609
宋元嘉年 曇無密多於楊州 訳 宋の元嘉年 曇無密多楊州に於て訳す
如是我聞。 是の如く我聞きき。
一時仏在。毘舎離国。大林精舎。 一時、仏、毘舎離国、大林精舎、
重閣講堂。告諸比丘。 重閣講堂に在して、諸の比丘に告げたまわく、
却後三月。我当般涅槃。 却って後、三月あって、我当に般涅槃すべし。
尊者阿難。即従座起。整衣服。 尊者阿難、即ち座より起って衣服を整え、
叉手合掌。遶仏三帀。 叉手合掌して、仏を遶ること三帀して、
為仏作礼。胡跪合掌。 仏の為に礼を作し、胡跪し合掌して、
諦観如来。目不暫捨。 諦かに如来を観たてまつりて、目暫くも捨てず。
長老摩訶迦葉。弥勒菩薩摩訶薩。 長老摩訶迦葉、弥勒菩薩摩訶薩も、
亦従座起。合掌作礼。 亦座より起って、合掌し礼を作して、
瞻仰尊顔。 尊顔を瞻仰したてまつる。
610
時三大士。異口同音。而白仏言。 時に三大士、異口同音にして、仏に白して言さく、
世尊。如来滅後。云何衆生。 世尊、如来の滅後に、云何にしてか衆生、
起菩薩心。修行大乗。方等経典。 菩薩の心を起し、大乗方等経典を修行し、
正念思惟。一実境界。 正念に一実の境界を思惟せん。
云何不失。無上菩提之心。 云何にしてか無上菩提の心を失わざらん。
云何復当。不断煩悩。 云何にしてか、復当に煩悩を断ぜず、
不離五欲。得浄諸根。滅除諸罪。 五欲を離れずして、諸根を浄め、諸罪を滅除することを得、
父母所生。清浄常眼。不断五欲。 父母所生の清浄の常の眼、五欲を断ぜずして、
而能得見。諸障外事。 而も能く諸の障外の事を見ることを得べき。
仏告阿難。 仏、阿難に告げたまわく、
諦聴諦聴。善思念之。 諦かに聴け、諦かに聴け、善く之を思念せよ。
如来昔於。耆闍崛山。及余住処。 如来は昔、耆闍崛山及び余の住処に於て、
已広分別。一実之道。 已に広く一実の道を分別せしかども、
今於此処。為未来世。諸衆生等。 今此の処に於て、未来世の諸の衆生等の、
欲行大乗。無上法者。 大乗無上の法を行ぜんと欲せん者、
611
欲学普賢行。普賢行者。 普賢の行を学し、普賢を行ぜんと欲せん者の為に、
我今当説。其所念法。 我今、当に其の所念の法を説くべし。
若見普賢。及不見者。除却罪数。 若しは普賢を見、及び見ざる者の罪数を除却せんこと、
今為汝等。当広分別。 今汝等が為に当に広く分別すべし。
阿難。普賢菩薩。乃生東方。浄妙国土。 阿難、普賢菩薩は乃ち、東方の浄妙国土に生ぜり。
其国土相。雑華経中。已広分別。 其の国土の相は、雑華経の中に已に広く分別せり。
我今於此経。略而解説。 我今、此の経に於て略して解説せん。
阿難。若比丘。比丘尼。優婆塞。優婆夷。 阿難、若し比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、
天龍八部。一切衆生。誦大乗者。 天龍八部、一切衆生の大乗を誦せん者、
修大乗者。発大乗意者。 大乗を修せん者、大乗の意を発せん者、
楽見普賢菩薩色身者。 普賢菩薩の色身を見んと楽わん者、
楽見多宝仏塔者。 多宝仏の塔を見たてまつらんと楽わん者、
楽見釈迦牟尼仏。及分身諸仏者。 釈迦牟尼仏及び分身の諸仏を見たてまつらんと楽わん者、
楽得六根清浄者。当学是観。 六根清浄を得んと楽わん者は、当に是の観を学すべし。
612
此観功徳。除諸障礙。見上妙色。 此の観の功徳は、諸の障礙を除いて、上妙の色を見る。
不入三昧。但誦持故。 三昧に入らざれども、但誦持するが故に、
専心修習。心心相次。不離大乗。 心を専らにして修習し、心心相次いで大乗を離れざること、
一日至三七日。得見普賢。 一日より三七日に至れば、普賢を見ることを得。
有重障者。七七日後。然後得見。 重き障有る者は、七七日の後、然して後に見ることを得、
復有重者。一生得見。 復重きこと有る者は一生に見ることを得、
復有重者。二生得見。 復重きこと有る者は二生に見ることを得、
復有重者。三生得見。 復重きこと有る者は三生に見ることを得。
如是種種。業報不同。是故異説。 是の如く種種に業報不同なり、是の故に異説す。
普賢善薩。身量無辺。 普賢菩薩は、身量無辺、
音声無辺。色像無辺。 音声無辺、色像無辺なり。
欲来此国。入自在神通。 此の国に来らんと欲して自在神通に入り、
促身令小。閻浮提人。三障重故。 身を促めて小ならしむ。閻浮提の人は三障重きが故に。
以智慧力。化乗白象。 智慧力を以て、化して白象に乗れり。
其象六牙。七支跬地。 其の象に六牙あり、七支地を跬えたり。
613
其七支下。生七蓮華。 其の七支の下に七蓮華を生ぜり。
其象色鮮白。白中上者。 其の象の色鮮白なり、白の中に上れたる者なり。
頗梨雪山。不得為比。 頗梨雪山も比と為ることを得ず。
象身長四百五十由句。高四百由句。 象の身の長さ四百五十由句、高さ四百由句。
於六牙端。有六浴池。 六牙の端に於て、六つの浴池有り。
一一浴池中。生十四蓮華。与池正等。 一一の浴池の中に十四の蓮華を生ぜり、池と正等なり。
其華開敷。如天樹王。 其の華開敷せること、天の樹王の如し。
一一華上。有一玉女。 一一の華の上に一りの玉女有り。
顔色如紅。暉有過天女。 顔色紅の如くにして、暉天女に過ぎたる有り。
手中自然。化五箜篌。 手の中に自然に五つの箜篌を化せり。
一一箜篌。五百楽器。以為眷属。 一一の箜篌に五百の楽器あり、以て眷属と為り。
有五百鳥。鳧鴈鴛鴦。 五百の鳥有り。鳧、鴈、鴛鴦、
皆衆宝色。生華葉間。 皆衆宝の色にして、華葉の間に生ぜり。
象鼻有華。其茎譬如。赤真珠色。 象の鼻に華有り、其の茎譬えば赤真珠の色の如し。
其華金色。含而未敷。 其の華金色にして含んで未だ敷けず。
614
見是事已。復更懺悔。 是の事を見已って復更に懺悔す。
至心諦観。思惟大乗。心不休廃。 至心に諦観して、大乗を思惟すること心に休廃せざれば、
見華即敷。金色金光。 華を見るに即ち敷け、金色に金光あり。
其蓮華台。是甄叔迦宝。 其の蓮華台は、是れ甄叔迦宝、
妙梵摩尼。以為華台。 妙梵摩尼を以て華台と為し、
金剛宝。以為華鬚。 金剛宝を以て華鬚と為り。
見有化仏。坐蓮華台。 化仏有せるを見るに、蓮華台に坐したまえり。
衆多菩薩。坐蓮華鬚。 衆多の菩薩、蓮華鬚に坐せり。
化仏眉間。亦出金色光。 化仏の眉間より、亦金色の光を出して、
入象鼻中。紅蓮華色。 象の鼻の中に入る。紅蓮華の色にして、
従象鼻中出。入象眼中。 象の鼻の中より出でて象の眼の中に入る。
従象眼中出。入象耳中。 象の眼の中より出でて、象の耳の中に入る。
従象耳出。照象頂上。化作金台。 象の耳より出でて、象の頂上を照して、化して金台と作る。
当象頭上。有三化人。 当に象の頭の上に三化人有るべし。
一捉金輪。一持摩尼珠。一把金剛杵。 一りは金輪を捉り、一りは摩尼珠を持ち、一りは金剛杵を把れり。
拳杵擬象。象即能行歩。 杵を挙げて象に擬するに、象即ち能く行歩す。
脚不履地。躡虚而遊。 脚地を履まず、虚を躡んで遊ぶ。
615
離地七尺。地有印文。 地を離るること七尺、地に印文有り。
