妙法蓮華経序品第一

055
後秦亀茲国三蔵法師鳩摩羅什奉 詔訳  後秦亀茲国の三蔵法師鳩摩羅什詔を奉して訳す
如是我聞。              是の如く我聞きき。 
一時。仏住王舎城耆闍崛山中。     一時、仏、王舎城耆闍崛山の中に住したまい、
与大比丘衆。万二千人倶。       大比丘衆、万二千人と倶なりき。
皆是阿羅漢。諸漏己尽。無復煩悩。   皆是れ阿羅漢なり。諸漏已に尽して復煩悩無く、         
逮得己利。尽諸有結。心得自在。    己利を逮得し、諸有の結を尽して、心自在を得たり。
其名曰。阿若憍陳如。摩訶迦葉。    其の名を阿若憍陳如、摩訶迦葉、
優楼頻螺迦葉。伽耶迦葉。那提迦葉。  優楼頻螺迦葉、伽耶迦葉、那提迦葉、
舎利弗。大目揵連。摩訶迦旃延。    舎利弗、大目揵連、摩訶迦旃延、

056
阿菟楼駄。劫賓那。憍梵波提。離婆多。 阿菟楼駄、劫賓那、憍梵波提、離婆多、
畢陵伽婆蹉。薄拘羅。摩訶拘絺羅。   畢陵伽婆蹉、薄拘羅、摩訶拘絺羅、
難陀。孫陀羅難陀。富楼那彌多羅尼子。 難陀、孫陀羅難陀、富楼那彌多羅尼子、 
須菩提。阿難。羅睺羅。        須菩提、阿難、羅睺羅と曰う。
如是衆所知識。大阿羅漢等。      是の如き、衆に知識せられたる大阿羅漢等なり。
復有学無学二千人。          復、学無学の二千人有り。
摩訶波闍波提比丘尼。与眷属六千人倶。 摩訶波闍波提比丘尼、眷属六千人と倶なり。
羅睺羅母。耶輸陀羅比丘尼。      羅睺羅の母・耶輸陀羅比丘尼、
亦与眷属倶。菩薩摩訶薩八万人。    亦眷属と倶なり。菩薩摩訶薩八万人あり。
皆於阿耨多羅三藐三菩提。不退転。   皆阿耨多羅三藐三菩提に於て退転せず、
皆得陀羅尼。楽説弁才。転不退転法輪。 皆陀羅尼を得、楽説弁才あって、不退転の法輪を転じ、
供養無量。百千諸仏。於諸仏所。    無量百千の諸仏を供養し、諸仏の所に於て、
殖衆徳本。常為諸仏。之所称歎。    衆の徳本を殖え、常に諸仏に称歎せらるることを為、
以慈修身。善入仏慧。通達大智。    慈を以て身を修め、善く仏慧に入り、大智に通達し、
到於彼岸。名称普聞。無量世界。    彼岸に到り、名称普く無量の世界に聞えて、
能度無数。百千衆生。         能く無数百千の衆生を度す。

057
其名曰。文殊師利菩薩。観世音菩薩。  其の名を文殊師利菩薩、観世音菩薩、
得大勢菩薩。常精進菩薩。       得大勢菩薩、常精進菩薩、
不休息菩薩。宝掌菩薩。薬王菩薩。   不休息菩薩、宝掌菩薩、薬王菩薩、  
勇施菩薩。宝月菩薩。月光菩薩。    勇施菩薩、宝月菩薩、月光菩薩、 
満月菩薩。大力菩薩。無量力菩薩。   満月菩薩、大力菩薩、無量力菩薩、
越三界菩薩。跋陀婆羅菩薩。      越三界菩薩、跋陀婆羅菩薩、
弥勒菩薩。宝積菩薩。導師菩薩。    弥勒菩薩、宝積菩薩、導師菩薩と曰う。 
如是等菩薩摩訶薩。八万人倶。     是の如き等の菩薩摩訶薩八万人と倶なり。
爾時釈提桓因。与其眷属。二万天子倶。 爾の時に釈提桓因、其の眷属二万の天子と倶なり。
復有名月天子。普香天子。宝光天子。  復、名月天子、普香天子、宝光天子、
四大天王。与其眷属。万天子倶。    四大天王有り。其の眷属万の天子と倶なり。
自在天子。大自在天子。        自在天子、大自在天子、
与其眷属。三万天子倶。        其の眷属三万の天子と倶なり。
娑婆世界主。梵天王。尸棄大梵。    娑婆世界の主梵天王・尸棄大梵、
光明大梵等。与其眷属。万二千天子倶。 光明大梵等、其の眷属万二千の天子と倶なり。

