に世に出でぬれば 諸の衆生の為に
分別演説 諸法之実 諸法の実を 分別し演説したもう
大聖世尊 於諸天人 大聖世尊 諸の天人
一切衆中 而宣是言 一切衆の中に於て 是の言を宣べたもう
我為如来 両足之尊 我は為れ如来 両足の尊なり
出于世間 猶如大雲 世間に出ずること 猶大雲の如し
充潤一切 枯橋衆生 一切の枯橋の 衆生を充潤して
皆令離苦 得安穏楽 皆苦を離れて 安穏の楽
世間之楽 及涅槃楽 世間の楽 及び涅槃の楽を得せしむ
223
諸天人衆 一心善聴 諸の天人衆 一心に善く聴け
皆応到此 覲無上尊 皆応に此に到って 無上尊を覲るべし
我為世尊 無能及者 我は為れ世尊なり 能く及ぶ者無し
安穏衆生 故現於世 衆生を安穏ならしめんが故に 世に現じて
為大衆説 甘露浄法 大衆の為に 甘露の浄法を説く
其法一味 解脱涅槃 其の法一味にして 解脱涅槃なり
以一妙音 演暢斯義 一の妙音を以て 斯の義を演暢す
常為大乗 而作因縁 常に大乗の為に 而も因縁を作す
我観一切 普皆平等 我一切を観ること 普く皆平等にして
無有彼此 愛憎之心 彼此 愛憎の心有ること無し
我無貪著 亦無限礙 我貪若無く 亦限礙無し
恒為一切 平等説法 恒に一切の為に 平等に法を説く
224
如為一人 衆多亦然 一人の為にするが如く 衆多も亦然なり
常演説法 曽無他事 常に法を演説して 曽て他事無し
去来坐立 終不疲厭 去来坐立 終に疲厭せず
充足世間 如雨普潤 世間に充足すること 雨の普く潤すが如し
貴賎上下 持戒毀戒 貴賎上下 持戒毀戒
威儀具足 及不具足 威儀具足せる 及び具足せざる
正見邪見 利根鈍根 正見邪見 利根鈍根に
等雨法雨 而無懈倦 等しく法雨を雨らして 而も懈倦無し
一切衆生 聞我法者 一切衆生の 我が法を聞く者は
随力所受 住於諸地 力の受くる所に随って 諸の地に住す
或処人天 転輪聖王 或は人天 転輪聖王
釈梵諸王 是小薬草 釈梵諸王に処する 是れ小の薬草なり
225
知無漏法 能得涅槃 無漏の法を知って 能く涅槃を得
起六神通 及得三明 六神通を起し 及び三明を得
独処山林 常行禅定 独山林に処して 常に禅定を行じ
得縁覚証 是中薬草 縁覚の証を得る 是れ中の薬草なり
求世尊処 我当作仏 世尊の処を求めて 我当に作仏すべしと
行精進定 是上薬草 精進定を行ずる 是れ上の薬草なり
又諸仏子 専心仏道 又諸の仏子 心を仏道に専らにして
常行慈悲 自知作仏 常に慈悲を行じ 自ら作仏すと知る
決定無疑 是名小樹 決定して疑無しと知る 是を小樹と名づく
安住神通 転不退輪 神通に安住して 不退の輪を転じ
度無量億 百千衆生 無量億 百千の衆生を度する
如是菩薩 名為大樹 是の如きの菩薩を 名づけて大樹と為す
226
仏平等説 如一味雨 仏の平等の説 一味の雨の如し
随衆生性 所受不同 衆生の性に随って 受くる所不同なること
如彼草木 所稟各異 彼の草木の 稟くる所各異るが如し
仏以此喩 方便開示 仏此の喩を以て 方便して開示し
種種言辞 演説一法 種種の言辞をもって 一法を演説すれども
於仏智慧 如海一滴 仏の智慧に於ては 海の一滴の如し
我雨法雨 充満世間 我法雨を雨らして 世間に充満す
一味之法 随力修行 一味の法を 力に随って修行すること
如彼叢林 薬草諸樹 彼の叢林 薬草諸樹の
随其大小 漸増茂好 其の大小に随って 漸く茂好を増すが如し
諸仏之法 常以一味 諸仏の法 常に一味を以て
令諸世間 普得具足 諸の世間をして 普く具足することを得せしめたもう
227
漸次修行 皆得道果 漸次に修行して 皆道果を得
声聞縁覚 処於山林 声聞縁覚の 山林に処し
住最後身 開法得果 最後身に住して 法を聞いて果を得る
是名薬草 各得増長 是を薬草の 各増長することを得と名づく
若諸菩薩 智慧堅固 若し諸の菩薩 智慧堅固にして
了達三界 求最上乗 三界を了達し 最上乗を求むる
是名小樹 而得増長 是を小樹の 而も増長することを得と各づく
復有住禅 得神通力 復禅に住して 神通力を得
聞諸法空 心大歓喜 諸法の空を聞いて 心大いに歓喜し
放無数光 度諸衆生 無数の光を放って 諸の衆生を度すること有る
是名大樹 而得増長 是を大樹の 而も増長することを得と名づく
如是迦葉 仏所説法 是の如く迦葉 仏の所説の法は
228
譬如大雲 以一味雨 譬えば大雲の 一味の雨を以て
潤於人華 各得成実 人華を潤して 各実成ることを得せしむるが如し
迦葉当知 以諸因縁 迦葉当に知るべし 諸の因縁
種種譬喩 開示仏道 種種の譬喩を以て 仏道を開示す
是我方便 諸仏亦然 是れ我が方便なり 諸仏も亦然なり
今為汝等 説最実事 今汝等が為に 最実事を説く
諸声聞衆 皆非滅度 諸の声聞衆は 皆滅度せるに非ず
汝等所行 是菩薩道 汝等が所行は 是れ菩薩の道なり
漸漸修学 悉当成仏 漸斬に修学して 悉く当に成仏すべし