於印文中。千輻轂輞。皆悉具足。 印文の中に於て、千輻轂輞、皆悉く具足せり。
一一輞間。生一大蓮華。 一一の輞間に、 一の大蓮華を生ず。
此蓮華上。生一化象。 此の蓮華の上に一の化象を生ぜり。
亦有七支。随大象行。 亦七支有り、大象に随って行く。
挙足下足。生七千象。 足を挙げ足を下すに、七千の象を生ず。
以為眷属。随従大象。 以て眷属と為して、大象に随従せり。
象鼻紅蓮華色。 象の鼻、紅蓮華の色なる、
上有化仏。放眉間光。 上に化仏有して、眉間の光を放ちたもう。
其光金色。如前入象鼻中。 其の光金色にして、前の如く象の鼻の中に入り、
於象鼻中出。入象眼中。 象の鼻の中より出でて象の眼の中に入り、
従象眼出。還入象耳。 象の眼より出でて還って象の耳に入り、
従象耳出。至象頂上。 象の耳より出でて象の頂上に至る。
漸漸上至象背。化成金鞍。七宝校具。 漸漸に上り象の背に至り、化して金鞍と成って七宝校具せり。
於鞍四面。有七宝柱。 鞍の四面に於て七宝の柱有り、
衆宝校飾。以成宝台。 衆宝校飾して以て宝台を成せり。
616
台中有一。七宝蓮華鬘。 台の中に一の七宝の蓮華鬘有り。
其蓮華鬘。百宝共成。 其の蓮華鬘は百宝をもって共に成ぜり。
其蓮華台。是大摩尼。 其の蓮華台は是れ大摩尼なり。
有一菩薩。結跏趺坐。名曰普賢。 一りの菩薩有り、結跏趺坐せり、名を普賢と曰う。
身白玉色。五十種光。 身白玉の色にして五十種の光あり。
光五十種色。以為頂光。 光に五十種の色あり、以て頂光と為す。
身諸毛孔。流出金光。 身の諸の毛孔より金光を流出す。
其金光瑞。無量化仏。 其の金光の端に無量の化仏まします。
諸化菩薩。以為眷属。 諸の化菩薩を以て眷属と為せり。
安詳徐歩。 安詳として徐に歩み、
雨大宝蓮華。至行者前。 大いなる宝蓮華を雨らして行者の前に至らん。
其象開口。於象牙上。 其の象、口を開くに、象の牙の上に於て、
諸池玉女。鼓楽絃歌。 諸池の玉女鼓楽絃歌す。
其声微妙。讃歎大乗。一実之道。 其の声微妙にして大乗一実の道を讃歎す。
行者見已。歓喜敬礼。 行者見已って歓喜し、敬礼して、
復更読誦。甚深経典。 復更に、甚深の経典を読誦し、
遍礼十方。無量諸仏。 遍く十方無量の諸仏を礼し、
礼多宝仏塔。及釈迦牟尼仏。 多宝仏塔及び釈迦牟尼仏を礼したてまつり、
617
并礼普賢。諸大菩薩。発是誓願。 并びに普賢、諸の大菩薩を礼して、是の誓願を発す。
若我宿福。応見普賢。 若し我宿福あらば、応に普賢を見たてまつるべし。
願尊者遍吉。示我色身。 願わくは尊者遍吉、我に色身を示したもうべし。
作是願已。昼夜六時。礼十方仏。 是の願を作し已って、昼夜六時に十方の仏を礼し、
行懺悔法。読大乗経。誦大乗経。 懺悔の法を行じ、大乗経を読み、大乗経を誦し、
思大乗義。念大乗事。 大乗の義を思い、大乗の事を念じ、
恭敬供養。持大乗者。 大乗を持つ者を恭敬し、供養し、
視一切人。猶如仏想。 一切の人を視ること、猶仏の想の如くし、
於諸衆生。如父母想。 諸の衆生に於て、父母の想の如くせよ。
作是念已。普賢善薩。 是の念を作し已りなば、普賢菩薩、
即於眉間。放大人相。白毫光明。 即ち眉間より大人相白毫の光明を放たん。
此光現時。普賢菩薩。 此の光現ずる時に、普賢菩薩
身相端厳。如紫金山。 身相端厳にして紫金山の如く、
端正微妙。三十二相。皆悉備有。 端正微妙にして三十二相皆悉く備え有たん。
618
身諸毛孔。放大光明。 身の諸の毛孔より大光明を放ち、
照其大象。令作金色。 其の大象を照して金色と作らしめん。
一切化象。亦作金色。 一切の化象も亦金色と作り、
諸化菩薩。亦作金色。 諸の化菩薩も亦金色と作らん。
其金色光。照于東方。 其の金色の光、東方無量の世界を照すに、
無量世界。皆同金色。 皆同じく金色とならん。
南西北方。四維上下。亦復如是。 南西北方四維上下も、亦復是の如し。
爾時十方面。於一一方。 爾の時に十方面、一一の方に於て、
有一菩薩。乗六牙白象王。 一りの菩薩の六牙の白象王に乗れる有り。
亦如普賢。等無有異。 亦普賢の如く等しくして異ること有ること無けん。
如是十方。無量無辺。満中化象。 是の如く十方無量無辺の中に満てる化象も、
普賢菩薩。神通力故。 普賢善薩の神通力の故に、
令持経者。皆悉得見。 持経者をして皆悉く見ることを得せしめん。
是時行者。見諸菩薩。 是の時に行者、諸の菩薩を見て、
身心歓喜。為其作礼。白言。 身心歓喜して、其の為に礼を作して、白して言さく、
大慈大悲者。愍念我故。 大慈大悲者、我を愍念したもうが故に、
為我説法。 我が為に法を説きたまえ。
619
説是語時。諸菩薩等。 是の語を説く時に、諸の菩薩等、
異口同音。各説清浄。大乗経法。 異口同音に、各清浄の大乗経法を説いて、
作諸偈頌。讃歎行者。 諸の偈頌を作って行者を讃歎すべし。
是名始。観普賢菩薩。最初境界。 是を始めて普賢菩薩を観ずる最初の境界と名づく。
爾時行者。見是事已。 爾の時に行者、是の事を見已って、
心念大乗。昼夜不捨。 心に大乗を念じて、昼夜に捨てざれば、
於睡眠中。夢見普賢。為其説法。 睡眠の中に於て、夢に普賢、其の為に法を説くと見ん。
如覚無異。 覚の如くにして異ること無く、
安慰其心。而作是言。 其の心を安慰して、是の言を作さん。
汝所誦持。忘失是句。忘失是偈。 汝が誦持する所、是の句を忘失し、是の偈を忘失せり。
爾時行者。聞普賢説深法。 爾の時に行者、普賢の深法を説くことを聞いて、
解其義趣。憶持不忘。 其の義趣を解し、憶持して忘れじ。
日日如是。其心漸利。 日日に是の如くして、其の心漸く利ならん。
普賢菩薩。教其憶念。十方諸仏。 普賢菩薩、其をして十方の諸仏を憶念せしめん。
随普賢教。正心正憶。 普賢の教に随って、正心正憶にして、
漸以心眼。見東方仏。身黄金色。 漸く心眼を以て、東方の仏の身黄金の色にして、
620
端厳微妙。 端厳微妙なるを見たてまつらん。
見一仏已。復見一仏。 一仏を見たてまつり已って、復一仏を見たてまつらん。
如是漸漸。遍見東方。一切諸仏。 是の如く漸漸に、遍く東方の一切の諸仏を見たてまつり、
心想利故。遍見十方。一切諸仏。 心想利なるが故に、遍く十方の一切の諸仏を見たてまつらん。
見諸仏已。心生歓喜。 諸仏を見たてまつり已って、心に歓喜を生じて、
而作是言。 是の言を作さく、
因大乗故。得見大士。 大乗に因るが故に、大士を見ることを得、
因大士力故。得見諸仏。 大士の力に因るが故に、諸仏を見たてまつることを得たり。
難見諸仏。猶未了了。 諸仏を見たてまつると雖も、猶未だ了了ならず。
閉目則見。開目則失。 目を閉づれば則ち見、目を開かば則ち失う。
作是語已。五体投地。遍礼十方仏。 是の語を作し已って、五体を地に投じて遍く十方の仏を礼せん。
礼諸仏已。胡跪合掌。而作是言。 諸仏を礼し已って、胡跪し合掌して、是の言を作せ。
諸仏世尊。十力無畏。十八不共法。 諸仏世尊は、十力、無畏、十八不共法、
大慈大悲三念処。 大慈大悲、三念処まします。
常在世間。色中上色。 常に世間に在して、色の中の上色なり。