058
有八龍王。難陀龍王。跋難陀龍王。   八龍王有り、難陀龍王、跋難陀龍王、
娑伽羅龍王。和修吉龍王。徳叉迦龍王。 娑伽羅龍王、和修吉龍王、徳叉迦龍王、
阿那婆達龍王。摩那斯龍王。      阿那婆達多龍王、摩那斯龍王、
優鉢羅龍王等。各与若干。百千眷属倶。 優鉢羅龍王等なり。各、若干百千の眷属と倶なり。
有四緊那羅王。法緊那羅王。      四緊那羅王有り、法緊那羅王、
妙法緊那羅王。大法緊那羅王。     妙法緊那羅王、大法緊那羅王、
持法緊那羅王。各与若干。百千眷属倶。 持法緊那羅王なり。各、若干百千の眷属と倶なり。
有四乾闥婆王。楽乾闥婆王。      四乾闥婆王有り、楽乾闥婆王、
楽音乾闥婆王。美乾闥婆王。      楽音乾闥婆王、美乾闥婆王、
美音乾闥婆王。各与若干。百千眷属倶。 美音乾闥婆王なり。各、若干百千の眷属と倶なり。
有四阿修羅王。婆稚阿修羅王。     四阿修羅王有り、婆稚阿修羅王、
佉羅騫駄阿修羅王。          佉羅騫駄阿修羅王、
毘摩質多羅阿修羅王。羅喉阿修羅王。  毘摩質多羅阿修羅王、羅喉阿修羅王なり。
各与若干。百千眷属倶。        各、若干百千の眷属と倶なり。

059
有四迦楼羅王。大威徳迦楼羅王。    四迦楼羅王有り、大威徳迦楼羅王、
大身迦楼羅王。大満迦楼羅王。     大身迦楼羅王、大満迦楼羅王、
如意迦楼羅王。各与若干。百千眷属倶。 如意迦楼羅王なり。各、若干百千の眷属と倶なり。
韋提希子。阿闍世王。与若干。     韋提希の子・阿闍世王、若干百千の眷属と倶なりき。
百千眷属倶。各礼仏足。退坐一面。   各、仏足を礼し、退いて一面に坐しぬ。
爾時世尊。四衆囲遶。供養恭敬。    爾の時に世尊、四衆に囲遶せられ、供養恭敬、
尊重讃歎。為諸菩薩。         尊重讃歎せられて、諸の菩薩の為に、
説大乗経。名無量義。         大乗経を説きたもう。無量義と名づくるなり。
教菩薩法。仏所護念。         菩薩を教うる法にして、仏の護念したまう所なり。
仏説此経已。結跏趺坐。        仏、此の経を説き已って、結跏趺坐し、
入於無量義処三昧。身心不動。     無量義処三昧に入って、身心動じたまわず。 
是時天雨。曼陀羅華。摩訶曼陀羅華。  是の時に天、曼陀羅華、摩訶曼陀羅華、
曼殊沙華。摩訶曼殊沙華。       曼殊沙華、摩訶曼殊沙華を雨らして、
而散仏上。及諸大衆。         仏の上、及び諸の大衆に散じ、
普仏世界。六種震動。         普く仏の世界、六種に震動す。
爾時会中。比丘。比丘尼。優婆塞。   爾の時に、会中の比丘、比丘尼、優婆塞、

060
優婆夷。天。龍。夜叉。乾闥婆。    優婆夷と天、龍、夜叉、乾闥婆、
阿修羅。迦楼羅。緊那羅。       阿修羅、迦楼羅、緊那羅、
摩睺羅伽。人非人。及諸小王。     摩睺羅伽の人非人、及び諸の小王、
転輪聖王。是諸大衆。得未曽有。    転輪聖王、是の諸の大衆、未曽有なることを得て、
歓喜合掌。一心観仏。         歓喜し合掌して、一心に仏を観たてまつる。
爾時仏放。眉間白亳相光。       爾の時に仏、眉間白亳相の光を放って、
照東方。万八千世界。靡不周遍。    東方万八千の世界を照したもうに、周遍せざること靡し。
下至阿鼻地獄。上至阿迦尼吒天。    下、阿鼻地獄に至り、上、阿迦尼吒天に至る。
於此世界。尽見彼土。六趣衆生。    此の世界に於て、尽く彼の土の六趣の衆生を見、
又見彼土。現在諸仏。         又、彼の土の現在の諸仏を見、
及聞諸仏。所説経法。         及び諸仏の所説の経法を聞き、
并見彼諸。比丘。比丘尼。       并びに彼の諸の比丘、比丘尼、
優婆塞。優婆夷。諸修行得道者。    優婆塞、優婆夷の、諸の修行、得道する者を見、
復見諸菩薩摩訶薩。種種因縁。     復、諸の菩薩摩訶薩の種種の因縁、
種種信解。種種相貌。行菩薩道。    種種の信解、種種の相貌あって、菩薩の道を行ずるを見、

061
復見諸仏。般涅槃者。         復、諸仏の般涅槃したもう者を見、
復見諸仏。般涅槃後。         復、諸仏般涅槃の後、
以仏舎利。起七宝塔。         仏舎利を以て、七宝の塔を起つるを見る。
爾時弥勒菩薩。作是念。        爾の時に弥勒菩薩、是の念を作さく、
今者世尊。現神変相。          今者世尊、神変の相を現じたもう。
以何因縁。而有此瑞。          何の因縁を以て此の瑞有るや。
今仏世尊。入于三昧。          今仏世尊は、三昧に入りたまえり。
是不可思議。現希有事。         是の不可思議にして希有の事を現ぜるを、
当以問誰。誰能答者。          当に以て誰にか問うべき、誰か能く答えん者なる。
復作此念。              復、此の念を作さく、
是文殊師利。法王之子。         是の文殊師利法王の子は、 
已曽親近供養。過去無量諸仏。      已に曽て、過去無量の諸仏に親近し供養せり。 
必応見比。希有之相。          必ず応に此の希有の相を見たるべし。
我今当問。               我、今当に問うべし。
爾時比丘。比丘尼。優婆塞。優婆夷。  爾の時に、比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、
及諸天龍鬼神等。咸作此念。      及び諸の天、龍、鬼神等、咸く此の念を作さく、
是仏光明。神通之相。今当問誰。     是の仏の光明、神通の相を、今当に誰にか間うべき。
爾時弥勒菩薩。欲自決疑。       爾の時に弥勒菩薩、自ら疑を決せんと欲し、 