621
我有何罪。而不得見。 我何の罪有って、見たてまつることを得ざる。
説是語已。復更懺悔。 是の語を説き已って、復更に懺悔せよ。
懺悔清浄已。普賢菩薩。 懺悔清浄なること已りなば、普賢菩薩、
復更現前。行住坐臥。不離其側。 復更に現前して、行住坐臥に其の側を離れず。
乃至夢中。常為説法。 乃至夢の中にも、常に為に法を説かん。
此人覚已。得法喜楽。 此の人覚め已って法喜の楽を得ん。
如是昼夜。経三七日。 是の如くして、昼夜三七日を経て、
然後方得。旋陀羅尼。 然して後に、方に旋陀羅尼を得ん。
得陀羅尼故。諸仏菩薩。所説妙法。 陀羅尼を得るが故に、諸仏、菩薩の所説の妙法、
憶持不失。亦常夢見。過去七仏。 憶持して失わじ。亦常に夢に過去の七仏を見たてまつらんに、
唯釈迦牟尼仏。為其説法。 唯釈迦牟尼仏のみ、其が為に法を説きたまわん。
是諸世尊。各各称讃。大乗経典。 是の諸の世尊、各各に大乗経典を称讃したまわん。
爾時行者。復更歓喜。遍礼十方仏。 爾の時に行者、復更に歓喜して、遍く十方の仏を礼せん。
礼十方仏已。普賢菩薩。住其人前。 十方の仏を礼し已りなば、普賢菩薩、其の人の前に住して、
622
教説宿世。一切業縁。 宿世の一切の業縁を説いて、
発露黒悪。一切罪事。 黒悪の一切の罪事を発露せしめん。
向諸世尊。口自発露。 諸の世尊に向いたてまつり、口に自ら発露せよ。
既発露已。尋時即得。諸仏現前三昧。 既に発露し已りなば、尋いで時に、即ち諸仏現前三昧を得ん。
得是三昧已。見東方阿閦仏。及妙喜国。 是の三昧を得已って、東方の阿閦仏及び妙喜国を
了了分明。如是十方。 見たてまつること了了分明ならん。是の如く十方各、
各見諸仏上妙国土。了了分明。 諸仏の上妙の国土を見たてまつること了了分明ならん。
既見十方仏已。夢象頭上。 既に十方の仏を見たてまつり已って、夢むらく、象の頭の上に
有一金剛人。以金剛杵。遍擬六根。 一りの金剛人有り、金剛の杵を以て遍く六根に擬す。
擬六根已。普賢菩薩。 六根に擬し已りなば、普賢菩薩、
為於行者。説六根清浄。 行者の為に、六根清浄懺悔の法を説かん。
懺悔之法。如是懺悔。一日至三七日。 是の如く懺悔すること、一日より三七日に至らん。
以諸仏現前三昧力故。普賢菩薩。 諸仏現前三昧の力を以ての故に、普賢菩薩の
説法荘厳故。耳漸漸聞障外声。 説法荘厳の故に、耳漸漸に障外の声を聞き、
623
眼漸漸見障外事。鼻漸漸聞障外香。 眼漸漸に障外の事を見、鼻漸漸に障外の香を聞がん。
広説如妙法華経。 広く説くこと妙法華経の如し。
得是六根清浄已。身心歓喜。無諸悪想。 是の六根清浄を得已って、身心歓喜して、諸の悪想無けん。
心純是法。与法相応。 心を是の法に純らにして、法と相応せん。
復更得。百千万億。旋陀羅尼。 復更に百千万億の旋陀羅尼を得、
復更広見。百千万億。無量諸仏。 復更に広く百千万億無量の諸仏を見たてまつらん。
是諸世尊。各申右手。 是の諸の世尊、各右の手を申べて、
摩行者頭。而作是言。 行者の頭を摩で、是の言を作したまわん。
善哉善哉。行大乗者。 善哉善哉、大乗を行ずる者、
発大荘厳心者。念大乗者。 大荘厳の心を発せる者、大乗を念ずる者なり。
我等昔日。発菩提心時。皆亦如是。 我等昔日、菩提心を発せし時、皆亦是の如し。
汝慇懃不失。我等先世。行大乗故。 汝慇懃にして失わざれ。我等先世に、大乗を行ぜしが故に、
今成清浄。正遍知身。 今清浄正遍知の身と成れり。
汝今亦当。勤修不懈。 汝今、亦当に勤修して懈らざるべし。
624
此大乗経典。諸仏宝蔵。 此の大乗経典は、諸仏の宝蔵なり。
十方三世。諸仏眼目。 十方三世の諸仏の眼目なり。
出生三世。諸如来種。 三世の諸の如来を出生する種なり。
持此経者。即持仏身。即行仏事。 此の経を持つ者は、即ち仏身を持ち、即ち仏事を行ずるなり。
当知是人。即是諸仏所使。 当に知るべし、是の人は即ち是れ諸仏の所使なり。
諸仏世尊。衣之所覆。 諸仏世尊の衣に覆われ、
諸仏如来。真実法子。 諸仏如来の真実の法の子なり。
汝行大乗。不断法種。 汝大乗を行じて、法種を断たざれ。
汝今諦観。東方諸仏。 汝今、諦かに東方の諸仏を観じたてまつれ。
説是語時。行者即見。 是の語を説きたもう時、行者即ち、
東方一切。無量世界。 東方の一切無量の世界を見る。
地平如掌。無諸堆阜。 地の平かなること掌の如し。諸の堆阜、
嶽陵荊棘。瑠璃為地。 嶽陵、荊棘無く、瑠璃をもって地と為し、
黄金間側。十方世界。亦復如是。 黄金をもって側を間てたり。十方世界も、亦復是の如し。
見是事已。即見宝樹。 是の事を見已って、即ち宝樹を見ん。
宝樹高妙。五千由旬。 宝樹高妙にして五千由旬なり。
625
其樹常出。黄金白銀。七宝荘厳。 其の樹常に黄金、白銀を出して七宝荘厳せり。
樹下自然。有宝師子座。 樹下に自然に宝の師子座有り。
其師子座。高二千由旬。 其の師子座の高さ、二千由旬ならん。
其座上亦出。百宝光明。 其の座の上に亦、百宝の光明を出さん。
如是諸樹。及余宝座。 是の如く諸樹及び余の宝座、
一一宝座。皆有百宝光明。 一一の宝座に、皆百宝の光明有らん。
如是諸樹。及余宝座。 是の如く諸樹及び余の宝座、
一一宝座。皆有自然。五百白象。 一一の宝座に、皆自然の五百の白象有らん。
象上皆有。普賢菩薩。 象の上に皆、普賢菩薩有さん。
爾時行者。礼諸普賢。而作是言。 爾の時に行者、諸の普賢を礼して、是の言を作せ。
我有何罪。但見宝地。 我何の罪有ってか、但宝地、
宝座。及与宝樹。不見諸仏。 宝座及宝樹を見て、諸仏を見たてまつらざる。
作是語已。一一座上。有一世尊。 是の語を作し已りなば、一一の座の上に、一りの世尊有さん。
端厳微妙。而坐宝座。 端厳微妙にして、宝座に坐したまえり。
626
見諸仏已。心大歓喜。 諸仏を見たてまつり已って、心大いに歓喜して、
復更誦習。大乗経典。 復更に大乗経典を誦習せん。
大乗力故。空中有声。而讃歎言。 大乗の力の故に、空中に声有って、讃歎して言わく、
善哉善哉。善男子。 善哉善哉、善男子、
汝行大乗。功徳因縁。能見諸仏。 汝大乗を行ずる功徳の因縁に、能く諸仏を見たてまつる。
今雖得見。諸仏世尊。爾不能見。 今、諸仏世尊を見たてまつることを得たりと雖も、
釈迦牟尼仏。分身諸仏。及多宝仏塔。 而も釈迦牟尼仏、分身の諸仏及び多宝仏塔を見たてまつること能わず。
聞空中声已。復勤誦習。大乗経典。 空中の声を聞き已って、復勤めて大乗経典を誦習せん。
以誦習大乗方等経故。 大乗方等経を誦習するを以ての故に、
即於夢中。見釈迦牟尼仏。 即ち夢中に於て、釈迦牟尼仏、
与諸大衆。在耆闍崛山。 諸の大衆と耆闍崛山に在して、
説法華経。演一実義。 法華経を説き、一実の義を演べたもうを見ん。
教已懺悔。渇仰欲見。 教え已りなば懺悔し、渇仰して見たてまつらんと欲し、
合掌胡跪。向耆闍崛山。爾作是言。 合掌胡跪して、耆闍崛山に向って、是の言を作せ。
627上-01(8-391B-04)
如来世雄。常在世間。 如来世雄は、常に世間に在す。
愍念我故。為我現身。 我を愍念したもうが故に、我が為に身を現じたまえ。
作是語已。見耆闍崛山。 是の語を作し已って、耆闍崛山を見みるに、
七宝荘厳。無数比丘。声聞大衆。 七宝荘厳して、無数の比丘、声聞、大衆あり。
宝樹行列。宝地平正。復敷妙宝師子之座。 宝樹行列して、宝地平正なり。復妙宝師子の座を敷けり。
釈迦牟尼仏。放眉見光。 釈迦牟尼仏、眉間の光を放ちたもう。
其光遍照。十方世界。 其の光、遍く十方世界を照し、
復過十方。無量世界。 復十方無量の世界を過ぐ。
此光至処。十方分身。釈迦牟尼仏。 此の光の至る処の、十方分身の釈迦牟尼仏、
一時雲集。広説妙法。如妙法華経。 一時に雲集して、広く妙法を説きたもうこと妙法華経の如し。
一一分身仏。身紫金色。 一一の分身の仏、身は紫金の色なり。
身量無辺。坐師子座。 身量無辺にして、師子座に坐したまえり。
百億無量。諸大菩薩。以為眷属。 百億無量の諸大菩薩を以て眷属と為り。
一一菩薩。行同普賢。 一一の菩薩、行、普賢に同じ。
如此十方。無量諸仏。 此の如く十方無量の諸仏、
菩薩眷属。亦復如是。 菩薩の香属も亦復是の如し。
628上-01(8-391B-13)
大衆雲集已。見釈迦牟尼仏。 大衆雲集し已って、釈迦牟尼仏を見たてまつれば、
挙身毛孔。放金色光。 挙身の毛孔より金色の光を放ちたもう。
一一光中。有百億化仏。 一一の光の中に百億の化仏有す。
諸分身仏。放眉間白毫。大人相光。 諸の分身の仏、眉間の白毫大人相の光を放ちたもう。
其光流入。釈迦牟尼仏頂。 其の光、釈迦牟尼仏の頂に流入す。
見此相時。分身諸仏。 此の相を見る時、分身の諸仏
一切毛孔。出金色光。 一切の毛孔より金色の光を出したもう。
一一光中。復有恒河沙。微塵数化仏。 一一の光の中に、復恒河沙微塵数の化仏有す。
爾時普賢菩薩。復放眉間。 爾の時に普賢菩薩、復眉間の
大人相光。入行者心。 大人相の光を放って、行者の心に入れん。
既入心已。行者自憶。 既に心に入り已りなば、行者、自ら
過去無数。百千仏所。 過去無数百千の仏の所にして、
受持読誦。大乗経典。 大乗経典を受持し、読誦せしことを憶し、
自見故身。了了分明。 自ら故の身を見ること、了了分明ならん。
如宿命通。等無有異。 宿命通の如く、等しくして異ること有ること無けん。
豁然大悟。得旋陀羅尼。 豁然として大悟し、旋陀羅尼、
百千万億。諸陀羅尼門。 百千万億の諸の陀羅尼門を得ん。
従三昧起。面見一切。分身諸仏。 三昧より起って、面り一切の分身の諸仏、
衆宝樹下。坐師子牀。 衆の宝樹の下に、師子の牀に坐したまえるを見たてまつらん。
629上-04(8-391B-23)
復見瑠璃地。如蓮華聚。従下方空中踊出。 復瑠璃の地の蓮華聚の如く、下方の空中より踊出し、
一一華間。有微塵数菩薩。結跏趺坐。 一一の華の間に、微塵数の菩薩有って、結跏趺坐するを見ん。
亦見普賢。分身菩薩。 亦普賢の分身の菩薩、
在彼衆中。讃説大乗。 彼の衆の中に在って、大乗を讃説するを見ん。
時諸菩薩。 時に諸の菩薩、
異口同音。教於行者。清浄六根。 異口同音に行者をして六根を清浄ならしめん。
或有説言。汝当念仏。 或は説言有らん、汝当に仏を念ずべし。
或有説言。汝当念法。 或は説言有らん、汝当に法を念ずべし。
或有説言。汝当念僧。 或は説言有らん、汝当に僧を念ずべし。
或有説言。汝当念戒。 或は説言有らん、汝当に戒を念ずべし。
或有説言。汝当念施。 或は説言有らん、汝当に施を念ずべし。
或有説言。汝当念天。 或は説言有らん、汝当に天を念ずべし。
630上-01(8-391C-01)
如此六法。是菩提心。生菩薩法。 此の如き六法は、是れ菩提心なり、菩薩を生ずる法なり。
汝今応当。於諸仏前。 汝今応当に諸仏の前に於て、
発露先罪。至誠懺悔。 先の罪を発露し、至誠に懺悔すべし。
於無量世。眼根因縁。貪著諸色。 無量世に於て、眼根の因縁をもって、諸色に貪著す。
以著色故。貪愛諸塵。 色に著するを以ての故に、諸塵を貪愛す。
以愛塵故。受女人身。 塵を愛するを以ての故に、女人の身を受けて、
世世生処。惑著諸色。 世世に生ずる処、諸色に惑著す。
色壊汝眼。為恩愛好色奴。 色汝が眼を壊って、思愛好色の奴と為る。
故色使汝経歴三界。 故に色汝をして三界を経歴せしむ。
為此弊使。盲無所見。 此の幣使の為に、盲にして見る所無し。
今誦大乗。方等経典。 今大乗の方等経典を誦す。
此経中説。十方諸仏。色身不滅。 此の経の中に十方の諸仏、色身滅せずと説とく。
汝今得見。審実爾不。 汝今見みることを得つ、審実にして爾りや不や。
眼根不善。傷害汝多。 眼根の不善、汝を傷害すること多し。
随順我語。帰向諸仏。釈迦牟尼仏。 我が語に随順して、諸仏、釈迦牟尼仏に帰向したてまつり、
631
説汝眼根。所有罪咎。 汝が眼根の所有の罪咎を説け。
諸仏菩薩。慧眼法水。 諸仏、菩薩の慧限の法水、
願以洗除。令我清浄。 願わくは以て洗除して、我をして清浄ならしめたまえ。
作是語已。遍礼十方仏。 是の語を作し已って、遍く十方の仏を礼し、
向釈迦牟尼仏。大乗経典。復説是言。 釈迦牟尼仏・大乗経典に向いたてまつりて、復是の言を説け。
我今所懺。眼根重罪。 我が今懺する所の、眼根の重罪、
障蔽穢濁。盲無所見。 障蔽穢濁にして、盲にして見る所無し。
願仏大慈。哀愍覆護。 願わくは仏大慈をもって、哀愍覆護したまえ。
普賢菩薩。乗大法船。 普賢菩薩、大法船に乗って、
普渡一切。十方無量。諸菩薩伴。 普く一切の十法無量の、諸の菩薩の伴を渡したもう。
唯願哀愍。 唯願わくは哀愍して、
聴我悔過。眼根不善。悪業障法。 我が眼根の不善悪業障を悔過する法を聴したまえ。
如是三説。五体投地。 是の如く三たび説いて、五体を地に投じ、
正念大乗。心不忘捨。 大乗を正念して、心に忘捨せざれ。
是名懺悔。眼根罪法。 是を眼根の罪を懺悔する法と名づく。
称諸仏名。焼香散華。発大乗意。 諸仏の名を称し、焼香散華して、大乗の意を発し、
632
懸繪幡蓋。説眼過患。懺悔罪者。 繪、幡、蓋を懸けて、眼の過患を説き罪を懺悔せば、
此人現世。見釈迦牟尼仏。 此の人現世に釈迦牟尼仏を見たてまつり、
及見分身。無量諸仏。 及び分身、無量の諸仏を見たてまつり、
阿僧祇劫。不堕悪道。 阿僧祇劫に悪道に堕ちじ。
大乗力故。大乗願故。 大乗の力の故に、大乗の願の故に、
恒与一切。陀羅尼菩薩。共為眷属。 恒に一切の陀羅尼菩薩と共に眷属と為らん。
作是念者。是為正念。 是の念を作す者、是を正念と為す。
若他念者。名為邪念。 若し他念する者を名づけて邪念と為す。
是名眼根。初境界相。 是を眼根初境界の相と名づく。
浄眼根已。復更読誦。大乗経典。 眼根を浄むること已って、復更に大乗経典を読誦し、
昼夜六時。胡跪懺悔。而作是言。 昼夜六時に、胡跪し懺悔して、是の言を作せ。
我今云何。但見釈迦牟尼仏。分身諸仏。 我今云何ぞ、但釈迦牟尼仏、分身の諸仏を見たてまつりて、
不見多宝仏塔。全身舎利。 多宝仏の塔、全身の舎利を見たてまつらざる。
633