062
又観四衆。比丘。比丘尼。優婆塞。   又、四衆の比丘、比丘尼、優婆塞、
優婆夷。及諸天龍鬼神等。衆会之心。  優婆夷、及び諸の天、龍、鬼神等の衆会の心を観じて、
而問文殊師利言。           文殊師利に問うて言わく、
以何因縁。而有此瑞。神通之相。     何の因縁を以て、此の瑞、神通の相有り、
放大光明。照于東方。万八千土。     大光明を放ち、東方万八千の土を照したもうに、
悉見彼仏。国界荘厳。          悉く彼の仏の国界の荘厳を見るや。    
於是弥勒菩薩。欲重宣此義。      是に於て弥勒菩薩、重ねて此の義を宣べんと欲して、
以偈問曰               偈を以て問うて曰く、 
 文殊師利 導師何故          文殊師利 導師は何が故ぞ
 眉間白亳 大光普照          眉間白亳の 大光普く照したもう
 雨曼陀羅 曼殊沙華          曼陀羅 曼殊沙華を雨らして
 栴檀香風 悦可衆心          栴檀の香風 衆の心を悦可す
 以是因縁 地皆厳浄          是の因縁を以て 地皆厳浄なり

063
 而此世界 六種震動          而も此の世界 六種に震動す
 時四部衆 咸皆歓喜          時に四部の衆 咸く皆歓喜し
 身意快然 得未曽有          身意快然として 未曽有なることを得たり
 眉間光明 照于東方          眉間の光明 東方
 万八千土 皆如金色          万八千の土を照したもうに 皆金色の如し
 従阿鼻獄 上至有頂          阿鼻獄より 上有頂に至る
 諸世界中 六道衆生          諸の世界の中の 六道の衆生の
 生死所趣 善悪業縁          生死の所趣 善悪の業縁
 受報好醜 於此悉見          受報の好醜 此に於て悉く見る
 又覩諸仏 聖主師子          又諸仏を覩たてまつるに 聖主師子にして
 演説経典 微妙第一          演説したもう経典は 微妙第一なり
 其声清浄 出柔軟音          其の声清浄に 柔軟の音を出して

064
 教諸菩薩 無数億万          諸の菩薩を教えたもうこと 無数億万なり
 梵音深妙 令人楽聞          梵音深妙にして 人をして聞かんと楽わしめ
 各於世界 講説正法          各世界に於て 正法を講説したもう
 種種因縁 以無量喩          種種の因縁 無量の喩を以て
 照明仏法 開悟衆生          仏法を照明し 衆生を開悟せしめたもう
 若人遭苦 厭老病死          若し人吉に遭いて 老病死を厭うには
 為説涅槃 尽諸苦際          為に涅槃を説いて 諸苦の際を尽さしめ
 若人有福 曽供養仏          若し人福有って 曽て仏を供養し
 志求勝法 為説縁覚          勝法を志求するには 為に縁覚を説き
 若有仏子 修種種行          若し仏子有って 種種の行を修し
 求無上慧 為説浄道          無上慧を求むるには 為に浄道を説きたもう
 文殊師利 我住於此          文殊師利 我此に住して

065
 見聞苦斯 及千億事          見聞すること斯の若く 千億の事に及べり
 如是衆多 今当略説          是の如く衆多なる 今当に略して説くべし
 我見彼土 恒沙菩薩          我彼の土の 恒沙の菩薩
 種種因縁 而求仏道          種種の因縁をもって 仏道を求むるを見る
 或有行施 金銀珊瑚          或は施を行ずるに 金銀珊瑚
 真珠摩尼 硨磲碼碯          真珠摩尼 硨磲碼碯
 金剛諸珍 奴婢車乗          金剛諸珍 奴婢車乗
 宝飾輦輿 歓喜布施          宝飾の輦輿を 歓喜して布施し
 廻向仏道 願得是乗          仏道に廻向して 是の乗の
 三界第一 諸仏所歎          三界第一にして 諸仏の歎めたもう所なるを得んと願う有り
 或有菩薩 駟馬宝車          或は菩薩の 駟馬の宝車
 欄楯華蓋 軒飾布施          欄楯華蓋 軒飾を布施する有り