多宝仏塔。恒在不滅。 多宝仏の塔は、恒に在して滅したまわず。
我濁悪眼。是故不見。 我濁悪の眼なり、是の故に見たてまつらず。
作是語已。復更懺悔。 是の語を作し已って、復更に懺悔せよ。
過七日已。多宝仏塔。従地涌出。 七日を過ぎ已って、多宝仏の塔、地より涌出したまわん。
釈迦牟尼仏。即以右手。開其塔戸。 釈迦牟尼仏、即ち右の手を以て、其の塔の戸を開きたまわん。
見多宝仏。入普現色身三昧。 多宝仏を見たてまつれば、普現色身三昧に入りたまえり。
一一毛孔。流出恒河沙。微塵数光明。 一一の毛孔より恒河沙微塵数の光明を流出したもう。
一一光明。一一有百千。万億化仏。 一一の光明に、一一に百千万億の化仏有す。
此相現時。行者歓喜。讃偈遶塔。 此の相現ずる時、行者歓喜して、讃偈をもって塔を遶らん。
満七帀已。多宝如来。出大音声讃言。 七帀を満て已りなば、多宝如来、大音声を出して、讃めて言わく、
法子。汝今真実。能行大乗。 法の子、汝、今真実に能く大乗を行じ、
随順普賢。眼根懺悔。 普賢に随順して、眼根懺悔す。
634
以是因縁。我至汝所。為汝証明。 是の因縁を以て、我、汝が所に至って、汝が証明を為さん。
説是語已讃言。 是の語を説き已って、讃めて言わく、
善哉善哉。釈迦牟尼仏。能説大法。 善哉善哉、釈迦牟尼仏、能く大法を説き、
雨大法雨。成就濁悪。諸衆生等。 大法の雨を雨らして、濁悪の諸の衆生等を成就したもう。
是時行者。見多宝仏塔已。 是の時に行者、多宝仏塔を見已って、
復至普賢菩薩所。合掌敬礼白言。 復普賢菩薩の所に至って、合掌し敬礼して白して言さく、
大師教我悔過。 大師、我に悔過を教えたまえ。
普賢復言。 普賢復言わく、
汝於多劫中。耳根因縁。随逐外声。 汝、多劫の中に於て、耳根の因縁をもって外声に随遂し、
聞妙音時。心生惑著。 妙音を聞く時は心に惑著を生じ、
聞悪声時。起百八種。煩悩賊害。 悪声を聞く時は百八種の煩悩の賊害を起す。
如此悪耳。報得悪事。 此の如き悪耳の報、悪事を得。
恒聞悪声。生諸攀縁。 恒に悪声を聞いて諸の攀縁を生ず。
顛倒聴故。当堕悪道。 顛倒して聴くが故に、当に悪道、
635
辺地邪見。不聞法処。 辺地、邪見の、法を聞かざる処に堕すべし。
汝於今日。誦持大乗。功徳海蔵。 汝、今日に於て、大乗の功徳海蔵を誦持す。
以是因縁故。見十方仏。 是の因縁を以ての故に、十方の仏を見たてまつる。
多宝仏塔。現為汝証。 多宝仏塔は現じて、汝が証と為りたもう。
汝応自当。説己過悪。懺悔諸罪。 汝自ら当に己が過悪を説いて、諸罪を懺悔すべし。
是時行者。聞是語已。 是の時行者、是の語を聞き已って、
復更合掌。五体投地。而作是言。 復更に合掌して、五体を地に投じて、是の言を作せ。
正遍知世尊。現為我証。 正遍知世尊、現じて我が証と為りたまえ。
方等経典。為慈悲主。 方等経典は、為れ慈悲の主なり。
唯願観我。聴我所説。 唯願わくは我を観、我が所説を聴きたまえ。
我従多劫。乃至今身。 我多劫より乃至今身まで、
耳根因縁。聞声惑著。 耳根の因縁をもって声を聞いて惑著すること、
如膠著草。 膠の草に著くが如じ。
聞諸悪声時。起煩悩毒。 諸の悪声を聞く時は、煩悩の毒を起し、
処処惑著。無暫停時。 処処に惑著して暫くも停まる時無し。
636
出此弊声。労我識神。 此の弊声を出して、我が識神を労し、
墜堕三塗。今始覚知。 三塗に墜堕せしむ。今始めて覚知して、
向諸世尊。発露懺悔。 諸の世尊に向いたてまつりて発露して戯悔す。
既懺悔已。 既に懺悔し已って、
見多宝仏。放大光明。 多宝仏の大光明を放ちたもうを見たてまつらん。
其光金色。遍照東方。及十方界。 其の光、金色にして、遍く東方、及び十方界を照したもう。
無量諸仏。身真金色。 無量の諸仏、身真金の色なり。
東方空中。作是唱言。 東方の空中に、是の唱言を作す。
此仏世尊。号曰善徳。 此に仏世尊まします。号を善徳と曰う。
亦有無数。分身諸仏。 亦無数の分身の諸仏有り、
坐宝樹下。師子座上。 宝樹下の師子座上に坐して、結跏趺坐したまえり。
結跏趺坐。是諸世尊。一切皆入。 是の諸の世尊の一切皆普現色身三昧に入りたまえる、
普現色身三昧。皆作是言讃言。 皆是の言を作して、讃めて言わく、
善哉善哉。善男子。 善哉善哉、善男子、
汝今読誦。大乗経典。 汝今、大乗経典を読誦す。
汝所誦者。是仏境界。 汝が読誦する所は是れ仏の境界なり。
637
説是語已。普賢菩薩。 是の語を説き已りなば、普賢菩薩、
復更為説。懺悔之法。 復更に為に懺悔の法を説かん。
汝於先世。無量劫中。 汝、先世無量劫の中に於て、
以貪香故。分別諸識。 香を貪るを以ての故に、諸識を分別するに、
処処貪著。堕落生死。 処処に貪著して、生死に堕落せり。
汝今応当。観大乗因。 汝今、応当に大乗の因を観ずべし。
大乗因者。諸法実相。 大乗の因とは諸法実相なり。
聞是語已。五体投地。復更懺悔。 是の語を聞き已って、五体を地に投じて、復更に懺悔せよ。
既懺悔已。当作是語。 既に懺悔し已って、当に是の語を作すべし。
南無釈迦牟尼仏。南無多宝仏塔。 南無釈迦牟尼仏、南無多宝仏塔、
南無十方釈迦牟尼仏。分身諸仏。 南無十方釈迦牟尼仏分身諸仏。
作是語已。遍礼十方仏。 是の語を作し已って、遍く十方の仏を礼したてまつれ。
南無東方善徳仏。及分身諸仏。 南無東方善徳仏及び分身諸仏。
如眼所見。一一心礼。 眼に見る所の如くして、 一一に心をもって礼し、
638
香華供養。供養畢已。 香華をもって供養し、供養すること畢已って、
胡跪合掌。以種種偈。讃歎諸仏。 胡跪し合掌して、種種の偈を以て諸仏を讃歎したてまつれ。
既讃歎已。説十悪業。懺悔諸罪。 既に讃歎し已って、十悪業を説いて、諸罪を懺悔せよ。
既懺悔已。而作是言。 既に懺悔し已って、是の言を作せ。
我於先世。無量劫時。 我、先世無量劫の中に於て、
貪香味触。造作衆悪。 香味触を貪って、衆悪を造作せり。
以是因縁。無量世来。 是の因縁を以て、無量世より来、
恒受地獄。餓鬼畜生。 恒に地獄、餓鬼、畜生、
辺地邪見。諸不善身。 辺地、邪見の諸の不善の身を受く。
如此悪業。今日発露。 此の如き悪業、今日発露し、
帰向諸仏。正法之王。説罪懺悔。 諸仏正法の王に帰向したてまつりて、説罪懺悔す。
既懺悔已。身心不懈。 既に懺悔し已って、身心懈らずして、
復更読誦。大乗経典。 復更に大乗経典を読誦せよ。
大乗力故。空中有声告言。 大乗の力の故に、空中に声有って告げて言わく、
法子。 法の子、
639
汝今応当。向十方仏。 汝今、応当に十方の仏に向いたてまつりて、
讃説大乗法。於諸仏前。 大乗の法を讃説し、諸仏の前に於て、
自説己過。 自ら己が過を説くべし。
諸仏如来。是汝慈父。 諸仏如来は、是れ汝が慈父なり。
汝当自説。舌根所作。不善悪業。 汝当に自ら舌根の所作の不善悪業を説くべし。
此舌根者。動悪業想。 此の舌根は、悪業の想に動ぜられて、
妄言綺語。悪口両舌。誹謗妄語。 妄言綺語、悪口両舌、誹謗妄語、
讃歎邪見語。説無益語。 邪見の語を讃歎し、無益の語を説く。
如是衆多。諸雑悪業。 是の如き衆多の、諸の雑悪業、
闘遘壊乱。法説非法。 闘遘壊乱し、法を非法と説く。
如是衆罪。今悉懺悔。 是の如き衆罪を、今悉く懺悔す。
諸世雄前。作是語已。 諸の世雄の前にして、是の語を作し已って、
五体投地。遍礼十方仏。 五体を地に投じて、遍く十方の仏を礼したてまつり、
合掌長跪。当作是語。 合掌長跪して、当に是の語を作すべし。
此舌過患。無量無辺。 此の舌の過患無量無辺なり。
諸悪業刺。従舌根出。 諸の悪業の刺は、舌根より出ず。
640
断正法輪。従此舌起。 正法輪を断ずること、此の舌より起る。
如此悪舌。断功徳種。 此の如き悪舌は、功徳の種を断ず。
於非義中。多端強説。 非義の中に於て、多端に強いて説き、
讃歎邪見。如火益薪。 邪見を讃歎すること、火に薪を益すが如し。
猶如猛火。傷害衆生。 猶、猛火の、衆生を傷害するが如し。
如飲毒者。無瘡疣死。 毒を飲のめる者の、瘡疣無なくして死するが如し。
如此罪報。悪邪不善。 此の如き罪報、悪邪不善にして、
当堕悪道。百劫千劫。 当に悪道に堕すること、百劫千劫なるべし。
以妄語故。堕大地獄。 妄語を以ての故に、大地獄に堕す。
我今帰向。南方諸仏。 我今、南方の諸仏に帰向したてまつりて、
発露過罪。 過罪を発露せん。
作是念時。空中有声。 是の念を作す時、空中に声有らん。
南方有仏。名栴檀徳。 南方に仏有す、栴檀徳と名づけたてまつる。
彼仏亦有。無量分身。 彼の仏に亦無量の分身有す、
一切諸仏。皆説大乗。除滅罪悪。 一切の諸仏、皆大乗を説といて、罪悪を除滅したもう。
如此衆罪。今向十方。無量諸仏。 此の如き衆罪を、今十方無量の諸仏、
641
大悲世尊。 大悲世尊に向いたてまつりて、
発露黒悪。誠心懺悔。 黒悪を発露し、誠心に懺悔せよ。
説是語已。五体投地。 是の語を説き已りなば、五体を地に投じて、
復礼諸仏。 復諸仏を礼したてまつれ。
是時諸仏。復放光明。照行者身。 是の時に諸仏、復光明を放って行者の身を照して、
令其身心。自然歓喜。 其の身心をして自然に歓喜せしめ、
発大慈悲。普念一切。 大慈悲を発し普く一切を念ぜじめん。
爾時諸仏。広為行者。 爾の時に諸仏、広く行者の為に、
説大慈悲。及喜捨法。 大慈悲及び喜捨の法を説き、
亦教愛語。修六和敬。 亦愛語を教え、六和敬を修せしめん。
爾時行者。聞此教勅已。 爾の時に行者、此の教勅を聞き已って、
心大歓喜。復更誦習。 心大いに歓喜して、復更に誦習して、
終不懈息。空中復有。 終に懈息せざらん。空中に復、
微妙音声。出如是言。 微妙の音声有って、是の如き言を出さん。
汝今応当。身心懺悔。 汝今、応当に身心に懺悔すべし。
身者殺盗婬。心者念諸不善。 身とは殺・盗・姪、心とは諸の不善を念ずるなり。
642
造十悪業。及五無間。 十悪業及び五無間を造ること、
猶如猿猴。亦如黐膠。処処貪著。 猶猿猴の如く、亦黐膠の如く、処処に貪著して、
遍至一切。六情根中。 遍く一切六情根の中に至る。
此六根業。枝条華葉。悉満三界。 此の六根の業、枝条華葉悉く三界、
二十五有。一切生処。 二十五有、 一切の生処に満てり。
亦能増長。無明老死。十二苦事。 亦能く無明老死・十二の苦事を増長す。
八邪八難。無不経中。 八邪八難、中に経ざること無し。
汝今応当。懺悔如是。悪不善業。 汝今、応当に是の如き悪不善の業を懺悔すべし。
爾時行者。聞此語已。 爾の時に行者、此この語を聞き已って、
問空中声。 空中の声に問いたてまつる。
我今何処。行懺悔法。 我今、何れの処にしてか懺悔の法を行ぜん。
時空中声。即説是語。 時に空中の声、即ち是の語を説かん。
釈迦牟尼仏。名毘盧遮那。辺一切処。 釈迦牟尼仏を毘盧遮那遍一切処と名づけたてまつる。
643
其仏住処。名常寂光。 其の仏の住処を常寂光と名づく。
常波羅蜜。所摂成処。 常波羅蜜に摂成せられたる処、
我波羅蜜。所安立処。 我波羅蜜に安立せられたる処、
浄波羅蜜。滅有相処。 浄波羅蜜の有相を滅せる処、
楽波羅蜜。不住身心相処。 楽波羅蜜の身心の相に住せざる処、
不見有無。諸法相処。 有無の諸法の相を見ざる処、
如寂解脱。乃至般若波羅蜜。 如寂解脱、乃至般若波羅蜜なり。
是色常住法故。如是応当。 是の色常住の法なるが故に。是の如く、
観十方仏。 応当に十方の仏を観じたてまつるべし。
時十方仏。各申右手。 時に十方の仏、各右の手を申べて、
摩行者頭。作如是言。 行者の頭を摩でて、是の如き言を作したまわん。
善哉善哉。善男子。 善哉善哉、善男子、
汝今読誦。大乗経故。 汝今大乗経を読誦するが故に、
十方諸仏。説懺悔法。 十方の諸仏、懺悔の法を説きたもう。
菩薩所行。不断結使。 菩薩の所行は、結使を断ぜず、
不住使海。観心無心。 使海に住せず、心を観ずるに心無し。
644
従顛倒想起。 顛倒の想より起る。
如此相心。従妄想起。 此の如き相の心は、妄想より起る。
如空中風。無依止処。 空中の風の依止する処無きが如し。
如是法相。不生不没。 是の如き法相は生ぜず没せず。
何者是罪。何者是福。 何者か是れ罪、何者か是れ福、
我心自空。罪福無主。 我が心自ら空なれば罪、福も主無し。
一切法如是。無住無壊。 一切の法は是の如く、住無く壊無し。
如是懺悔。観心無心。 是の如き懺悔は、心を観ずるに心無し。
法不住法中。諸法解脱。 法も法の中に住せず。諸法は解脱なり、
滅諦。寂静。 滅諦なり、寂静なり。
如是相者。名大懺悔。 是の如き相をば、大懺悔と名づけ、
名大荘厳懺悔。名無罪相懺悔。 大荘厳懺悔と名づけ、無罪相懺悔と名づけ、
名破壊心識。 破壊心識と名づく。
行此懺悔者。身心清浄。 此の懺悔を行ずる者は、身心清浄にして、
不住法中。猶如流水。 法の中に住せざること、猶流水の如し。
念念之中。得見普賢菩薩。 念念の中に、普賢菩薩
及十方仏。 及び十方の仏を見たてまつることを得ん。
時諸世尊。以大悲光明。 時に諸の世尊、大悲光明を以て、
645
為於行者。説無相法。 行者の為に無相の法を説きたもう。
行者聞説。第一義空。 行者、第一義空を説きたもうを聞きたてまつらん。
行者聞已。心不驚怖。 行者聞き已って、心驚怖せず。
応時即入。菩薩正位。 時に応じて即ち菩薩の正位に入らん。
仏告阿難。 仏、阿難に告げたまわく、
如是行者。名為懺悔。 是の如く行ずるをば、名づけて懺悔と為す。
此懺悔者。十方諸仏。 此の懺悔とは、十方の諸仏、
諸大菩薩。所行懺悔法。 諸大菩薩の所行の懺悔の法なり。
仏告阿難。 仏、阿難に告げたまわく、
仏滅度後。仏諸弟子。 仏の滅度の後、仏の諸の弟子、
若有懺悔。悪不善業。 若し悪不善業を懺悔すること有らば、
但当誦読。大乗経典。 但当に大乗経典を誦読すべし。
此方等経。是諸仏眼。 此の方等経は是れ諸仏の眼なり。
諸仏因是。得具五眼。 諸仏は是に因って五眼を具することを得たまえり。
仏三種身。従方等生。 仏の三種の身は、方等より生ず。
是大法印。印涅槃海。 是れ大法印なり。涅槃海を印す。