066
 復見菩薩 身肉手足          復菩薩の 身肉手足
 及妻子施 求無上道          及び妻子を施して 無上道を求むるを見る
 又見菩薩 頭目身体          又菩薩の 頭目身体を
 欣楽施与 求仏智慧          欣楽施与して 仏の智慧を求むるを見る
 文殊師利 我見諸王          文殊師利 我諸王の
 往詣仏所 問無上道          仏所に往詣して 無上道を問いたてまつり
 便捨楽土 宮殿臣妾          便ち楽土 宮殿臣妾を捨てて
 剃除鬚髪 而被法服          鬚髪を剃除して 法服を被るを見る
 或見菩薩 而作比丘          或は菩薩の 而も比丘と作って
 独処閑静 楽誦経典          独閑静に処し 楽って経典を誦するを見る
 又見菩薩 勇猛精進          又菩薩の 勇猛精進し
 入於深山 思惟仏道          深山に入って 仏道を思惟するを見る

067
 又見離欲 常処空閑          又欲を離れ 常に空閑に処し
 深修禅定 得五神通          深く禅定を修して 五神通を得るを見る
 又見菩薩 安禅合掌          又菩薩の 禅に安じて合掌し
 以千万偈 讃諸法王          千万の偈を以て 諸の法王を讃めたてまつるを見る
 復見菩薩 智深志固          復菩薩の 智深く志固くして
 能問諸仏 聞悉受持          能く諸仏に問いたてまつり 聞いて悉く受持するを見る
 又見仏子 定慧具足          又仏子の 定慧具足して
 以無量喩 為衆講法          無量の喩を以て 衆の為に法を講じ
 欣楽説法 化諸菩薩          欣楽説法して 諸の菩薩を化し
 破魔兵衆 而撃法鼓          魔の兵衆を破して 法鼓を撃つを見る
 又見菩薩 寂然宴黙          又菩薩の 寂然宴黙にして
 天龍恭敬 不以為喜          天龍恭敬すれども 以て喜びと為ざるを見る

068
 又見菩薩 処林放光          又菩薩の 林に処して光を放ち
 済地獄苦 令入仏道          地獄の苦を済い 仏道に入らしむるを見る
 又見仏子 未嘗睡眠          又仏子の 未だ嘗て睡眠せず
 経行林中 勤求仏道          林中に経行し 仏道を勤求するを見る
 又見具戒 威儀無欠          又戒を具して 威儀欠くること無く
 浄如宝珠 以求仏道          津きこと宝珠の如くにして 以て仏道を求むるを見る
 又見仏子 住忍辱力          又仏子の 忍辱の力に住して
 増上慢人 悪罵捶打          増上慢の人の 悪罵捶打するを
 皆悉能忍 以求仏道          皆悉く能く忍んで 以て仏道を求むるを見る
 又見菩薩 離諸戯笑          又菩薩の 諸の戯笑
 及癡眷属 親近智者          及び癡なる眷属を離れ 智者に親近し
 一心除乱 摂念山林          心を一にして乱を除き 念を山林に摂め

069
 億千万歳 以求仏道          億千万歳 以て仏道を求むるを見る
 或見菩薩 肴膳飲食          或は菩薩の 肴膳の飲食
 百種湯薬 施仏及僧          百種の湯薬を 仏及び僧に施し
 名衣上服 価直千万          名衣上服の 価直千万なる
 惑無価衣 施仏及僧          或は無価なる衣を 仏及び僧に施し
 千万億種 栴檀宝舎          千万億種の 栴檀の宝舎
 衆妙臥具 施仏及僧          衆の妙なる臥具を 仏及び僧に施し
 清浄園林 華菓茂盛          清浄の園林 華菓茂盛なると
 流泉浴池 施仏及僧          流泉浴池とを 仏及び僧に施し
 如是等施 種種微妙          是の如き等の施の 種種微妙なるを
 歓喜無厭 求無上道          歓喜し厭くこと無くして 無上道を求むるを見る
 或有菩薩 説寂滅法          或は菩薩の 寂滅の法を説いて

070
 種種教詔 無数衆生          種種に 無数の衆生を教詔する有り
 或見菩薩 観諸法性          或は菩薩の 諸法の性は
 無有二相 猶如虚空          二相有ること無し 猶虚空の如しと観ずるを見る
 又見仏子 心無所著          又仏子の 心に所著無くして
 以此妙慧 求無上道          此の妙慧を以て 無上道を求むるを見る
 文殊師利 又有菩薩          文殊師利 又菩薩の
 仏滅度後 供養舎利          仏の滅度の後 舎利を供養する有り
 又見仏子 造諸塔廟          又仏子の 諸の塔廟を造ること
 無数恒沙 厳飾国界          無数恒沙にして 国界を厳飾するを見る
 宝塔高妙 五千由旬          宝塔高妙にして 五千由旬
 縦広正等 二千由旬          縦広正等にして 二千由旬なり
 一一塔廟 各千幢幡          一一の塔廟に 各千の幢幡ありて

071
 珠交露幔 宝鈴和鳴          珠は露幔に交りて 宝鈴和鳴す
 諸天龍神 人及非人          諸の天龍神 人及び非人
 香華伎楽 常以供養          香華伎楽を 常に以て供養す
 文殊師利 諸仏子等          文殊師利 諸の仏子等は
 為供舎利 厳飾塔廟          舎利を供せんが為に 塔廟を厳飾す
 国界自然 殊特妙好          国界自然に 殊特妙好なること
 如天樹王 其華開敷          天の樹王の 其の華開敷せるが如し
 仏放一光 我及衆会          仏一の光を放ちたもうに 我及ぴ衆会
 見此国界 種種殊妙          此の国界の 種種に殊妙なるを見る
 諸仏神力 智慧希有          諸仏の神力 智慧希有なり
 放一浄光 照無量国          一の浄光を放って 無量の国を照したもう
 我等見此 得未曽有          我等此を見て 未曽有なることを得