如此海中。能生三種。仏清浄身。 此の如き海中より、能く三種の仏の清浄の身を生ず。
646
此三種身。人天福田。応供中最。 此の三種の身は、人、天の福田、応供の中の最なり。
其有誦読。大乗方等経典。 其れ大乗方等経典を誦読すること有らば、
当知此人。具仏功徳。 当に知るべし、此の人は、仏の功徳を具し、
諸悪永滅。従仏慧生。 諸悪永く滅して、仏慧より生ずるなり。
爾時世尊。而説偈言 爾の時に世尊、而も偈を説いて言わく、
若有眼根悪 業障眼不浄 若し眼根の悪有って 業障の眼不浄ならば
但当誦大乗 思念第一義 但当に大乗を誦し 第一義を思念すべし
是名懺悔眼 尽諸不善業 是を眼を懺悔して 諸の不善業を尽すと名づく
耳根聞乱声 壊乱和合義 耳根は乱声を聞いて 和合の義を壊乱す
由是起狂心 猶如癡猿猴 是に由って狂心を起すこと 猶癡なる猿猴の如し
但当誦大乗 観法空無相 但当に大乗を誦し 法の空無相を観ずべし
永尽一切悪 天耳聞十方 永く一切の悪を尽して 天耳をもって十方を聞かん
647
鼻根著諸香 随染起諸触 鼻根は諸香に著して 染に随って諸の触を起す
如此狂惑鼻 随染生諸塵 此の如き狂惑の鼻 染に随って諸塵を生ず
若誦大乗経 観法如実際 若し大乗経を誦し 法の如実際を観ぜば
永離諸悪業 後世不復生 永く諸の悪業を離れて 後世に復生ぜじ
舌根起五種 悪口不善業 舌根は五種の 悪口の不善業を起す
若欲自調順 応勤修慈悲 若し自ら調順せんと欲せば 応に勤めて慈悲を修し
思法真寂義 無諸分別想 法の真寂の義を思って 諸の分別の想無かるべし
心根如猿猴 無有暫停時 心根は猿猴の如くにして 暫くも停まる時有ること無し
若欲折伏者 当勤誦大乗 若し折伏せんと欲せば 当に勤めて大乗を誦し
念仏大覚身 力無畏所成 仏の大覚身 力無畏の所成を念じたてまつるべし
身為機関主 如塵随風転 身は為れ機関の主 塵の風に随って転ずるが如し
六賊遊戯中 自在無罣礙 六賊中に遊戯して 自在にして罣礙無し
648
若欲滅此悪 永離諸塵労 若し此の悪を滅して 永く諸の塵労を離れ
常処涅槃城 安楽心憺怕 常に涅槃の城に処し 安楽にして心憺怕ならんと欲せば
当誦大乗経 念諸菩薩母 当に大乗経を誦して 諸の菩薩の母を念ずべし
無量勝方便 従思実相得 無量の勝方便は 実相を思うに従って得
如此等六法 名為六情根 此の如き等の六法を 名づけて六情根と為す
一切業障海 皆従妄想生 一切の業障海は 皆妄想より生ず
若欲懺悔者 端坐思実相 若もし懺悔せんと欲せば 端坐して実相を思え
衆罪如霜露 慧日能消除 衆罪は霜露の如し 慧日能く消除す
是故応至心 懺悔六情根 是の故に至心に 六情根を懺悔すべし
説是偈已。仏告阿難。 是の偈を説と已って、仏、阿難に告げたまわく、
汝今持是。懺悔六根。 汝今、是の六根を懺悔し、
観普賢菩薩法。普為十方。 普賢菩薩を観ずる法を持って、
諸天世人。広分別説。 普く十方の諸天、世人の為に、広く分別して説け。
649
仏滅度後。仏諸弟子。 仏の滅度の後、仏の諸の弟子、
若有受持。読誦解説。方等経典。 若し方等経典を受持し、読誦し、解説すること有らば、
応於静処。若塚間。若樹下。 応に静処の若しは塚間、若しは樹下、
阿練若処。読誦方等。思大乗義。 阿練若処に於て、方等を読誦し、大乗の義を思うべし。
念力強故。得見我身。及多宝仏塔。 念力強きが故に、我が身及び多宝仏塔、
十方分身。無量諸仏。普賢菩薩。 十方分身の無量の諸仏、普賢菩薩、
文殊師利菩薩。薬王菩薩。薬上菩薩。 文殊師利菩薩、薬王菩薩、薬上菩薩を見たてまつることを得ん。
恭敬法故。持諸妙華。住立空中。 法を恭敬するが故に、諸の妙華を持って空中に住立し、
讃歎恭敬。行持法者。 行持法の者を讃歎し恭敬せん。
但誦大乗。方等経故。 但大乗方等経を誦するが故に、
諸仏菩薩。昼夜供養。是持法者。 諸仏、菩薩、昼夜に是の持法の者を供養したまわん。
仏告阿難。 仏、阿難に告げたまわく、
我与賢劫。諸菩薩。及十方仏。 我、賢劫の諸の菩薩及び十方の仏と、
因思大乗。真実義故。 大乗真実の義を思うに因るが故に、
650
除却百万億。阿僧祇劫。 百万億阿僧祇劫の生死の罪を除却しき。
生死之罪因此勝妙。懺悔法故。 此の勝妙の懺悔の法に因るが故に、
今於十方。各得為仏。 今十方に於て、各仏と為ることを得たり。
若欲疾成。阿耨多羅三藐三菩提者。 若し疾く阿耨多羅三藐三菩提を成ぜんと欲せん者、
若欲現身。見十方仏。及普賢菩薩。 若もし現身に十方の仏及び普賢菩薩を見んと欲せば、
当浄澡浴。著浄潔衣。 当に浄く操浴して、浄潔の衣を著、
焼衆名香。在空閑処。 衆の名香を焼き、空閑の処に在るべし。
応当誦読。大乗経典。思大乗義。 応当に大乗経典を誦読し、大乗の義を思うべし。
仏告阿難。 仏、阿難に告げたまわく、
若有衆生。欲観普賢菩薩者。 若し衆生有って、普賢菩薩を観ぜんと欲せん者は、
当作是観。 当に是の観を作すべし。
作是観者。是名正観。 是の観を作す者、是を正観と名づく。
若他観者。是名邪観。 若し他観する者、是を邪観と名づく。
仏滅度後。仏諸弟子。随順仏語。 仏の滅度の後、仏の諸の弟子、仏の語に随順して、
651
行懺悔者。当知是人。 懺悔を行ぜん者は、当に知るべし、
行普賢行。 是の人は普賢の行を行ずるなり。
行普賢行者。不見悪相。及悪業報。 普賢の行を行ぜん者は、悪相及び悪業報を見じ。
其有衆生。昼夜六時。礼十方仏。 其れ衆生有って、昼夜六時に十方の仏を礼したてまつり、
誦大乗経。思第一義。甚深空法。 大乗経を誦し、第一義甚深の空法を思わば、
一弾指頃。除却百万億。 一弾指の頃に百万億
阿僧祇劫。生死之罪。 阿僧祇劫の生死の罪を除却せん。
行此行者。真是仏子。従諸仏生。 此の行を行ずる者は、真に是れ仏子なり、諸仏より生ず。
十方諸仏。及諸菩薩。為其和上。 十方の諸仏及び諸の菩薩、其の和上と為りたまわん。
是名具足。菩薩戒者。 是を菩薩戒を具足せる者と名づく。
不須羯磨自然成就。 羯磨を須いずして、自然に成就し、
応受一切。人天供養。 応に一切人、天の供養を受くべし。
爾時行者。若欲具足。菩薩戒者。 爾の時に行者、若し菩薩戒を具足せんと欲せば、
応当合掌。在空閑処。 応当に合掌して、空閑の処に在って、
遍礼十方仏。 遍く十方の仏を礼したてまつり、
652
懺悔諸罪。自説己過。 諸罪を懺悔し、自ら己が過を説くべし。
然後静処。白十方仏。 然して後、静かなる処にして、十方の仏に白して、
而作是言。 是の言を作せ。
諸仏世尊。常住在世。 諸仏世尊は、常に世に住在したもう。
我業障故。雖信方等。 我業障の故に、方等を信ずと雖も、
見仏不了。今帰依仏。 仏を見たてまつること了かならず。今、仏に帰依したてまつる。
唯願釈迦牟尼仏。正遍知世尊。為我和上。 唯願わくは、釈迦牟尼仏・正遍知世尊、我が和上と為りたまえ。
文殊師利。具大悲者。願以智慧。 文殊師利・具大悲者、願わくは智慧を以て、
授我清浄。諸菩薩法。 我に清浄の諸の菩薩の法を授けたまえ。
弥勤菩薩。勝大慈日。憐愍我故。 弥勤菩薩・勝大慈日、我を憐愍するが故に、