072
 仏子文殊 願決衆疑          仏子文殊 願わくは衆の疑を決したまえ
 四衆欣仰 瞻仁及我          四衆欣仰して 仁及び我を瞻る
 世尊何故 放斯光明          世尊何が故ぞ 斯の光明を放ちたもう
 仏子時答 決疑令喜          仏子時に答えて 疑を決して喜ばしめたまえ
 何所饒益 演斯光明          何の饒益する所あってか 斯の光明を演べたもう
 仏坐道場 所得妙法          仏道場に坐して 得たまえる所の妙法
 為欲説此 為当授記          為めて此を説かんと欲すや 為めて当に授記したもうべきや
 示諸仏土 衆宝厳浄          諸の仏土の 衆宝厳浄なるを示し
 及見諸仏 此非小縁          及び諸仏を見たてまつること 此れ小縁に非し
 文殊当知 四衆龍神          文殊当に知るべし 四衆龍神
 瞻察仁者 為説何等          仁者を瞻察す 為に何等をか説きたまわん
爾時文殊師利。語弥勒菩薩摩訶薩。   爾の時に文殊師利、弥勒菩薩摩訶薩、

073
及諸大士。              及び諸の大士に語らく、
善男子等。如我惟忖。          善男子等、我が惟忖するが如き、  
今仏世尊。欲説大法。          今仏世尊、大法を説き、
雨大法雨。吹大法螺。          大法の雨を雨らし、大法の螺を吹き、  
撃大法鼓。演大法義。          大法の鼓を撃ち、大法の義を演べんと欲するならん。
諸善男子。我於過去諸仏。        諸の善男子、我、過去の諸仏に於て、
曽見此瑞。放斯光已。          曽て此の瑞を見たてまつりしに、斯の光を放ち已って、
即説大法。是故当知。          即ち大法を説きたまいき。是の故に当に知るべし。
今仏現光。亦復如是。          今仏の光を現じたもうも、亦復是の如く、
欲令衆生。咸得聞知。一切世間。     衆生をして、咸く一切世間の難信の法を聞知することを
難信之法。故現斯瑞。          得せしめんと欲するが故に、斯の瑞を現じたもうならん。
諸善男子。如過去無量無辺。       諸の善男子、過去無量無辺
不可思議。阿僧祇劫。爾時有仏。     不可思議阿僧祇劫の如き、爾の時に仏有す。
号日月灯明。如来。応供。正遍知。    日月灯明如来・応供・正遍知・
明行足。善逝。世間解。無上士。     明行足・善逝・世間解・無上士・  
調御丈夫。天人師。仏世尊。       調御丈夫・天人師・仏世尊と号く。  
演説正法。初善。中善。後善。      正法を演説したもうに初善・中善・後善なり。

074
其義深遠。其語巧妙。          其の義深遠に、其の語巧妙に、
純一無雑。具足清白。梵行之相。     純一無雑にして具足清白梵行の相なり。
為求声聞者。説応四諦法。        声聞を求むる者の為には、応ぜる四諦の法を説いて、
度生老病死。究竟涅槃。         生老病死を度し、涅槃を究竟せしめ、
為求辟支仏者。説応十二因縁法。     辟支仏を求むる者の為には、応ぜる十二因縁の法を説き、
為諸菩薩。説応六波羅蜜。        諸の菩薩の為には、応ぜる六波羅蜜を説いて、  
令得阿耨多羅三藐三菩提。成一切種智。  阿耨多羅三藐三菩提を得て、一切種智を成ぜしめたもう。
次復有仏。亦名日月灯明。        次に復仏有す。亦、日月灯明と名づく。
次復有仏。亦名日月灯明。        次に復仏有す。亦、日月灯明と名づく。
如是二万仏。皆同一字。号日月灯明。   是の如く二万仏、皆同じく一字にして、日月灯明と号く。
又同一姓。姓頗羅堕。          又、同じく一姓にして、頗羅堕を姓とせり。
弥勒当知。初仏後仏。          弥勒当に知るべし。初仏、後仏、
皆同一字。名日月灯明。十号具足。    皆同じく一字にして日月灯明と名づけ、十号具足したまえり。 
所可説法。初中後善。          説きたもうべき所の法、初中後善なり。 

075
其最後仏。未出家時。有八王子。     其の最後の仏、未だ出家したまわざりし時、八王子有り。
一名有意。二名善意。三名無量意。    一を有意と名づけ、二を善意と名づけ、三を無量意と名づけ、
四名宝意。五名増意。六名除疑意。    四を宝意と名づけ、五を増意と名づけ、六を除疑意と名づけ、
七名響意。八名法意。          七を響自意と名づけ、八を法意と名づく。
是八王子。威徳自在。各領四天下。    是の八王子、威徳自在にして、各四天下を領す。
是諸王子。聞父出家。          是の諸の王子、父出家して、
得阿耨多羅三藐三菩提。         阿褥多罪三猿三菩提を得たもうと聞いて、 
悉捨王位。亦随出家。          悉く王位を捨て、亦、随い出家して、
発大乗意。常修梵行。皆為法師。     大乗の意を発し、常に梵行を修して、皆法師と為れり。
已於千万仏所。殖諸善本。        已に千万の仏の所に於て、諸の善本を殖えたり。 
是時日月灯明仏。説大乗経。       是の時に日月灯明仏、大乗経の
名無量義。教菩薩法。仏所護念。     無量義・教菩薩法・仏所護念と名づくるを説きたもう。
説是経已。即於大衆中。結跏趺坐。    是の経を説き已って、即ち大衆の中に於て、結跏趺坐し、
入於無量義処三昧。身心不動。      無量義処三昧に入って、身心動じたまわず。

076
是時天雨。曼陀羅華。摩訶曼陀羅華。   是の時に天、曼陀羅華、摩訶曼陀羅華、
曼殊沙華。摩訶曼殊沙華。        曼殊沙華、摩訶曼殊沙華を雨らして、
而散仏上。及諸大衆。          仏の上、及び諸の大衆に散じ、 
普仏世界。六種震動。          普く仏の世界六種に震動す。
爾時会中。比丘。比丘尼。優婆塞。    爾の時に、会中の比丘、比丘尼、優婆塞、
優婆夷。天。龍。夜叉。乾闥婆。     優婆夷と天、龍、夜叉、乾闥婆、
阿修羅。迦楼羅。緊那羅。摩睺羅伽。   阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩睺羅伽の
人非人。及諸小王。転輪聖王等。     人非人、及び諸の小王、転輪聖王等、  
是諸大衆。得未曽有。          是の諸の大衆、未曽有なることを得て、
歓喜合掌。一心観仏。          歓喜し合掌して、一心に仏を観たてまつる。
爾時如来。放眉間白亳相光。       爾の時に如来、眉間白亳相の光を放って、 
照東方。万八千仏土。          東方万八千の仏土を照したもうに、
靡不周遍。如今所見。是諸仏土。     周遍せざること靡し。今見る所の是の諸の仏土の如し。
弥勒当知。               弥勒、当に知るべし。
爾時会中。有二十億菩薩。楽欲聴法。   爾の時に会中に、二十億の菩薩有って、法を聴かんと楽欲す。

077
是諸菩薩。見此光明。普照仏土。     是の諸の菩薩、此の光明普く仏土を照すを見て、
得未曽有。欲知此光。所為因縁。     未曽有なることを得て、此の光の所為の因縁を知らんと欲す。
時有菩薩。名曰妙光。有八百弟子。    時に菩薩有り、名を妙光と曰う。八百の弟子有り。
是時日月灯明仏。従三昧起。       是の時に日月灯明仏、三昧より起って、 
因妙光菩薩。説大乗経。名妙法蓮華。   妙光菩薩に因せて、大乗経の妙法蓮華・
教菩薩法。仏所護念。          教菩薩法・仏所護念と名づくるを説きたもう。
六十小劫。不起于座。時会聴者。     六十小劫、座を起ちたまわず。時の会の聴者も、
亦坐一処。六十小劫。身心不動。     亦一処に坐して、六十小劫、身心動ぜず。
聴仏所説。謂如食頃。          仏の所説を聴くこと、食頃の如しと謂えり。
是時衆中。無有一人。          是の時衆の中に、一人として、若しは身、
若身若心。而生懈倦。          若しは心に懈倦を生ずる有ること無かりき。
日月灯明仏。於六十小劫。説是経已。   日月灯明仏、六十小劫に於て、是の経を説き已って、
即於梵魔。沙門。婆羅門。及天人。    即ち梵、魔、沙門、婆羅門、及び天、人、
阿修羅衆中。而宣此言。         阿修羅衆の中に於て、此の言を宣べたまわく、

078
如来於今日中夜。当入無余涅槃。     如来、今日の中夜に於て、当に無余涅槃に入るべし。
時有菩薩。名曰徳蔵。          時に菩薩有り。名を徳蔵と曰う。
日月灯明仏。即授其記。告諸比丘。    日月灯明仏、即ち其に記を授け、諸の比丘に告げたまわく、
是徳蔵菩薩。次当作仏。          是の徳蔵菩薩、次に当に作仏すべし。
号曰浄身。多陀阿伽度。          号を浄身・多陀阿伽度・
阿羅訶。三藐三仏陀。           阿羅訶。三藐三仏陀と曰わん。  
仏授記已。便於中夜。入無余涅槃。    仏、授記し已って、便ち中夜に於て無余涅槃に入りたもう。
仏滅度後。妙光菩薩。持妙法蓮華経。   仏の滅度の後、妙光菩薩、妙法蓮華経を持ち、
満八十小劫。為人演説。         八十小劫を満てて人の為に演説す。
日月灯明仏八子。皆師妙光。       日月灯明仏の八子、皆妙光を師とす。
妙光教化。令其堅固。          妙光教化して、其をして
阿耨多羅三藐三菩提。          阿耨多羅三藐三菩提に堅固ならしむ。
是諸王子。供養無量。          是の諸の王子、無量
百千万億仏已。皆成仏道。        百千万億の仏を供養し已って、皆仏道を成ず。  
其最後成仏者。名曰燃灯。        其の最後に成仏したもう者、名を燃灯と曰う。
八百弟子。中有一人。          八百の弟子の中に一人有り。