亦応聴我。受菩薩法。 亦我が菩薩の法を受くることを聴したもうべし。
十方諸仏。現為我証。 十方の諸仏、現じて我が証と為りたまえ。
諸大菩薩。各称其名。 諸大菩薩、各其の名を称して、
是勝大士。覆護衆生。助護我等。 是の勝大士、衆生を覆護し、我等を助護したまえ。
今日受持。方等経典。 今日、方等経典を受持したてまつる。
653
乃至失命。説堕地獄。受無量苦。 乃至失命し、設い地獄に堕ちて無量の苦を受くとも、
終不毀謗。諸仏正法。 終に諸仏の正法を毀謗せじ。
以是因縁。功徳力故。 是の因縁、功徳力を以ての故に、
今釈迦牟尼仏。為我和上。 今釈迦牟尼仏、我が和上と為りたまえ。
文殊師利。為我阿闍梨。 文殊師利、我が阿闍梨と為りたまえ。
当来弥勒。願授我法。 当来の弥勒、願わくは我に法を授けたまえ。
十方諸仏。願証知我。 十方の諸仏、願わくは我を証知したまえ。
大徳諸菩薩。願為我伴。 大徳の諸の菩薩、願わくは我が伴と為りたまえ。
我今依大乗経典。甚深妙義。 我今、大乗経典甚深の妙義に依って、
帰依仏。帰依法。帰依僧。 仏に帰依し、法に帰依し、僧に帰依したてまつる。
如是三説。帰依三宝已。 是の如く三たび説け。三宝に帰依したてまつること已って、
次当自誓。受六重法。 次に当に自ら誓って、六重の法を受くべし。
受六重法已。次当勤修。無礙梵行。 六重の法を受け已って、次に当に勤めて無礙の梵行を修し、
発曠済心。受八重法。 曠済の心を発し、八重の法を受くべし。
654
立此誓已。於空閑処。 此の誓を立て已って、空閑の処に於て、
焼衆名香。散華供養。 衆の名香を焼き華を散じて、
一切諸仏。及諸菩薩。 一切の諸仏、及び諸の菩薩、
大乗方等。而作是言。 大乗方等に供養したてまつりて、是の言を作せ。
我於今日。発菩提心。 我今日に於て、菩提心を発しつ。
以此功徳。普度一切。 此の功徳を以て、普く一切を度せん。
作是語已。復更頂礼。 是の語を作し已って、復更に、
一切諸仏。及諸菩薩。思方等義。 一切の諸仏及び諸の菩薩を頂礼し、方等の義を思え。
一日乃至三七日。若出家在家。 一日乃至三七日、若しは出家、在家にても、
不須和上。不用諸師。不白羯磨。 和上を須いず、諸師を用いず、白羯磨せざれども、
受持読誦。大乗経典力故。 大乗経典を受持し、読誦する力の故に、
普賢菩薩。助発行故。 普賢菩薩の助発行の故に、
是十方諸仏。正法眼目。 是れ十方の諸仏の正法の眼目なれば、
因由是法。自然成就。五分法身。 是の法に因由って、自然に五分法身、
戒定慧解脱。解脱知見。 戒・定・慧・解脱・解脱知見を成就す。
諸仏如来。従此法生。 諸仏如来は此の法より生じ、
655
於大乗経。得受記莂。 大乗経に於て記莂を受くることを得たまえり。
是故智者。若声聞。毀破三帰。及五戒。 是の故に智者、若し声聞の三帰及び五戒、
八戒。比丘戒。比丘尼戒。沙弥戒。 八戒、比丘戒、比丘尼戒、沙弥戒、
沙弥尼戒。式叉摩尼戒。及諸威儀。 沙弥尼戒、式叉摩尼戒、及び諸の威儀を毀破し、
愚癡不善。悪邪心故。 愚癡、不善、悪邪心の故に、
多犯諸戒。及威儀法。 多く諸の戒及び威儀の法を犯さん。
若欲除滅。令無過患。 若し除滅して過患無からしめ、
還為比丘。具沙門法。 還って比丘と為って沙門の法を具せんと欲せば、
当勤修読。方等経典。 当に勤修して方等経典を読み、
思第一義。甚深空法。 第一義甚深の空法を思って、
令此空慧。与心相応。 此の空慧をして心と相応せしむべし。
当知此人。於念念頃。 当に知るべし、此の人は念念の頃に於て、
一切罪垢。永尽無余。 一切の罪垢永く尽きて余無けん。
是名具足。沙門法戒。具諸威儀。 是を沙門の法戒を具足し、諸の威儀を具すと名づく。
応受人天。一切供養。 応に人、天一切の供養を受くべし。
656
若優婆塞。犯諸威儀。 若し優婆塞、諸の威儀を犯し、
作不善事。作不善事者。 不善の事を作さん。不善の事を作すとは、
所謂説仏法過悪。論説四衆。所犯悪事。 所謂仏法の過悪を説き、四衆の所犯の悪事を論説し、
偸盗婬妷。無有慙愧。 偸盗、婬妷にして、慙愧有ること無きなり。
若欲懺悔。滅諸罪者。 若し懺悔して、諸罪を滅せんと欲せば、
当勤読誦。方等経典。思第一義。 当に勤めて、方等経典を読誦し、第一義を思うべし。
若王者。大臣。婆羅門。居士。長者。 若し王者、大臣、婆羅門、居士、長者、
宰官。是諸人等。貪求無厭。 宰官、是の諸人等、貪求して厭くこと無く、
作五逆罪。謗方等経。具十悪業。 五逆罪を作り、方等経を謗じ、十悪業を具せん。
是大悪報。応堕悪道。過於暴雨。 是の大悪報、応に悪道に堕つべきこと、暴雨にも過ぎん。
必定当堕。阿鼻地獄。 必定して当に、阿鼻地獄に堕つべし。
若欲滅除。此業障者。 若し此の業障を減除せんと欲せば、
応生慙愧。改悔諸罪。 応に慙愧を生じて、諸罪を改悔すべし。
仏言。 仏の言わく、
云何名。刹利。居士。懺悔法。 云何なるをか、刹利、居士の懺悔の法と名づくる。
刹利。居士。懺悔法者。 刹利、居士の懺悔の法とは、
657
但当正心。不謗三宝。 但当に正心にして三宝を謗ぜず、
不障出家。不為梵行人。作悪留難。 出家を障えず、梵行人の為に悪留難を作さざるべし。
応当繋念。修六念法。 応当に繋念して、六念の法を修すべし。
亦当供給供養。持大乗者。可必礼拝。 亦当に、大乗を持つ者を供給し供養し、必ず礼拝すべし。
応当憶念。甚深経法。第一義空。 応当に、甚深の経法、第一義空を憶念すべし。
思是法者。是名刹利。 是の法を思う者、是を刹利、
居士。修第一懺悔。 居士の第一の懺悔を修すと名づく。
第二懺悔者。孝養父母。恭敬師長。 第二の懺悔とは、父母に孝養し、師長を恭敬する、
是名修第二懺悔法。 是を第二の懺悔の法を修すと名づく。
第三懺悔者。正法治国。不邪枉人民。 第三の懺悔とは、正法をもって国を治め、人民を邪枉せざる、
是名修第三懺悔。 是を第三の懺悔を修すと名づく。
第四懺悔者。於六斎日。勅諸境内。 第四の懺悔とは、六斎日に於て、諸の境内に勅して、
力所及処。令行不殺。修如此法。 力の及ぶ所に処して、不殺を行ぜしめ、此の如き法を修する、
658
是名修第四懺悔。 是を第四の懺悔を修すと名づく。
第五懺悔者。但当深信因果。 第五の懺悔とは、但当に深く因果を信じ、
信一実道。知仏不滅。 一実の道を信じ、仏は滅したまわずと知るべし。
是名修第五懺悔。 是を第五の懺悔を修すと名づく。
仏告阿難。 仏、阿難に告げたまわく、
於未来世。若有修習。如此懺悔法時。 未来世に於て、若し此の如き懺悔の法を修習すること有らん時、
当知此人。著慙愧服。諸仏護助。 当に知るべし、此の人は慙愧の服を著、諸仏に護助せられ、
不久当成。阿耨多羅三藐三菩提。 久しからずして当に阿耨多羅三藐三菩提を成ずべし。
説是語時。十千天子。得法眼浄。 是の語を説きたもう時、十千の天子は、法眼浄を得、
弥勒菩薩等。諸大菩薩。及以阿難。 弥勒菩薩等の諸大菩薩、及以阿難は、
聞仏所説。歓喜奉行。 仏の所説を聞きたてまつりて、歓喜し奉行しき。