079
号曰求名。貪著利養。          号を求名と曰う。利養に貪著せり。
雖復読誦衆経。而不通利。        復、衆経を読誦すと難も、而も通利せず、
多所忘失。故号求名。          忘失する所多し。故に求名と号く。
是人亦以。種諸善根因縁故。       是の人亦、諸の善根を種えたる因縁を以ての故に、
得値無量。百千万億諸仏。        無量百千万億の諸仏に値いたてまつることを得て、 
供養恭敬。尊重讃歎。          供養恭敬、尊重讃歎せり。
弥勒当知。爾時妙光菩薩。        弥勒、当に知るべし。爾の時の妙光菩薩、 
豈異人乎。我身是也。          豈、異人ならんや。我が身是なり。
求名菩薩。汝身是也。          求名菩薩は汝が身是なり。
今見此瑞。与本無異。          今、此の瑞を見るに、本と異ること無し。
是故惟忖。今日如来。          是の故に惟忖するに、今日の如来も、
当説大乗経。名妙法蓮華。        当に大乗経の妙法蓮華・教菩薩法・
教菩薩法。仏所護念。          仏所護念と名づくるを説きたもうべし。 
爾時文殊師利。於大衆中。       爾の時に文殊師利、大衆の中に於て、
欲重宣此義。而説偈言         重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、  

080
 我念過去世 無量無数劫        我過去世の 無量無数劫を念うに
 有仏人中尊 号日月灯明        仏人中尊有しき 日月灯明と号く
 世尊演説法 度無量衆生        世尊法を演説し 無量の衆生
 無数億菩薩 令入仏智慧        無数億の菩薩を度して 仏の智慧に入らしめたもう
 仏未出家時 所生八王子        仏末だ出家したまわざりし時の 所生の八王子
 見大聖出家 亦随修梵行        大聖の出家を見て 亦随って梵行を修す
 時仏説大乗 経名無量義        時に仏大乗経の 無量義と名づくるを説いて
 於諸大衆中 而為広分別        諸の大衆の中に於て 為に広く分別したもう
 仏説此経已 即於法座上        仏此の経を説き已り 即ち法座の上に於て
 跏趺坐三昧 名無量義処        跏趺して三昧に坐したもう 無量義処と名づく
 天雨曼陀華 天鼓自然鳴        天曼陀華を雨らし 天鼓自然に鳴り
 諸天龍鬼神 供養人中尊        諸の天龍鬼神 人中尊を供養す

081
 一切諸仏土 即時大震動        一切の諸の仏土 即時に大いに震動し
 仏放眉間光 現諸希有事        仏眉間の光を放ち 諸の希有の事を現じたもう
 此光照東方 万八千仏土        此の光東方 万八千の仏土を照して
 示一切衆生 生死業報処        一切衆生の 生死の業報処を示したもう
 有見諸仏土 以衆宝荘厳        諸の仏土の 衆宝を以て荘厳し
 瑠璃頗梨色 斯由仏光照        瑠璃頗梨の色なるを見ること有り 斯れ仏の光の照したもうに由る
 及見諸天人 龍神夜叉衆        及び諸の天人 龍神夜叉衆
 乾闥緊那羅 各供養其仏        乾闥緊那羅 各其の仏を供養するを見る
 又見諸如来 自然成仏道        又諸の如来の 自然に仏道を成じて
 身色如金山 端厳甚微妙        身の色金山の如く 端厳にして甚だ微妙なること
 如浄瑠璃中 内現真金像        浄瑠璃の中 内に真金の像を現ずるが如くなるを見る
 世尊在大衆 敷演深法義        世尊大衆に在して 深法の義を敷演したもう

082
 一一諸仏土 声聞衆無数        一一の諸の仏土 声聞衆無数なり
 因仏光所照 悉見彼大衆        仏の光の所照に因って 悉く彼の大衆を見る
 或有諸比丘 在於山林中        或は諸の比丘の 山林の中に在って
 精進持浄戒 猶如護明珠        精進し浄戒を持つこと 猶明珠を護るが如くなる有り
 又見諸菩薩 行施忍辱等        又諸の菩薩の 施忍辱等を行ずること
 其数如恒沙 斯由仏光照        其の数劫沙の如くなるを見る 斯れ仏の光の照したもうに由る
 又見諸菩薩 深入諸禅定        又諸の菩薩の 深く諸の禅定に入って
 身心寂不動 以求無上道        身心寂かに動せずして 以て無上道を求むるを見る
 又見諸菩薩 知法寂滅相        又諸の菩薩の 法の寂滅の相を知って
 各於其国土 説法求仏道        各其の国土に於て 法を説いて仏道を求むるを見る
 爾時四部衆 見日月灯仏        爾の時に四部の衆 日月灯仏の
 現大神通力 其心皆歓喜        大神通力を現じたもうを見て 其の心皆歓喜して

083
 各各自相問 是事何因縁        各各に自ら相問わく 是の事何の因縁ぞ
 天人所奉尊 適従三昧起        天人所奉の尊 適めて三昧より起ち
 讃妙光菩薩 汝為世間眼        妙光菩薩を讃めたまわく 汝は為れ世間の眼
 一切所帰信 能奉持法蔵        一切に帰信せられて 能く法蔵を奉持す
 如我所説法 唯汝能証知        我が所説の法の如き 唯汝のみ能く証知せり
 世尊既讃歎 令妙光歓喜        世尊既に讃歎し 妙光をして歓喜せしめて
 説是法華経 満六十小劫        是の法華経を説きたもう 六十小劫を満てて
 不起於此座 所説上妙法        此の座を起ちたまわず 説きたもう所の上妙の法
 是妙光法師 悉皆能受持        是の妙光法師 悉く皆能く受持す
 仏説是法華 令衆歓喜已        仏是の法華を説き 衆をして歓喜せしめ已って
 尋即於是日 告於天人衆        尋いで即ち是の日に於て 天人衆に告げたまわく
 諸法実相義 已為汝等説        諸法実相の義 已に汝等が為に説きつ

084
 我今於中夜 当入於涅槃        我今中夜に於て 当に涅槃に入るべし
 汝一心精進 当離於放逸        汝一心に精進し 当に放逸を離るべし
 諸仏甚難値 億劫時一遇        諸仏には甚だ値いたてまつり難し 億劫に時に一び遇いたてまつる
 世尊諸子等 聞仏入涅槃        世尊の諸子等 仏涅槃に入りたまわんと聞きて
 各各懐悲悩 仏滅一何速        各各に悲悩を懐く 仏滅したもうこと一に何ぞ速かなる
 聖主法之王 安慰無量衆        聖主法の王 無量の衆を安慰したまわく
 我若滅度時 汝等勿憂怖        我若し滅度しなん時 汝等憂怖すること勿れ
 是徳蔵菩薩 於無漏実相        是の徳蔵菩薩 無漏実相に於て
 心已得通達 其次当作仏        心已に通達することを得たり 其れ次に当に作仏すべし
 号曰為浄身 亦度無量衆        号を曰って浄身と為づけん 亦無量の衆を度せん
 仏此夜滅度 如薪尽火滅        仏此の夜滅度したもうこと 薪尽きて火の滅ゆるが如し
 分布諸舎利 而起無量塔        諸の舎利を分布して 無量の塔を起つ

085
 比丘比丘尼 其数如恒沙        比丘比丘尼 其の数恒沙の如し
 倍復加精進 以求無上道        倍復精進を加えて 以て無上道を求む
 是妙光法師 奉持仏法蔵        是の妙光法師 仏の法蔵を奉持して
 八十小劫中 広宣法華経        八十小劫の中に 広く法華経を宣ぶ
 是諸八王子 妙光所開化        是の諸の八王子 妙光に開化せられて
 堅固無上道 当見無数仏        無上道に堅固にして 当に無数の仏を見たてまつるべし
 供養諸仏已 随順行大道        諸仏を供養し已って 随順して大道を行じ
 相継得成仏 転次而授記        相継いで成仏することを得 転次して授記す
 最後天中天 号曰燃灯仏        最後の天中天をば 号を燃灯仏と曰う
 諸仙之導師 度脱無量衆        諸仙の導師として 無量の衆を度脱したもう
 是妙光法師 時有一弟子        是の妙光法師 時に一りの弟子有り
 心覚懐懈怠 貪著於名利        心常に懈怠を懐いて 名利に貪著せり

086
 求名利無厭 多遊族姓家        名利を求むるに厭くこと無くして 多く族姓の家に遊び
 棄捨所習誦 廃忘不通利        習誦する所を棄捨し 廃忘して通利せず
 以是因縁故 号之為求名        是の因縁を以ての故に 之を号けて求名と為す
 亦行衆善業 得見無数仏        亦衆の善業を行じ 無数の仏を見たてまつることを得
 供養於諸仏 随順行大道        諸仏を供養し 随順して大道を行じ
 具六波羅蜜 今見釈師子        六波羅蜜を具して 今釈師子を見たてまつる
 其後当作仏 号名曰弥勒        其れ後に当に作仏すべし 号を名づけて弥勒と曰わん
 広度諸衆生 其数無有量        広く諸の衆生を度すること 其の数量有ること無けん
 彼仏滅度後 懈怠者汝是        彼の仏の滅度の後 懈怠なりし者は汝是なり
 妙光法師者 今則我身是        妙光法師は 今則ち我が身是なり
 我見灯明仏 本光瑞如此        我灯明仏を見たてまつりしに 本の光瑞此の如し
 以是知今仏 欲説法華経        是を以て知んぬ今の仏も 法華経を説かんと欲するならん

087
 今相如本瑞 是諸仏方便        今の相本の瑞の如し 是れ諸仏の方便なり
 今仏放光明 助発実相義        今の仏の光明を放ちたもうも 実相の義を助発せんとなり
 諸人今当知 合掌一心待        諸人今当に知るべし 合掌して一心に待ちたてまつれ
 仏当雨法雨 充足求道者        仏当に法雨を雨らして 道を求むる者に充足したもうべし
 諸求三乗人 若有疑悔者        諸の三乗を求むる人 若し疑悔有らば
 仏当為除断 令尽無有余        仏当に為に除断して 尽して余有ること無からしめたもうべし